〈むかしみらい〉 地元企業物語
Campany's story in our town

|2018.07.27

助け合いは当たり前。障害者と健常者にある無意識の「心のバリア」を溶かす

東京オリンピックの開会式まで今月24日であと2年。行政が旗振り役となり、公共施設や交通機関でハード面の整備が進められる今、人々の心の中にあるバリアが緊要な課題として見えてきている。そもそもバリアとは何か? バリアはなぜ生じるのか? 自分ごととして考えられている人は、はたしてどれくらいいるだろうか。車いす用パーソナルスロープの開発・製造、販売を行う「株式会社0段差(むだんさ)」の代表取締役・富永一さんに、会社設立の経緯や真の意味でのバリアフリー化への道筋を訊いた。

要求するばかりでは、よい関係は築けない

「地元の中央区で2期目の区政運営に当たらせていただく中で、障害のある方と接する機会が増え、ごく自然に、彼らが前面に出て働くことができる場をつくりたいと思うようになりました。交流を深めるうち、だんだんと分かってきたのは、障害があるとか健常者だからとか関係なく、相手に『何々してほしい』と要求するばかりでは、よい関係は築けないということ。ただの甘えと受け取られてしまう可能性もあります。一方で、障害という言葉に日本人が敏感になりすぎて、要求する側・される側というふうに、暗黙的な線引きがあるのも事実です」。

自分ができることは自分でやる、相手ができないことは補う。そうしてお互いに歩み寄る関係性を、社会全体の障害者への接し方で示せないだろうか――。2017年12月、富永さんは東京の玄関口・八重洲に「株式会社0段差(むだんさ)」を設立した。

「バリアフリー化は着実に進んではいますが、街中や個人商店にはまだ段差や階段といった障害(バリア)が多く存在します。とはいえ、私自身が飲食店を経営していることもあり、車いす対応トイレの設置ひとつとっても、店側が面積的、金銭的にも相当な負担を負うことを知っています。だから、車いすに非対応の店があっても、一概に非難することはできないと思うのです。利用者がスロープを用意してほしいという要求に終始してしまわずに、利用者自らスロープを用意するという考えがあってもいい。それが、車いす用パーソナルスロープ『無段差くん』着想の原点です」。

左)株式会社0段差のホームページ 右)1913年創業の八重洲とよだの2号店として、富永さんが人形町にオープンした「多良々(たらら)」は車いすでも入りやすい和食店だ

小型かつ軽量で携帯できる、まったく新しいスロープ

国際福祉機器展に行っても、インターネット上でしばらく探してみても、富永さんの頭の中にあるイメージに近いものは見つからず、「世の中に無いなら、自分でつくるしかない」と思い立つのに、そう時間はかからなかった。

「政治活動としてではなく、ビジネスとして継続させていくことができれば、障害者の働く場をつくることの取っ掛かりも掴めると考えました。ただ、実際に始めてみると、小型かつ軽量で携帯できるスロープの開発は想像以上に時間と労力のかかる作業。これまで世の中に無かったわけだ(笑)」。

開発パートナーは、富永さんの30年来の友人で、有限会社サバドの代表取締役・白内芳生さん。町工場の街として知られる大田区で精密な切削加工を得意とし、プリント基板に使われるジャンパー線(離れた電気回路間をつなぐ電線)を中心に製造・販売している。

「まったく未知の分野でしたが、去年の暮れに富永さんから連絡をもらったときは、素直に嬉しかったですね。何とか期待に応えたいと、自分なりに思いついたことをあれこれ試してみたものの、最初につくったものは確かにお粗末だった(笑)」。(白内さん)

最初に試したのは、サバドが得意とする切削加工を用いて既製のアルミニウム形材から不要部分を削り取って成形する方法

アイデアを出し合い、町工場の技術力を結集

栄えある“第一期生”として羽ばたいたはずの「無段差くん」はなんと、試乗以前に見た目の悪さで返品されてしまったという。例えば、スロープ板を設置した際、戸口部に引っ掛かるベロと呼ばれる先端部分。当時はスロープ板とベロはネジで接合されていた。

「材料に、軽量かつ加工性やコストパフォーマンスにも優れたアルミニウムを採用したのはいいのですが、既製のアルミニウム形材(汎用性の高い形状に加工された材料)からつくれるものには限界があったんです。見た目の問題以外にも、肢体不自由児に多く利用されているバギーなど、大型の車いすが乗るにはスロープ板の幅が狭すぎるという課題も見つかりました。そこで、一枚のアルミニウム合金板に一から加工を施す方法へと大転換。曲げ加工など、自社の技術だけでは足りない部分は他の工場の力を借りました」。(白内さん)

樹脂製のスロープは軽量だが、ここまでの薄さに仕上がることはまず不可能だし、材質のみを重視してチタンを選べば、商品の価格に跳ね返ってしまう。その点、車いすの背面ポケットに収納できて、4万~7万円台で購入できる無段差くんは、手を伸ばせば十分に届く存在といえるだろう。2枚のスロープ板を、長さ調整可能なベルトでつなぐ発想も画期的だ。それぞれの車いすのサイズに合わせて使えるのはもちろん、未使用時には重ねてコンパクトに収納できる。

写真の無段差くん40は、重さ1.8キロと女性でも片手で持てるほど軽量。富永さんが手に持つ収納袋は日本橋浜町の濱町高虎(詳しくは本文中で後述)にオーダーしてつくったもの

30年来の友人と息の合ったコンビネーション

富永さんの幅広い人脈を生かし、利用者の生の声を拾い上げ、白内さんの長年の経験や勘を武器に、不具合を一つひとつ改良していく。10台に上る試作品を経て、他にはないスロープを完成させたふたりの息の合ったコンビネーションは、インタビュー中の楽しい掛け合いからも見て取れた。

「20代前半からのつき合いで、よく男同士でキャンプに出かけたものです。白内さんはその時々で自作の便利グッズを披露してくれました。中でも、水を張ったゴムボードと焚き火台を連結させて、バーベキューをしている傍から沸き立つ即席露天風呂は最高だったな(笑)。無段差くんのアイデアを思いついたとき、真っ先に白内さんの顔が浮かびました」。

「当時、僕はすでに社会人で、大学生の富永さんより年上でしたが、仲間と過ごす時間はとにかく楽しかったですね。ずっと変わらない仲間がいて、今こうして一緒に社会に役立つものをつくっている。機械屋として嬉しい限りです」。(白内さん)

インタビュー中も終始笑顔の絶えないふたり。サバド事務所にて

会話を生み、無意識の心のバリアを溶かす仕掛け

独り立ちした子どもを見守る親のような心境で、富永さんと白内さんが世の中へ送り出す無段差くんには、富永さんお手製の収納袋が付属する。

「使う人のことを想ってつくった商品を届けるのに、自分たちの気持ちを表せればと思って始めました。また、お代は生じてしまいますが、手染めの江戸手ぬぐいなど和装小物を扱う日本橋浜町の『濱町高虎』さんオリジナルの収納袋をご注文いただくこともできます」。

生粋の江戸っ子である富永さんならではのアイデアで実現した、福祉器具と江戸の洒落の意外なコラボレーションだが、バリアフリーの取り組みをもう一歩進めるためのヒントがここにある。

「最初の方で、要求だけで止まってしまってはいけないと話しましたが、『手伝ってもらえますか』『手を貸しましょうか』という会話はむしろ普通にあるべきです。しかし、日本的なコミュニケーションや社会のあり方が、障害者と健常者双方の心にバリアをつくってしまっているせいで、会話がないままに、『あれがない』『これがない』と外に答えを求めてしまう人が多い。私は、突破口を開く鍵は案外身近なところにあると考えていて、福祉器具のデザインや関連アイテムもそのひとつ。持っているだけで気分が上がるものって、皆さんにもありませんか? 街中で、『それ素敵ですね』とモノを通じて会話が生まれるかもしれません。さらに、直接的なコミュニケーションツールとして新しいピクトサインも考案しました。『困っていたら私に声を掛けてください』という意思表示のサインで、周囲に助けを求めるためのヘルプマークとは逆の発想です。このサインが広まれば、無段差くんは必要なくなるかもしれませんね(笑)」。

心のバリアに関わるのはなにも障害の有無ではない。日本では街へ出たがらない障害者も少なくないというが、互いにトライ&エラーでコミュニケーションを重ねた先に、人として当たり前に助け合いができる社会が形づくられるのではないか。そういう意味でも、身近な一人ひとりの背中を押す富永さんの役割はとても大きいといえるだろう。

無段差くんを使う子どもたちに喜んでもらえるよう、ケーキ柄とくるま柄の収納袋も用意 右)富永さんがデザインの原案を考えた新しいピクトサイン。缶バッチになっており、助ける側はいつでも身に着けておける

関連サイト
株式会社0段差 http://www.mudansa.tokyo/

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