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〈はたらく〉 イノベーションの舞台
FRONT of TOKYO

|2023.06.15

八重洲・日本橋・京橋=YNKを“イノベーションの拠点”に。東京建物社員が語るまちづくり最前線

東京駅の東側に位置する八重洲・日本橋・京橋エリア=通称「YNK(インク)」は今、複数のプロジェクトが同時に進む大規模再開発のまっただ中だ。

再開発と聞くと無機質で均質化したものにも聞こえるが、解像度を少し上げると、YNKならではのユニークな再開発のストーリーが見えてくる。江戸時代からの文化と伝統が息づき、東京の玄関口でもある同地区では今、何が行われているのか。まちづくりを担うデベロッパーで今年、東京都が主導するグローバル規模のスタートアップイベント「City-Tech.Tokyo」へ「the YNK Hub」として出展も果たした東京建物(本社:中央区八重洲一丁目)の担当者が、現場のリアルを語る。


スタートアップの飛躍的な成長を後押しするスタジオ

「就職活動のとき、これが自分の得意分野ですと言えるものがないことが、大きなコンプレックスでした」

そう振り返るのが、東京建物株式会社 まちづくり推進部で、YNKに関する各施策を推進する渡部美和さんだ。ただ、渡部さんが弱みだと感じていたその性質は、意外な形で就職に結びつくこととなる。

「そういえば、大学時代に学園祭実行委員を4年間務めたのですが、ダンスサークルとか応援部の人たちが輝いているのを見て、いつも感動して泣いていたなと。自分は、得意なことをもつ人たちが活躍できる場を整えることにモチベーションを感じられ、がんばれる。自己分析の結果、そのことに気づきました。

そして就活も終盤を迎えて参加した東京建物の説明会でデベロッパーという存在を知ったとき、『あ、これは土地や場所を活用してそこにいらっしゃる方々を輝かせる仕事で、根っこは学園祭実行委員と同じかもしれない』と思ったんです」

左)東京建物まちづくり推進部 イノベーションシティ推進室 課長代理 渡部美和さん
右)XTech社と共に開設したスタートアップ向けシェアオフィス「xBridge-Tokyo」

こうして東京建物に入社した渡部さんが、入社4年目の2018年に立ち上げたのが、スタートアップ向けシェアオフィス「xBridge-Tokyo(クロスブリッジ-トウキョウ)」だ。テクノロジーを活用した新規事業の創出を手がけるXTech社と東京建物による共同プロジェクトだった。

「それまでに携わったオフィスビルの運営業務では、将来性のあるスタートアップ企業に対し、与信の問題で入居をお断りせざるを得ないケースがありました。もどかしく感じていた当時、XTechを創業される直前の西條(晋一)さん(現XTech代表)との出会いがあって、社内で議論されていたスタートアップ向けシェアオフィスのアイデアを思い出しすぐに提案したんです。会社に企画を通す際には、かなり熱が入りましたね」

xBridge-Tokyoが掲げたのは、こんなコンセプトだ。人と人、スタートアップと既存産業のかけ橋となることで飛躍的な成長を後押しする“スタートアップ・スタジオ”。シェアオフィス立ち上げにともない、まずは9社のスタートアップ企業、2社のベンチャーキャピタルが集った。

「創業期でリソースが限られている企業も多く、少しでもお役に立てればと私が各企業のアシスタント業務や来客フォローなどを行ったりもしました。それで“みんなの総務”とか、一番年下なのに“寮母”といった異名が生まれたんです(笑)」

そして、そこはバイタリティあふれる起業家たちが一堂に会する場所。他ではそう得られない、刺激的な体験もいろいろあった。

「さまざまなトラブルや苦労を乗り越え、ついに新サービスをリリースしたときのチームの熱量と一体感は、ものすごいものがありました。反対に経営状況が思わしくなく、代表が辛そうな顔を浮かべながら席数を減らしていく企業も目の当たりにしました。そうした普通には出会えない生の一次情報にふれられたことが、貴重な糧となっています」

当初xBridge-Tokyoは2年限定の予定だったが、結局その後も継続されることになり、2回の拡大移転を経て現在は八重洲二丁目に拠点をかまえる。2023年2月までに、累計41社のスタートアップが入居。その資金調達額は合計107億円を超えるなど、多くの企業が急成長を遂げている。

左)2022年4月には、XTech Venturesが自社運営するシェアオフィス型スタートアップインキュベーション施設「xBridge-Yaesu」がオープン
右)欧州スタートアップを中心に投資を行うベンチャーキャピタル・NEXTBLUE運営のコワーキングスペース・NEXT HUBと、サステナブルスタートアップ・GOOD COFFEE FARMS運営のカフェ&バーからなる、グローバルスタートアップの拠点「xBridge-Global」

気鋭の人物が日替わりでバーのカウンターに立つ

渡部さんは現在、YNKの価値をより総合的に押し上げる業務に就いている。

「これまでは、スタートアップにフォーカスした業務でした。とはいえイノベーションは、複数の要素が組み合わさってこそ生まれます。今はスタートアップはもちろん、YNKに拠点をかまえる多くの大企業から、長く受け継がれてきた地元のビジネス・文化までをトータルで俯瞰して施策を練ったり、それぞれを結びつけたりするお手伝いをしています」

東京建物ではこの数年間、前出のxBridge-Tokyo をはじめ、YNKエリアでイノベーションを起こすための数々の仕掛けを、精力的に設けてきた。オープンイノベーション拠点「City Lab TOKYO」も、その代表的なひとつだ。こちらでは「環境改善やSDGsにかなった都市・まちづくりをしたい」「ビジネスをサステナブルなものにしたい」 「ワーカーのQOLを上げたい」などのニーズに対し、各専門家が知見を共有し、プロジェクトの創出から社会実装までを支援する。

他にもアートギャラリー「BAG-Brillia Art Gallery-」、食の課題解決やイノベーション創出を目指すシェアキッチン「KITCHEN STUDIO SUIBA」、ものづくりに携わる人が交流する場「TOKYO IDEA EXCHANGE」など、幅広いテーマをカバーした拠点が立ち上がっている。

上左)持続可能なまちづくりのためのプログラム提供やネットワーク形成、場の提供などを行うオープンイノベーション拠点「City Lab TOKYO」
上右)“暮らしとアート”をテーマに多様なプログラムを展開するギャラリー「BAG-Brillia Art Gallery-」
下左)飲食関係者のテストキッチン、研究開発、セミナーやワークショップなどにも利用可能な「KITCHEN STUDIO SUIBA」
下右)3Dプリンターやレーザーカッターなどの工作機器を備え、クリエーター同士の自由な交流をうながすラボ「TOKYO IDEA EXCHANGE」

そしてもうひとつ、イノベーションの“タネ”を生む場所として象徴的な存在になりつつあるのが、コンセプトバー「THE FLYING PENGUINS」だ。各ジャンルで活躍するビジネスパーソンが日替わりでカウンターに立つことで、彼らを目当てにやってくる人たちの間で、自然なコミュニケーションやつながりが生まれる。

「各拠点を運営する強力なパートナーの方々により、それぞれの拠点が磁力を持ち、人が集まり始めています。私の役割は、まさに各拠点に横串を刺すではないですが、ものごとの関係性をとらえ直し、つなぎ合わせていくことなのかなと。それを通して、YNKにイノベーションの大きなうねりのようなものを起こすのがミッションです。こう言うと、ちょっと壮大なんですが…(笑)」

さまざまなジャンルで活躍するビジネスパーソンが日替わりでカウンターに入り、そこを訪れた人たち同士の自然な交流をうながすコンセプトバー「THE FLYING PENGUINS」

結局のところ、東京建物と渡部さんは、YNKに何をもたらそうとしているのか。

「イノベーションに必要な、偶発的な出会いのようなものを、いかに呼び起こすか。そうしたご縁が生まれる場所を、いかに設けるか。その部分が、やっぱり大きいのかなと思います」

ただ単に多くの企業やお店が入居する場所というのにとどまらず、“幸運な偶然”によってイノベーションが起こりやすい場所とすることで、エリアの価値を高める。それこそが、東京建物と渡部さんが、YNKで熱く取り組んできたことかもしれない。

それを渡部さんは、YNKの「水先案内人」とも表現する。


YNKを、世界から本物の人たちが集まる、真にクールな地区に

「当社自体が、YNKに130年近く拠点を置く地元企業です。そうした立場もふまえて、地元のことを深く理解しながら、そこに来られた方々のニーズに沿って地元をご案内する。ご紹介するのは人や会社、コミュニテイだったり、場所やイベントだったり、あるいは“地域の方々”だったり。

そうしたマッチングを、私たちは丁寧にすることを意識してきましたし、これからも丁寧にやっていかなくてはいけません。それには、互いに共感できるポイントが何かある人同士をお繋ぎすることが、とても大切だと感じています。水先案内人といえば今年2月27日・28日には、スタートアップとのオープンイノベーションで持続可能な社会を実現するためのグローバルイベント「City-Tech.Tokyo」(主催:東京都)にYNKとして出展し、YNKを世界に向けて紹介しました」

City-Tech.Tokyoは、スタートアップとのオープンイノベーションを通じて、持続可能な都市を実現するための、日本最大級の国際スタートアップイベント。2023年2月27日・28日に初開催され、67か国293都市からの参加があり、延べ参加者数は、26,746人にのぼった


ちなみに渡部さん自身は、YNKをどんな場所ととらえているのだろう。

「あるお祭りのときに町内会の方から言われた『ここを第二の地元だと思ってね』という言葉が、すごく印象に残っています。確かに、地元民ではない私にとっても、どこか地元感があるなと。

交通のハブでただ通過する場所とか、高層ビルがひしめく場所といったドライなイメージもありますが、実際には人間味にあふれる、居心地のいい場所が数多くあります。また江戸や明治から続く由緒ある老舗や、風情ある裏路地なんかもある。だからこそ私としては『知っている人は知っている、真のクールな街。本物の人たちが集まる場所』みたいなイメージを持っています。この先も、そうした特性を大切に活かしながら、まちづくりを進めていきたいです」

東京建物は地元の町会・団体と連携し、地域の祭りやイベントにも数多く参画している。左写真は「山王祭」、右写真は「中央通りベンチ設置検証実験」の様子

では、就活のときに渡部さんが感じた「自分には誇れる得意分野がない」という思いは、今はどうなっているのだろう?

「そのぶん自分は“多動力”があり、興味を持てるものごとの幅が広い。今ではそんなふうにマインドを切り替え、いろんなことに楽しく関わらせていただいています」

YNKを拠点とする大企業。他の場所からやってくる企業や人。長年にわたりこの地で活躍する地元の人。そして、古くから息づく文化と伝統。それらがゴチャッと有機的に混じり合い、ここでしか生まれない新しい価値が自然発生的・連続的に生まれる場所へと、YNKは変貌を遂げようとしている。

屈託のない笑顔でインタビューの最後の最後まで熱を帯びた言葉を紡いでくれた渡部さん。東京建物の「人やまちに寄り添う」というまちづくりの姿勢や取り組みを体現するかのよう

執筆:田嶋章博、撮影:島村緑

関連サイト
YNK -You Never Know-: https://ynk-area.tokyo/
xBridge-Tokyo: https://xbridge.tokyo/
THE FLYING PENGUINS: https://theflyingpenguins.jp/
City-Tech.Tokyo実績報告: https://city-tech.tokyo/news/1977/ 

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