Mindbenders&Classics 秘密の屋上古着店
大通りから一本入っただけなのに、ゆったりとした時間が流れる京橋の通称「骨董通り」で見つけたスタイルのある店、2軒目は「Mindbenders&Classics(以下 マインドベンダーズ アンド クラシックス)」。古いビルの屋上に構えられた同店は、1900年代初頭のヨーロッパにタイムスリップしたような店内で、横見浩士(よこみ ひろし)さん、沙代子(さよこ)さんオーナー夫妻に、オープンの背景、アンティークやヴィンテージへの想いを訊いた。
1軒目、自然素材の衣服と海外のヴィンテージ雑貨を扱う「galerie non」の紹介はこちら
100年の時が重なる、たったひとつの服
もともと好きだったアンティークやヴィンテージの知識を深めようと、沙代子さんがイギリスのロンドンに移り住んだのは、今から15年前。約2年間、ポートベロー・アンティーク・マーケットのディーラーのもとで修行を積んだ。
沙代子さんが教えてくれたイギリスのアンティーク事情は、日本とはまるで違う。「イギリスでは、週末になると各地で蚤の市が開かれ、ティーンエイジャーの姿も珍しくありません。『これは、ひいおばあちゃんの時代の品物だから1930年代ね』などと買い物姿も板についています。親から子へ、古いものを大切にする文化が受け継がれていることに感銘を受けました」。
「ですから、ヨーロッパはアンティークやヴィンテージが充実しています。買い付けで各地を回っていると、農家の納屋の奥や古い民家の屋根裏から、突然『100年前の服』が良い状態で見つかることもあるんですよ」とは浩士さん。沙代子さんと共にたくさんの古き良きものに触れていくうちに、すっかりその魅力に心を奪われた。
帰国、そして京橋へ
2017年でオープンから丸10年を迎えた、マインドベンダーズ アンド クラシックス。20世紀初頭のものを中心に、古くは150年前までのフランスの生活着や仕事着を中心とした品揃えと、クリノリンと呼ばれるフープ状の下着やシルクハットなどの珍しいアンティーク品もセレクトする店としてファッションを愛する人たちから人気を集めている。
横見夫妻は、この場所と出会った当時を次のように振り返る。「日本に帰国後、自分たちの店を開こうと、物件をあちこち見てまわりました。ショップが多く集まる代官山や中目黒なども当たりましたが、どこもご縁がなくて」。そうして時間をかけ、ふたりはアンティークやヴィンテージとの一期一会の出会いにも匹敵する特別な場所を、京橋に見つけた。1962年(昭和37年)築のビルの屋上にひっそりと佇むその店へは、手動扉のエレベーターで向かう。最上階の5階から、さらに薄暗い階段を一段また一段と上がり、現れた白い板壁の小屋は光を集め、どこか異国の地を訪れたようだった。
フランスの熟成された日常着
店名は、「理解しがたい」や「難解なもの」を意味する「Mindbenders」と、「一級品」を意味する「Classics」を合わせ、店のセレクトを表す名付けとした。開店当初は、イギリスを中心に買い付けを行なっていたが、琴線に触れる品物の大半がフランス製であったため、すぐに買い付け先はフランス中心となった。イギリスの服がかっちりした印象であるのに対して、男性ものでもどことなく色気を感じるのが、フランスの服の特徴だという。
「たとえば、これは100年前に家畜商が着ていたスモックですが、大変手間をかけて作られています」。ふたりが愛おしそうに説明してくれる商品は、仕事着といえども、刺繍やレースの装飾を施していたり、肩から柔らかいふくらみを持たせたシルエットに仕立ていたり、丁寧な手仕事が見て取れる。しかも、当時の紡績技術で作られたコットンやリネンは、現代までよいコンディションで残るほどの丈夫さを持ち合わせている。
日常にスタイルをもたらす、私だけの「一級品」
店を訪れるのは、「かつての持ち主たちによって大切に“育てられた”服を着たい」というヴィンテージ好きの方や、すぐれたデザイン性により時代を超えて愛される服のヒントを得に来るファッションデザイナーや服飾系の学生、インターネットで店を知り、地方から上京するたびに来店する常連客など様々。
時間や国境を越えて着続けられてきた服には、人の手による修繕が施されたものも少なくない。その繕い跡のひとつひとつが服の個性となり、今日また、次の持ち主の手へ渡っていく。