〈むかしみらい〉東京クロニクル
TOKYO chronicles

|2016.09.21

女将さんの、底力。


このまちの、あの店には、温かな笑顔と、さりげない心配りでもてなしてくれる女将がいる。
客のことも、店のことも、その繁栄を願い、表で裏で勤めるその姿をご紹介。
 

「割烹 や満登」女将 成川祐子 -リニューアルの成功を支える-


飲食店の経営、プロデュース業を一代で興した女社長。「や満登」四代目に嫁ぐ前の、祐子さんの職業である。四代目と結婚したのは、平成24年。「何も分からず不安一杯の中で現場に出てみると、『や満登』は埋もれている宝がたくさんあるのに、演出の仕方が上手くないなと感じました。そこで『私の経験の集大成にしよう!』と腹を決めて、思い切って旦那さんに店内の全面改装を勧めたんです」。

とはいえ、「や満登」は三代目の時代。ご主人である四代目の若旦那の意見がおいそれと通るはずもなかった。「来る日も来る日もお義父さんを説得しました。そうして以前、私が仕事でお世話になった、ペニンシュラホテルを手掛けた橋本夕紀夫先生にデザインをお願いすることにしました。偶然にもその年が数字の1が3つも並ぶ、リスタートにふさわしい創業111年目でした。そしてお義父さんの誕生日をリニューアルオープン日に決め、夫婦二人でまっしぐらに走りました」。

次に宣伝活動の強化、システムの効率化、経理の見直し、明確な店の売りとコンセプトを打ち出し、メニューや器も変えた。そして2年が経ち、ようやく各ポジションのスタッフが育ってきた。
「今は四代目の旦那さんの時代です。土台作りという私の仕事は終わりました。今は常連様の接待や、お声をかけていただいたときに女将として着物でお店に出ています」

今では旦那さんの努力と従業員のやる気のおかげで、売上げが以前の七倍に伸び、「やっと三代目に認めてもらうことができた」と、笑顔で話す祐子さん。「義父は『今日もお客さんでいっぱいだね』と、毎日嬉しそうですよ」。

■割烹 や満登
住所: 中央区八重洲1-7-4 失満登ビルB1
TEL: 03-3271-2491
営業時間: 11:00〜13:30LO、17:00〜21:30LO

定休日: 土曜・日曜・祝日
WEBサイト: http://nihombashi-yamato.jp/

「栄一」女将 末吉晴子 -なんでもやるのが、私の仕事です-


まもなく京橋で開業した焼き鳥「栄一」の一日は、朝絞めた丸鶏を解体することから始まる。そして仕込み。鶏肉を串に刺すのはご主人や従業員の仕事である。女将の末吉晴子さんは、店の上の住まいで朝6時半に起きると、ご主人の朝食を準備し、子どもたちのお弁当を作り、階下の店に降りてくる。
「それから仕込みを手伝います。私の担当は鶉の卵。1箱12個入りのものを30箱。それらを茹でて1個ずつ殻を剥きます」

仕込みが終わったら、自宅でようやく朝食。昼の営業が始まるとホールで働き、その後従業員たちのお昼の賄いづくり。夜の営業が終わると、夜食の賄いもつくる。
「その間に掃除をしたり。なんでもやるのが、私の仕事です」

生まれは中央区新川。かつての越前堀。女将さんが嫁いで来た昭和51年頃の「栄一」は、いまの店舗脇の路地の木造二階屋で、お舅さんやお姑さんらが店を切り盛りしていた。
「姑には『店に子どもを出してはだめ。お客さんが現実にもどるから』と、よく言われていましたね」

そのお姑さんが倒れて、勤め人だったご主人が焼き鳥店を継いだ。そして月日が流れ、先代夫婦が亡くなり、店舗を路地裏から通りに面した場所に新築した。いまは夫婦とご主人の弟さん、息子夫婦らと店に立つ。焼き鳥店の女将さん歴も30数年になった。その間、京橋もずいぶん変わった。
「姑が店に出ていた頃は、このあたりも住んでいる人がたくさんいました。それがみんな郊外に引っ越してしまって。お店はあっても、住まいは別という人もいますからね」

いまは、若い息子夫婦を育てることにも力を注ぐ。二人に店の未来を託している。

■栄一
住所: 中央区京橋1-5-1
TEL: 03-3281-6578
営業時間: 11:15〜13:30、17:30〜21:30
定休日: 土曜・日曜・祝日
WEBサイト: http://r.gnavi.co.jp/7xwh73sf0000/

「酒席いづみや」女将 山崎かづ江 -女将会の活動も大忙し-


「酒席いづみや」の前身は、江戸時代に遡る。当時の鉄砲洲、いまの中央区湊にあった酒問屋だった。日本橋でその看板をもらい店を構えたのは、昭和22(1947)年のことである。

女将は、山崎かづ江さん。縁あって昭和五十四(一九七九)年、二代目に嫁いだ。当時の「酒席いづみや」は、木造の二階屋。先代夫婦が店を守り、若夫婦は別に住まいがあったが、突然姑が倒れたことで女将を引き継ぐことになった。幼い子ども二人の子育ての最中だった。
「そのころ店舗をビルにして、上に住むようになったのですが、義母の介護、まだ幼稚園児だった子どもの世話、店のこと。とにかく毎日が大変でした」

「酒席いづみや」の開店は午後4時半だが、女将は朝から慌ただしい。
「朝は午前中から事務の人と打ち合わせ。ファクスで予約が入ると、お客様とご予約内容の打ち合わせ。そんな雑用で、昼間は終わってしまいます」

東京駅に近く、宴会場も完備している「酒席いづみや」では、地元企業のOB会や地方から集まる同窓会が花盛り。
「営業前までは洋服で慌ただしく動いていますが、開店前には着物で帳場に座るようにしています。いろいろな方とのつながりでやってきたお店ですから、いらしたお客様のお席には必ず出るようにしています」

そしてもうひとつの仕事が、日本橋三丁目の女将さん会である。
「お祭りや消防訓練、集まってお食事会をしたり。みんなで旅行にも出かけます。この間は、北陸新幹線で金沢へ行ってきました。集合場所は東京駅。皆さん、歩いて数分ですから」(笑)

■酒席いづみや
住所: 中央区日本橋3-3-3
TEL: 03-3275-3050
営業時間: 16時30分〜23時
定休日: 日曜・祝日
WEBサイト: http://www.idumiya.info/

TEXT:織田桂、 PHOTOGRAPH:門馬央典
東京人2016年7月増刊より転載

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