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〈はたらく〉 イノベーションの舞台
FRONT of TOKYO

|2021.04.02

育児をしながら社会とつながる場所を。コワーキングスペースBright Oneの願い

茅場町駅から約3分、大通りから少し入ったビルの3階にあるのが「女性専用のコワーキングスペースBright One」だ。女性にターゲットをしぼったのはなぜなのか、そこに秘められた並々ならぬ思いとは。株式会社Bright One代表の谷口章子さんにお話を聞いた。


子連れ出勤で育児も仕事もシェア。ママの社会復帰の第一歩に

茅場町駅からほど近いBright Oneは、コワーキングスペースでは珍しい「女性専用」をうたっている。なんと子ども連れでの利用が可能で、キッズスペースや授乳室も完備。ママに嬉しいこの新たな試みは、代表の谷口さんの女性を支援したい強い思いから2018年に誕生した。

レンタルスペースとしても貸し出し可能。ワークショップやイベントが行われることも

「私自身が第1子を出産後、産前から勤めていた会社で自分の仕事に誇りが持てず…。当時2歳の子どもにふと『笑ってるママが好き』と言われて、このままでは『ママはこういう仕事をしているのよ』と堂々と伝えることができないと思い、退職を決意しました。
その際に感じたのが、このようにキャリアと育児に悩んで、仕事を辞めていく女性は多いのだろうなということ。女性がキャリアを諦めるのは、働き方の選択肢が少ないことが原因のひとつだと思ったんです。子どもの年齢、成長に応じて変えられるような、多様な働き方を支援したいと考えて2017年に起業しました」。

谷口さん自身が2児のママ。自宅で子どもと一緒にいながらだと仕事がなかなか進まない苦労は、身を持って痛感している

実は当初はコワーキングスペースをやる予定はなく、偶然が重なり実現したという。

「子育て中に少しの時間でも働きたいママのために、フリーランスの仕事とママをマッチングできればと考えました。データ入力や資料のまとめ、市場調査など仕事内容はさまざまなのですが、フリーランスに外注をしたい企業は意外に多い。そんな企業から仕事を請け負って、数人のママたちで担当すれば、負担が少なく働けるのではと。
ただ、作業はそこまで多くなくても、自宅で、小さい子どもと一緒では仕事ははかどりません。まずは、ママたちが子ども連れで集まることができる場を構えようと、物件探しを始めました。当時、私が八丁堀に住んでいたこともあり、地元のママと活動ができたらと思っていたら、茅場町のこの場所とご縁があって。広かったのでせっかくだし多くの人に使ってもらおうと、コワーキングスペースを始めたんです」。

地域で働きたいママを募集したところすぐに10人ほどが集まり、現在も16名のメンバーが活動中だ。

「当初は、みんなが子ども連れで出勤して、キッズスペースで遊ばせつつ子どもを見るママもいれば、仕事に集中するママもいて。場所を作って、育児もみんなでシェアしながら働けたことは、とても大きかったと思います。
仕事のブランクがあるママたちは、自信をなくしています。子どもが熱を出したら仕事を休めないと思うと新たな会社の求人に応募しにくい。また、応募してみたけれど落とされた経験がある人も。『次の一歩をどう踏み出すか』で悩んでいるママがとても多いので、まずはBright Oneで、少しの時間、仕事量でもいいから一歩を踏み出してもらえればと。実際、ここで仕事をしながら再就職した方もいます」。


育児と仕事を完全に切り分けず、ママのままできる仕事を

昨年には新たな展開として、中央区・江東区に住むママたちの暮らし情報メディア『Co-sodate』をオープン。ママたちと一緒に、メディアを立ち上げた理由とは。

広々としたキッズスペース。おもちゃや絵本もたくさん用意されていて、子どもが楽しめる工夫が満載

「フリーランスの仕事は単発のものが多く、スキルやキャリアを積み重ねるのは難しいと感じ始めていました。そんなときあるママが『べビーカーで電車に乗るのが怖くて、あまり外出を楽しめていない』という話をしていたんです。これって情報の不足で、子ども連れで行ける場所、お店を知っていれば行動範囲も広がるはず。子ども連れの目線で役立つ情報を発信できればと『Co-sodate』を立ち上げました。
中央区と江東区に住むママたちが、日々の生活の中で子どもと一緒に行ったカフェや公園などの情報を記事にする。これなら、子どもと取材に行くようなものなので無理がないし、記事が溜まれば実績にも。私自身もずっとこのエリアに住んでいますが知らないことが多く、もっと地元を楽しむきっかけにもなるなと感じています」。

メディアの運営を重視しているわけではなく、あくまで「ママがあるがままで仕事になることを追求したらこの形になった」と谷口さんは言う。今後は、地元のお店とつながりを持って、活動を広げていきたいそう。

コワーキングスペースやメディアはあくまで手段。ママの職業支援をしたいという谷口さんの信念はブレない

「もっとママたちが働ける場所を増やすために、地元のお店に『求人をしませんか』という呼びかけをしていきたいと思います。お店に求人をお願いするチラシを『Co-sodate』運営スタッフのママたちが、自分の行きつけのお店に配布することを少しずつ始めています。提携店になってもらったら、『Co-sodate』のスタンプをお渡ししたりと、地域とのコミュニケーションを深められればと。
本来ならば、プライベートと仕事をきっちり分けることが多いと思うのですが、ママたちはその方が働くハードルが上がってしまう。子どもと一緒に訪れたお店で、チラシ配りやちょっとした営業活動ができれば、これがまた経験になり、自信になっていくと思っています」。


ママたちのコミュニケーション能力で老舗とつながり地元に密着

茅場町にコワーキングスペースを構えて約3年。ママたちと仕事、地域をつなげる活動をしてきた谷口さんが今改めて思う、この街の魅力とは。

コワーキングスペースのインテリアも谷口さんが厳選。ドライフラワーやかわいいクッションなどで居心地のいい空間に

「ずっと商売をやっている昔ながらのお店もあれば、日本橋のほうに行けば最新のお店や情報にも出会える。混在しているのがとてもおもしろいなと思います。私が住んでいるところは、都内でも実は緑が多くて、子育てがしやすい街だという印象も。
『Co-sodate』の取材や提携店へのお誘いを通して、地元の個店さんとはお付き合いを続けていきたいです。ママたちは本当にコミュニケーション能力が高くて、築地の老舗のスタッフさんと話して、すぐに仲良くなってきたりするんですね(笑)。相性はいいと思うので、より地元や地元のお店に根付いた活動をしていきたいです」。

これまでは保育園に預けて続けるか、辞めて育児に専念するか、極端な2択になりがちだったママたちの働き方。時代が移り変わる中で、ママたちの働き方はより多様化し、もっと自由に―。この街から、谷口さんの願いが全国に広まる日も、そう遠くはないはずだ。
今後についてもこんな目標が。

「前職で不動産の広告営業をしていて知識が多少あるので、ママたちだけで運営する不動産会社ができればと思っています。私自身が家探しをしていた時に、なかなか理想とする物件に出会えず、男性の営業の方はスペック重視で、背景をあまりヒアリングしてくれなかったんですね。たまたま出会った女性の営業さんが、子どもができた後のことを想定して意見をくれて、とても参考になったんです。家の購入は一生のことなので、『少し先の未来を想像させてくれる』営業が必要だなと。
育児を経験した女性は学校のことや近所のスーパーのことなど、持っている情報が豊富。本当の意味で地域密着型の不動産会社ができるのではと思っています。そう考えると、ママの力を社会で発揮できる場所、状況はまだまだたくさんあるなと可能性を感じますね」。

関連サイト
女性専用コワーキングスペースBright One: https://space.brightone.co.jp/  

執筆:野々山幸(TAPE)、撮影:名和真紀子

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