八重洲・日本橋・京橋に店を構える老舗の旦那に、さまざまな食物の『旬の味』を教えていただきます。今回は、「割烹 嶋村」の若旦那・加藤仁さんに、5月ごろから出始める冬瓜(とうがん)と茄子(なす)についてのお話を聞きました。
夏の野菜として知られている冬瓜は、実際には5月頃から市場に出回り始めます。ウリ科の野菜で、主に関東以南の地域で作られています。
「割烹 嶋村」では、冬瓜を炊き合わせに使うことが多いですね。冬瓜自体は淡泊なので、動物性のコクととても相性がいい野菜です。コース料理の中で野菜の炊き合わせとしてお出しする「冷やし鉢」の場合は、薄口しょうゆを使った八方だしに鶏の皮を少し入れて冬瓜を炊きます。炊き合わせは焼き物と揚げ物の間に出すので、「冷やし鉢」は温かい料理が続く中でよいアクセントになります。その中でも清涼感を担っているのが冬瓜です。涼しげなガラスの器に盛り付け、目からも季節感や清涼感をお伝えします。
冬瓜は、皮の緑色をきれいに出すのも料理の大切なポイント。冬瓜には固くて薄い透明の皮があり、これをきれいに剥くと美しい緑色になるのです。実はこの薄皮を剥く作業がとても大変。丁寧に剥いた後は、鹿の子切りと呼ばれる庖丁目を入れて、一度軟らかく煮ます。その後、八方だしに入れて、一度煮含ませてから氷水の中に鍋ごと入れて急速に冷まして一晩置いておきます。すぐに冷ますのは皮の緑色を飛ばしてしまわないため。こうすると鮮やかな緑色が保て、食欲をそそります。
清涼感があり、だしの効いたさっぱりした味わいが冬瓜の魅力ではないでしょうか。
茄子は、茄子ならではの味がしっかりあるのが魅力の野菜。ご存じの通り、茄子は通年食べることができますが、本来の茄子の旬は初夏から初秋にかけてで、露地栽培のものは早ければ5月頃から出回り始めます。
茄子の原産はインドで、日本には奈良時代に中国から伝わってきました。今では丸茄子や米茄子、長茄子など、日本全国でさまざまな茄子が栽培されています。最も特徴的なのは光沢のある紫色の皮。この紫色の正体はナスニンという色素で、抗がん作用や老化防止に効果的といわれているポリフェノールの一種です。
「割烹 嶋村」で使う茄子は、時期によってさまざま。献立によって、大きさに合った茄子を選ぶことも多いので、丸茄子を使うこともあれば、米茄子を使うこともあります。基本的に茄子は幅広い料理に合います。天ぷら、炊き合わせ、焼き茄子、揚げ茄子など。味噌とも相性がいいので、田楽やしぎ焼きにもよく使います。他にも、例えば揚げ茄子に鶏のひき肉を使った味噌をかけたり、揚げ茄子の上に銀杏や海老をのせたりして出しています。
油脂とも相性がいい茄子は、煮物でも素揚げするのがポイント。そのまま煮ると皮の色が飛んでしまうため、高温でカラッと揚げて柔らかくなったところで、冷たい八方だしなどに浸けます。茄子の皮の表面に油の膜ができることでナスニンの色素が溶け出すことなく、鮮やかな紫色を保つことができます。さらに、だしと共に油脂のコクや旨みが染み込んでいくことで、いっそう美味しくなるのです。その際、必ずしなければいけないのは油抜き。茄子の素揚げはすごく油を吸うので、揚げた後に熱湯をかけることで余分な油を落とすことができますよ。