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|2020.07.21

社会人の「学びと交流の場」を日本橋から。withコロナ時代におけるWASEDA NEOの新たな取り組み

今なお多くの学校がリモート授業の実施を余儀なくされているなど、新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、学びの場にも大きな影響を及ぼしている。そうした状況下で、社会人のための“新たな学びと交流の場”づくりを模索しているのが、早稲田大学がコレド日本橋5階にキャンパスを構える社会人教育の拠点・WASEDA NEOだ。

日本橋エリアだからこそ実現できたWASEDA NEOのユニークな講座群やコミュニティ、そしてwithコロナ時代に向け現在実施されている、新たな試みについて紹介しよう。


“日本橋”という立地から生まれた「ブレンディピティ」というコンセプト

早稲田大学の新しい社会人教育拠点であるWASEDA NEOが設立されたのは、2017年夏。それまでコレド日本橋の5階で展開されていた大学院(ファイナンス研究科)がキャンパス移転されたことに伴い、構想がスタートしたという。

「日本橋エリアの中心という立地の素晴らしさを最大限に活かすためには、どのような役割を担う教育拠点にすべきなのか? という立地的な観点からコンセプトが決まっていきました。逆に言えば、多様な企業とコラボレーションをはかりながら、ビジネスパーソンを中心とする社会人教育の拠点を築くというWASEDA NEOの役割は、日本橋エリアでなければ実現が難しかったかもしれません」(チームリーダー・長谷川亮太さん)。

WASEDA NEOチームリーダー・長谷川亮太さん

設立当初から、WASEDA NEOが打ち出しているコンセプトは「ブレンディピティ(Blendipity)」。これは、「Blending」と「Serendipity」を組みあわせた造語で、この場所に集う多様なビジネスパーソンが共に学び、知恵を持ち寄り刺激しあうことで、イノベーションにつながる“幸運な偶然”を得るという意味が込められている。

このコンセプトをベースにWASEDA NEOでは、各種の社会人向け講座のほかにも、コワーキングスペースやコミュニティラウンジの提供などを行っている。

パイオニア・コミュニティ会員(一般会員の場合は入会金5,000円/年会費10万円)が自由に利用できるコワーキングスペース(全約110席)。2時間1,000円でゲスト利用も可能になっている

「講座は大半がオープンなので、どなたでも1コマ単位で自由に受講していただけます。コワーキングスペースやラウンジは基本的に『パイオニア・コミュニティ』にご入会いただいた会員様向けですが、ゲスト利用も可能になっています。講座を受講することで知を共有し、教室やラウンジで参加者同士が交流を図ることで、刺激を与えあったり社会的つながりを拡げたりできる。またそこから新たな人との出会いがあったり、ビジネスチャンスが拡がったりするというのがWASEDA NEOの特徴といえるでしょう」(長谷川さん)。

シックで落ち着いた空間のコミュニティラウンジ。コーヒー等のドリンク類も無料提供されている

このほかにも、WASEDA NEOのコンセプトに賛同する事業パートナーのために「NEOイノベーション拠点」と呼ばれるサービスオフィスを提供しているのもユニークな特徴だ。NEOイノベーション拠点を利用する事業パートナーが、講座の講師を務めることもあるという。


プログラムは、受講者のニーズに応じて日々進化している

このように、“大学のキャンパス”とは一線を画す特徴を持つWASEDA NEOだが、実施されている講座の内容もまた、我々がイメージするような大学の“社会人向け講座”とは、かなり異質といえる。

「一般的に、大学が提供する社会人向けの講座というのは、その大学に所属する教員が教えられる内容でプログラムを組むケースが多いと思うんです。一方WASEDA NEOでは、日本橋エリアという“場”の視点からプログラム内容を考えるようにしています。この場に集う方々が求める知を提供することが前提ですから、講師も大学の人材にはとらわれず、ビジネスシーンの第一線で活躍されている方々にお願いする場合が多いですし、内容についても受講者のニーズを聞きながら、柔軟に発展させています」(長谷川さん)。

たとえば設立当初のWASEDA NEOは、ブレンディピティというコンセプトのもとで、イノベーションや起業にかかわるテーマの講座が中心であった。しかし現在ではもっと幅広に、ビジネスパーソンが求める実践的知識や、最先端のトレンドをテーマに今後のビジネスに役立つ情報を提供するような講座を増やしているという。

「講座は基本的に、出勤前と仕事帰りという朝夕2つの時間帯で提供しています。朝の時間帯は、『日本橋ブレックファストセミナー』と呼ばれる少人数でビジネススキル習得を目指すワークショップ型のものを揃え、出勤前に脳を活性化させて仕事の効率化を図ったり、クラスメイトと交流ができるといった点が評判です。対して夕方以降の講座は最新のビジネストピックへの理解を深めるものや、受講者自身のキャリアについて考えさせるようなものというように、時間帯によって内容を分けているのにも、受講者のニーズが反映されています」(長谷川さん)。


最前線のスペシャリストが登壇する講座は、濃密かつ実践的な内容に

ここまでを読み、WASEDA NEOの活動に興味を持った人ならば、実施されている講座の様子が気になることだろう。そこで、実際にWASEDA NEOの講座を体験させていただいた。

今回受講したのは、実施されている講座群のなかでも、最近特に注目を集めている「アート思考」をテーマにした講座「アートとビジネスの交差点」(2020年6月24日)だ。アート思考とは、アーティストのように直観的に物事を捉えることにより、新たな視点から課題を発見し、そこからイノベーションへとつなげていく、ビジネスにも役立つ考え方のこと。提示された課題を解決するのに役立つとされる「デザイン思考」では得られない発見や創出が可能になることから、世界的に注目を集めているという。

「書籍を読むだけではなかなか理解が難しいアート思考なのですが、専門家による講義を受け、場合によっては実際に自分で手を動かしてみることで、自分の仕事に活かすためのヒントを得られる点が人気の理由ではないでしょうか」(長谷川さん)。

「アートとビジネスの交差点」はZOOMを使ったオンライン講座で実施された。「withコロナ時代を迎え課題解決型から問題提起型の思考がより求められています。アート思考に対する関心はますます高まっていくことでしょう」(増村岳史講師)

「アートとビジネスの交差点」の講師を務めたのは、アート思考を紹介する書籍『ビジネスの限界はアートで超えろ!』の著者としても知られる増村岳史さん(アート・アンド・ロジック株式会社・代表取締役)と、事業構想大学院大学の丸尾聰教授。増村さんによるアート思考概論と、丸尾教授によるアート思考に欠かせない「観察」と「考察」の具体的実践法という構成になっており、90分という短い時間ながら、アート思考に関する具体的かつ実践的な知見を得ることができた。

この日の受講者は30名程度。映像配信だけでなく、グループチャットを利用することで質問や意見交換も活発に行われていた

このように、早稲田大学の人材に限らず斯界の最前線で活躍する専門家の登壇により、他の社会人向け講座にはないリアルな刺激を受けられるのは、WASEDA NEOならでの魅力といえるだろう。


オンライン講座が主流となっても、日本橋エリアから発信を続けていきたい

さて、紹介した講座の模様を見ればわかるように、WASEDA NEOの講座は、現在のところすべてオンラインでの実施となっている。いうまでもなく、新型コロナウイルス感染症の流行を考慮しての施策だ。

コワーキングスペースやラウンジも予約制での利用となっているが、やはり以前に比べ利用者は減っているとのこと。イベントなどでも利用されていた100名規模の大教室も、現在は閉鎖状態となっていた。

企業の研修などにも利用されているという大教室

「オンラインなら遠方の方々にも講座を提供できるというメリットがある反面、日本橋エリアならではの魅力を発信してきたWASEDA NEOにとっては、存在意義を問われかねない事態に見舞われているというのが、正直なところですね」(長谷川さん)。

とはいえwithコロナ時代の到来に対し、悲観的な見方ばかりではないとも。

「オンライン講座としては新参のWASEDA NEOでしたが、予想を上回る受講者が集まっています。講座の進め方もこれまでの知見を活かし、なるべくビデオONでディスカッションに参加いただくなど、受講者同士の交流を促すような工夫を取り入れているところです。始まって間もない段階ではありますが、チャットを活用することで教室での講義に比べ、受講者が活発に意見・質問ができるようなったなど、新たな発見もありました。教室での講義再開は未定ですが、今後は教室での開催とオンラインでの開催という2つの軸で、講座を展開していくことになるでしょう」(長谷川さん)。

「そこにいるだけで様々な刺激を得られるのが、日本橋という場所の魅力だと感じています」(長谷川さん)

また、日本橋エリアを拠点とすることの意義について、あらためて考える機会を得たことも、今回の事態をポジティブにとらえられる理由のひとつだという。

「日本橋エリアにオフィスがある大企業のトップを講師にお招きするなど、この地にキャンパスを構えることでこれまでに様々なコラボレーションが実現しています。それを考えると、今後オンライン講座が主流になったとしても、やはりWASEDA NEOが持つ魅力の軸は常に“日本橋”にあると思っています。『何か』を変えたいと思っている方々のための学びや交流の場として、これからもここから発信を続けていきたいですね」(長谷川さん)。

不安定な情勢が続くなかで、人生の糧にもなる学びや交流の場を求める人は、ますます増えている。そうした人が気軽に集い、互いに刺激を与えあう場として、オンラインも視野に入れたWASEDA NEOの取り組みは、これからも『何か』を変えたい人々に寄り添い、進化をしていくことだろう。

INFORMATION

WASEDA NEO(早稲田大学日本橋キャンパス)

住所
中央区日本橋1-4-1 日本橋一丁目三井ビルディング5階(コレド日本橋)
営業時間
平日 9:00-20:00 土曜 9:00-17:00
(日・祝日、年末年始、別途定める休業日を除く)
Webサイト
https://wasedaneo.jp

執筆:石井敏郎、撮影:鈴木智哉

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