BAG-Brillia Art Gallery-
昨今、AI技術を使ってアート作品をつくりだす「AIアート」が注目されています。
業界を切り拓いてきた人たちの1人である窪田望氏が、AIとアートのまったく新しい関係性を求めて
作品づくりに挑戦した展覧会『AIの余白』がBAG‐Brillia Art Gallery‐で開催中。
約1年間をかけて構想を練ったという窪田氏と、BAGの企画監修を担当し、
今回の制作過程において何度も窪田氏と対話を重ねたという坂本浩章(彫刻の森芸術文化財団)が語り合いました。
AIアートの枠を超えて
構想1年。AIとアートの新たな可能性に挑戦
坂本 今回の展覧会の企画は、ギャラリーを主催する東京建物のご担当者から「BAGで窪田さんの作品展ができませんか」という相談があったことがきっかけなんですよね。それで、BAGの企画を担当する私が一度お会いしてみようということになって。
窪田 昨年8月に名古屋で開催された、和歌の旋律をAI技術で絵画に置き換えるという展覧会を観た方が僕を推薦してくださり、坂本さんにお会いすることになりました。彫刻の森美術館は大好きな美術館なので、そこの人にお会いできるということで興奮しました。
坂本 実際にお会いして話をすると、数字で物事を語るような、とても難しい話ばかりで。「この人は一体何を言っているんだ」と思いながら話を聞いていました(笑)。でも、それが逆に新鮮で、何か新しいことができそうだなと感じました。
窪田 その席で坂本さんから「窪田望を知っている人がびっくりするような、良い意味で裏切るような、そんな新しい展覧会にしてほしい」という依頼をいただいて、とてもワクワクしました。
坂本 AIアートの分野で、窪田さんは魅力的な作品を数多くつくられていて、ファンもたくさんついています。その一方で、一般的なアートの世界では、AIアートを目にする機会はまだ少ないですし、アーティストの手でつくるのではなく、アーティストがコンピュータと対話しながらAIが作品を描くということに対して評価基準が定まっていない。そうしたなかで、一般のアートファンの人たちに窪田さんの魅力を知ってもらうためにはどうしたらいいかと考え、AIでアートをつくるのではなく、AIがどのようにアートと関わることができるのかを提示するような作品づくりに挑戦してほしいとお願いしました。
窪田 その依頼がめちゃくちゃ刺激的で、そこから約1年間かけてひたすら探求し、坂本さんにアドバイスをいただきながら、つくりあげたのが今回の作品展です。
人に寄り添うAI作品を
AIの計算プロセスで現れる空間を可視化
坂本 制作過程で窪田さんとはいろいろな話をしましたね。たとえば、私の息子が自宅でChatGPTを使っていた時、「ChatGPTって冷たいよね。こちらの気持ちに寄り添ってくれないよね」と言っていて、それを窪田さんに話したら「そうなんですよ」と。AIがもっと進化していくのであれば、人に寄り添ってくれるみたいな感情が必要なんじゃないかという話になって。
窪田 人に寄り添うAIという発想がとても面白くて、そういう作品がつくれないかなと思いました。
坂本 ChatGPTに限らず、インターネットの検索でも、疑問を打ち込めば、すぐに答えが出てくる。本来なら、考えたり調べたりする時間があって、そこから探求心や創意工夫が広がっていくと思うのですが、どんどん間を埋めていってしまうので隙間がない。それって豊かさではないよねという話をしたら、窪田さんが「実はChatGPTが答えを出すまでの間には美しい世界が広がっているんですよ」と言うので、「窪田さん、それだよ。それを見せようよ」と。
窪田 それが展示スペース「+1」の『AIエンジニアが捨て去った風景の彫刻』という作品です。AIは正解を導き出す過程で、誤差を最小化する際に大域的形状という空間で計算を行うのですが、そのカタチが面白いな、美しいなと思ったんです。これはAIエンジニアなら誰もが知っているカタチですが、目に見えるものではないので、多くの人はそこにカタチがあることすら知らないですよね。だったら、そのカタチを見られるようにしたら面白いんじゃないかなということで、ChatGPTを改造して、その時の気持ちをChatGPTに入力すると、風と布でそのカタチが表現されて、AIが寄り添ってくれるような感覚が味わえる作品です。
坂本 AIの世界のなかで時間と空間が行き交っているということを知って、とても興味深く感じました。映画の『マトリックス』のように、目には見えないけれど、日常のなかにもうひとつの空間が広がっているんですね。
窪田 目には見えないけれど、確実に存在しているものってたくさんあるんですよね。今回、脳波を使って絵を描くという作品もつくりましたが、人はつねに脳波を放出していて、それが失われていっているということに案外気づいていない。それをAIですくいとってあげようというのが、脳波の作品です。
坂本 これはマルセル・デュシャンへのオマージュ的な作品にもなっていますね。窪田さんはアートに対する造詣も深くて、既存のアートの世界をAIで壊したいと思っているように感じました。
鑑賞者が主人公になる作品
技術がなくても、AIでアートに参加できる
坂本 企画の初期段階で、窪田さんが「AIを使ってピアノが弾けない人のためのピアノをつくれないか」というアイデアを話していたけど、あれも印象的でした。
窪田 学校のクラスに30人くらいの生徒がいると、一人はピアノを弾ける生徒がいて、合唱祭の時はその子がピアノを弾いて、残りの29人は合唱にまわりますよね。でも、ピアノが弾けるってカッコいいから、29人のなかには「ピアノが弾けたらなぁ」という生徒がたくさんいます。その子たちのためのビアノをつくりたいと思って。ディスプレイと連動していて、ピアノを弾くと、音は出ないけれども、鍵盤に合わせてグラフィックが変わるというようなものを考えました。
坂本 劣等感をAIで克服するような作品だよね。ぜひいつか実現させたい。
今回、窪田さんがつくってくれた作品は、ピアノのアイデア同様に、鑑賞者とアートが向き合う作品なんですよね。ChatGPTの作品は鑑賞者が自分の感情を入力することで初めて作品として成立するし、脳波の作品は鑑賞者の脳波を使って作品をつくる。作品と鑑賞者が一体化している。そこが面白い。
窪田 展覧会に来てくださった方々が主人公で、アーティストは一歩引いて、空間をみなさんに提供するという感じですね。
坂本 日本の場合、「美術」や「芸術」という言葉をつくってしまったために、アートは技術がないと参加できないものになってしまったんですよ。でも、それはナンセンスで、感覚とかセンスがあれば、技術がなくてもアートに参加できるはずなんです。その意味で窪田さんは、特別な技術を持たなくてもアートは表現できるということを作品化してくれたと思います。
特に脳波の作品は、一般の方はもとより、目の不自由な方や身体の不自由な方でもアートに参加できる。本当の意味でのアートを表現していると思います。
窪田 ぜひ年齢を問わず、多くの方々に遊びに来ていただいて、作品を体験していただけたらと思っています。自分だけの空間や作品をつくることができますので、それを写真に撮ったり、SNSに上げたりして、楽しんでいただきたいです。
坂本 私は従来からの窪田望ファンの方々の反応が楽しみです。窪田さんといえば、細密なAIアートというイメージですが、その方々が今回の作品を観てどういう感情を持つのか、とても興味深いです(笑)。
逆にAIアートを知らない方々は、まずは一般的なアート作品として触れていただいて、実はAIを使っていると知ることで、AIアートを身近に感じていただけるんじゃないか。それで裾野が広がっていけば、アートの領域がさらに広がり、AIアートも大きなアートの流れのひとつになるのではないかと思っています。今回の展覧会がそうしたきっかけになることを期待しています。
人の心を動かすAIを
便利さや効率だけじゃないAIの役割を求めて
坂本 BAGは「暮らしとアート」をテーマにしているわけですが、今後、AIは確実に我々の暮らしに浸透していくでしょうが、どうなっていくと思いますか? また、どうなって欲しいですか?
窪田 社会一般の捉え方として、AIの発展に伴って、人間の仕事を奪うとか、コストカットのツールになるとか、リストラを加速させるとか、そういう文脈で語られることが多いと思うのですが、僕はそれはちょっと寂しいと思っていて。 そもそも日本は『鉄腕アトム』や『ドラえもん』といったコンテンツが根付いているように、人とロボットは友達だという感覚を持てる文化土壌があると思うんです。それを強みにできる社会になるといいなぁと思っています。
AIによって便利になったり、効率的になったりする部分はもちろんありますが、それだけじゃなくて、人の心を動かしたり、人と人のつながりを深めたり、そういう役割をAIが果たせることもあるのではないかと思っていますし、そういものをつくってきたいと考えています。
坂本 窪田さんのような若くて優秀な人たちが今後どのようなアートを見せてくれるのか、また、どのような社会をつくっていってくれるのか、非常に楽しみです。今後の活躍にも期待しています。
窪田 ありがとうございます。頑張ります!
主 催:東京建物株式会社
企画監修:公益財団法人 彫刻の森芸術文化財団
会場構成:アリワークス
協 賛:株式会社山本サンライズ51、株式会社東京カモガシラランド、株式会社S-Works
運 営:株式会社クオラス
料 金:無料
Webサイト: https://www.brillia-art.com/interview/talk13.html
BAG-Brillia Art Gallery-: https://www.brillia-art.com/bag/