昭和6年創業の「金陽社印刷所」が“江戸や京橋を画題に印刷で表現を”との想いからオープンさせた「京はし 満津金」。
江戸、京橋の美意識と価値観について、同社代表であり店主の細田剛社長に話を聞いた。
「江戸以来の町、京橋に昭和6年に創業し、現在に至りますが、以前から“江戸や京橋を印刷で表現したい”という想いが
強かったんですね。ちょうど東京オリンピックが招致された3年ほど前、“京橋遺産とはなにか”を考えるようになりました。世界遺産のように、京橋を象徴するものとは一体なんだろう、と。」
浮かんだのが「竹河岸・大根河岸・町火消・擬宝珠・歌川広重・江戸歌舞伎発祥の地」の6つのキーワード。
その後、満津金を立ち上げるため、具体的な構想に入ったという。
「京橋遺産を画題に、印刷会社が手がける“粋”の表現にこだわりました。形あるものだからこそ、江戸の香りがする、
人に喜ばれるものを。そんな商品展開を楽しんでもらいたい、と。開店までに構想3年、商品の開発には2年かけました。
おかげさまで2016年11月16日に念願の開店を迎え、ホッとしています。」
こじんまりとした店内に身を置くだけで店主の並々ならぬ想いがうかがえ、タイムトリップしているかの気分まで味わえる。では、京橋の美意識と価値観とはなんだろうか。
「当店でも販売している、江戸町火消を画題にした錦絵師の岡田親さんの言葉を借りると、“さり気なさ”を大事にする。
それが京橋の人の美意識であり価値観ですね。あまり目立たず、押しつけがましくない。そんな“さり気なさ”が魅力です。
また、京橋の町への想いが強いことも京橋人ならでは。江戸時代に存在したたいせつなものを残していこうという活動も
盛んなんですよ。」
その象徴的なエピソードが、京橋町民の有志が区に申請し、竹河岸の地名を復活させた「京橋竹河岸通り命名式」だ。
「大根河岸は大きな碑があり認識されていましたが、竹河岸は竹河岸ビルが存在するくらいで名残がありませんでした。
竹河岸は、耳かきや竹ぼうき、竹馬など、常に身近な遊具・生活具で、江戸一の竹市場が栄えたほど。かの有名な名所
江戸百景を描いた歌川広重が、江戸・京橋のランドマークはどこだ?と考えたときに選んだのが、かつて竹河岸があった
京橋だったんでしょう。そんな竹河岸を現代に蘇らせようと、竹河岸通りの道標を作り、命名式を行ったのが2013年4月。
京橋の人間にとって、竹河岸は親しみと想いが強い大事な存在です。」
その竹を使用した商品を満津金でも手がけている。
中越パルプ工業が竹100%を原料に開発した「竹紙」を用いた一筆箋だ。
「竹河岸を印刷に活かしたいとの想いから、満津金の一筆箋類はすべて竹紙で作りました。ギフトに添えたり、ちょっと
したお礼状に使用したり、手前味噌ながら非常に良い商品だと自負しています。たとえば、ダイレクトメールがたくさん
届いた中で、一通だけ手書きがあると心に残りますよね。
京橋の象徴である竹河岸とともに、印刷会社だからこそ書く文化を残したい。そんな願いをこめました。」
古くから伝わる文化を残す活動も活発な一方で、現代文化のインターネットの力も上手に取り入れている。
「当初、SNSに対して半信半疑だったんですね。ところが、満津金をはじめてから実感したのは、開店以降、広告らしきものはいっさい出していないにも関わらず、途切れなくご来店いただくのはSNSのおかげということ。お買い求めいただいたお客様がFacebookやInstagramに写真を投稿いただいているようで、それを見たという方々がよくいらっしゃるんですよ。」
むしろ長い歴史をもつ老舗ほど柔軟性があり、センスのよいHPなどを展開していることも注目といえる。すべてにおいて「江戸の町や文化の継承」がうかがえるのが小気味よい。
「中央区に本社を置く企業の力添えもあり、京橋も含め、この地域は下町連合という呼び名で活動していますが、自覚や
誇りをもち、力をあわせて活性化させていこうという意識が強いんですね。江戸以来の町だからこそ、貴重な有形財産だと
感じています。今後も守っていきたいですね。」
“さり気なさ”が魅力の京橋、そしてそんな文化を形にした満津金に足を運んでみてはいかがだろうか。