YNKエリアの一角、八重洲一丁目でオフィスワーカーの「ウェルビーイング」を実現する最新のオフィス開発が進んでいる。国家戦略における最重要課題ともなっている注目のテーマの具現化に取り組むプロジェクトメンバーと有識者に話を聞いた。
ウェルビーイングを満たすオフィスがもたらすもの
八重洲プロジェクトの根幹となるウェルビーイング。その監修者である予防医学研究者の石川善樹が 「驚きをもって参画した」という本プロジェクトの意義について語る。
ウェルビーイングの本質を追求する姿勢に共感した
ウェルビーイングの潮流としては、2021年に骨太方針や成長戦略に「ウェルビーイング」という文言が明確に刻まれ、政府方針となり注目度が高まっています。人的資本経営に流れが向かっているなかの重要なキーワードのひとつで、経営における三大トレンドとしても、サステナビリティ、ダイバーシティに並んでウェルビーイングがあげられます。
とはいえ、今回のプロジェクトについての話をお伺いしたときは、「デベロッパーがそこまでやるの!?」ととても驚きました。というのも、オフィスの物理環境の面におけるウェルビーイングがテーマなのかと思っていたんです。でも、“人のウェルビーイング”について調査して、ビルで働くひとりひとりのウェルビーイングを測定し続けられる仕組みをつくりたいという。それを、継続してサービス開発に還元していくという、未来を見据えたチャレンジングなプロジェクトです。オフィス開発に関するお話はよくありますが、こういったケースは稀。打ち合わせでも、常に本質的なところの議論をしていて、こちらとしてもモチベーションが高まりますよね。
複合的な要因を満たす“食堂”シンボリックなサービス
都市部で働く1万人のオフィスワーカーにアンケートを行いました。まだ調査中ですが、「健康」、「コミュニケーション」、「自己成長」など、ウェルビーイングの要因となる項目が徐々に見えてきた段階です。それらを満たすサービスのアイデアとして、“食”は欠かせないと考えています。空間設計をする際に重要なのが、ひとつのサービスでより多くの要因を満たすこと。そういう意味で、食はさまざまなことに影響を与えます。例えば、血糖値コントロールなどを通じた社員のヘルス管理、食事の時間は会話のきっかけやひらめきの源にもなりえる。
また、先ほど申し上げたオフィスの三大基準のウェルビーイング以外の2つの要件も満たしやすい。地球環境のサステナビリティにも効くし、例えば料理教室を開催して男性社員が料理を習っている様子を周囲の人が見るというのはダイバーシティ&インクルージョンの象徴になりえる。食は誰もが日々体験することだからこそ、この八重洲プロジェクトのシンボリックなサービスにもなりえると考えています。
アイデアベースですが、ナレッジワーカーの方をビル全体でアシストするような空間づくりもポイントです。例えば、“逃げ場所の確保”。気分をスイッチできる仕掛けを普段の動線のなかでつくること。事例としてピクサーの新社屋をあげると、作業スペースとトイレをつなぐ廊下の距離をあえて離す動線設計がされています。というのも、移動しているときって気分転換がしやすいから。しかも、トイレは誰もが利用するスポットですよね。ほかにも、同じ廊下でも、果てしなく長く真っすぐ続くような廊下だと日本人は閉塞感を感じやすい傾向にある。T字路のような、先が見えないワクワク感と、曲がったときの出会い頭の驚きがあるような空間設計は面白いのではないかと思います。
オフィスが完成した後も動線を確認し、改善を続ける
とはいえ、人の動線に関しては、設計通りにいかないことも多いので、最初の段階では効果的な余白を残して、入居後の実際の動線を確認しながら改善していくことも重要です。その際にポイントとなるのは、動線と動線が交わる「クロスポイント」を見つけること。笑顔が生まれる雑談や、気分を変えるスイッチになる所なので、クロスポイントにウェルビーイングなスポットをつくっていく。設計段階でできることと、完成後に確認しながら 行っていくこと、両方が重要です。
リモートワークや二拠点生活など、20年前にはなかった概念がスタンダードになっているいま、多様な人が行き交う東京駅前に、入居するすべての人のウェルビーイングを実現するビルができるということは都市生活の新しい姿になりえる。そして、経営における三大トレンドを象徴的に満たしていくことができるのではないか。まさに、これからの時代におけるオフィスをどうシンボリックに示せるか、というのが今回のプロジェクトが持つ意義なのではないかと感じています。
企業が成長していくためには人材の確保と強化が欠かせない。働き方の選択肢が増えているなか、優秀な人材を確保し、活躍してもらうために、さまざまな取り組みを進める企業が増えている。なかでも 、注目されているのが、国の成長戦略実行計画にも盛り込まれたウェルビーイングという考え方だ。「身体的・精神的・ 社会的によい状態」を意味する概念で、ワーカーのウェルビーイングが高いと、創造性や生産性、欠勤率や離職率に好影響を与えるという研究もなされている。
そんななか、YNKエリアの一角、八重洲一丁目でウェルビーイングを実現するオフィスの開発が進んでいる。八重洲一丁目は、日本一のターミナルである東京駅の目の前。テレワークが働き方のひとつとして定着し、オフィスのアドレスに縛られることなく居住地を決めることが可能になりつつあるいま、遠方に住むオフィスワーカーの新幹線利用でも出社しやすい優れたロケーションだ。
ここで、オフィスワーカーがウェルビーイングな状態になれるオフィスを実現するため、東京建物は都市部で働くワーカー1万人に調査を実施したという。このチャレンジングなプロジェクを進めている井出啓樹に話を聞いた。
新時代のオフィスを実現すべく大規模な調査を敢行
「我々の八重洲プロジェクトの根幹となるウェルビーイングとは、心身はもちろん、社会的にもよい状態が継続されており、日々いきいきと過ごしている、ということです。ハピネスといった一時的な感情と混同されやすいですが、そういった感情の波を経て構築された“状態”です。いろいろな要素が混ざり合っている非常に曖昧な概念なので、端的に表現するのは難しい」(井出)
この“曖昧さ”が、1万人調査の契機になったという。
「どういう状態がウェルビーイングなのかを、測定しようというところから始めました。というのも、“働く人がウェルビーイングになれるオフィス”を提供したいと思ったときに、それがどんな状態なのか、定量的に図る手段がまだ確立されていない。その尺度を得るために、20~60代の都市部で働く1万人の方々に2種類のアンケート調査を行いました。ひとつは対象者のウェルビーイングを測定する指標となる13の質問、もうひとつはどんな行動やシチュエーションがウェルビーイングな状態をつくるかの要因となる104の質問。当然、人それぞれ感じ方が違うので、絶対的な正解が存在するわけではないですが、“これがあるとより多くの人がウェルビーイングになるのではないか”という仮説のもと、調査を実施しました」(井出)
ウェルビーイングに 寄与するものとは?
国内外でまだまだ未知の部分が多いテーマを、定義づけから、実際のサービスに落とし込んでいくという、壮大なプロジェクトの始まりだった。国内外の有識者へのヒアリングや研究内容の確認などを行い、質問項目を設定していったが、グローバルでウェルビーイングの測定に一般的とされている質問項目が必ずしも日本人にフィットするとは限らない。また、ウェルビーイングは複合的であり、“状態”を測るものゆえ、スポットではなく2週間で1タームの測定期間を設けるなど、調査方法のベースとなる部分からチューニングが必要だった。現在は、その結果を精査している段階だという。
「概ね、我々の仮説が立証されたのではないかという結果が見えてきています。 まだ分析をしている段階ではありますが、ウェルビーイングに対して仕事に関する項目の影響もやはり大きい、ということも見えてきました。やはり、生活のなかで仕事が占める時間の割合が大きいためなのか、職場で快適に過ごせているかどうかはウェルビーイングな状態をつくる要因のひとつになりえると考えています。例えば相関性があると見えてきているのは、雑談や挨拶といった周囲の人とのつながりや、時間、情報、体験の共有です。あとは、仕事を通じて新たな学びや能力を得る、自己成長の実感も影響が大きいという結果が見えてきています」(井出)
気分や状況に合わせた 選択肢があることが重要
ともすると忘れがちな、ベースとなる要素にも気づかされたという。
「そもそも身体的に健康であることがウェルビーイングに大きく関係している、ということです。当たり前のことではありますが、我々の仮説のひとつが、改めて確認ができたことは非常に意義深い」(井出)
身体の健康を土台に、働き方やそれ以外の時間の使い方もウェルビーイングな状態をつくるための要因となる。その要因をどのようなカタチで満たしていくかのアイデアについては、次のように語る。
「健康のベースとなる良質な食事を提供する食堂を共有部につくる予定です。ただし、健康的で栄養のある食事であればいいというものではなく、食は目的や好みが分かれるものなので、食材自体から食事をする場にいたるまで、より多くの選択肢の整備をしていきたい。というのも、実は“選べる”ということは、ウェルビーイングの基本です。
そもそも低層部を含むこの街には老舗・有名店があり、その点においても選択肢が潤沢なエリアです。ウェルビーイングな状態もウェルビーイングな状態をつくるための要因も人それぞれ異なるため、その時々の自分に最適な行動や環境が選択できることが重要なのです。ほかにも、リラクゼーションスポットや、人との関係性をつくれるようなソフトコンテンツなどがご提供できたら、と考えています。いずれも、いろいろな選択肢のなかからフレキシブルに自己決定してもらえるようなサービスを目指しています」(井出)
竣工後も長期の運用を通じてウェルビーイングな状態をつくっていく予定だ。アプリなどを通じて、ウェルビーイングを測る質問項目に継続的に回答してもらい、適切なサービスを提供。『巡るウェルビーイング』として、ウェルビーイングの測定を続け、サービスの利用がうまく循環していくことを目指していくという。
八重洲は日本有数のオフィスエリアでありながら、歴史ある趣と最新のカルチャーが融合し、“働く”以外にもさまざまな要素も兼ね備えている希少なエリア。巨大ターミナル東京駅を擁し、多種多様な人が行きかうこの街で、各々が能力を発揮できるオフィスが生まれようとしている。
街のコンセプトの見出し方
2040 年の首都高速都心環状線地下化と連携し、日本橋川沿いの5地区がタッグを組んだ再開発が進んでいる。
プロジェクト全体の都市デザインを手がける重松健に、呉服橋プロジェクトの開発について聞いた。
大学時代、日本橋学生工房を通じてこのエリアの街づくりのお手伝いをしていた僕にとって、この再開発に携わることができるのは夢のような話。当時は、夜な夜な老舗の大旦那様や街の方々と飲みながら街への思いを聞いていましたが、誰もが一つひとつの物事に本気で向き合い、勝負していて、ここは“本物”だけが集まる街だと感じており、そのころからずっと、日本橋川の魅力に注目していました。当時は、魅力を伝える方策を模索するなかで、例えばボートレースを企画したことも。長年、実感としてもっていたこのエリアの魅力ある個性を生かしていきたいと思っています。
陸路と水路が一体化していく世界でも稀なロケーション
YNKエリアはかつての江戸の中心地で、歴史という物語をもっています。そのなかでも呉服橋は、日本一のターミナルである東京駅に最も近く、かつ日本橋川に面した希少なエリア。都心のど真ん中で、鉄道のハブ駅と水路の起点になりうる川が一体化しているロケーションは世界中でも稀有な立地だと思います。そんななかで5地区が連携した大規模な街づくりを進め、土地がもっている特性を生かせるのは非常に魅力的。呉服橋から日本橋川沿いに、にぎわいが連続すると同時に、多様な個性を常に発見していくような街を形成し、人々が東京駅から日本橋川沿いまで街歩きを楽しめるような環境をつくっていきたい。
訪れた人が主役となるデザインを意識
呉服橋プロジェクトは常に日本橋川を感じられるような設計を進めています。1階には広場や川に向かった大階段、2階以上のフロアには展望デッキやパノラマの窓を設置予定。行き交う多種多様な人が主役となるデザインにしていきたい。
この場所はプロジェクトの竣工で終わらず、その先も50年、100年と新しい革新と伝統を生み続ける街になります。“本物”を目指す方々に、これから始まる物語の1ページにぜひ参加していただきたいですね。
東京と日本橋をつなぐ呉服橋再開発の魅力
日本を代表する複数のデベロッパーがタッグを組むビッグプロジェクト━━。
そのなかで呉服橋プロジェクトの果たすミッションとは。
本地区は2002年に創設された都市再生特別地区を活用し、また国家戦略特区として2019年に都市計画決定となっている。地区内の地権者、重松とともに呉服橋再開発を担当する東京建物の長谷川伸二と望月裕紀が、本地区の現在と未来の魅力を語った。
「本地区は、日本橋の川沿い5地区のなかで最も東京駅に近く、ゲート空間としての役割も担います。また、いまはつながっていない東京駅と日本橋の地下通路をつなぐ計画も進行中です。さらに、東京都は永代通り沿いを金融の軸とする構想を掲げています。その中心に位置するのが呉服橋。高度金融人材をサポートする施設も導入し、東京の国際競争力強化に貢献します」(長谷川)
「都心の施設において川は稀有な要素です。首都高が地下化することによって生まれる開放感と、きらめく日本橋川に吹く心地よい風は最大の魅力になると考えています。オフィスワーカーをはじめ国内外の来街者の誰もが、こうした自然を感じながら、自分自身や身の回りのモノ・コトとつながりをもち、日々を“謳歌できる”。こうした空間の提供を実現したいと考えています」(望月)
※Forbes BrandVoice(2023.02.15)より転載
https://forbesjapan.com/articles/detail/60851
クレジット)
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