第3回目の今回は、浴衣の染め方、盛夏の浴衣の選び方や着方、晩夏に向けての浴衣選びについて、五代目小川文男社長に話を聞いた。
夏本番。浴衣姿を街のあちらこちらで見かける季節がやってきた。着物と違い、誰もが気軽に手を出しやすいのが魅力の浴衣だが、小川社長は、「江戸時代には贅沢品で、いまのように誰もが浴衣を着られたわけではなかった。」と話す。
当時の染めの基本は江戸時代に生まれ明治時代に流行した長板中形。長板に貼った生地の上から約40センチ角の型紙を用いて糊を置き、藍(あい)甕(がめ)の中に入れ、表裏の柄がぴったり合うよう染める高い技術の要る染め方で、職人は1日に2、3反しか作れなかったという。それを合理的にたくさん作ろうと明治20年ごろ編み出されたのが注(ちゅう)染(せん)。型紙を貼った木枠に糊置きをしながら生地を屏風たたみに入れ、如雨露(ジョウロ)で一気に染料を注ぎ込むやり方で、これだと職人が1日100反作ることができたという。
そして、盛夏の浴衣といえば基本は白に藍、藍に白である。「浴衣の始まりは、江戸の中期。木綿と藍の生産が盛んになったからです。ですから藍染。江戸っ子は、特に絵際の美しさにこだわりを持っていました。颯爽と歩けば目を引きます。藍と白のさっぱりした柄は夏だからというだけではなく、江戸っ子の気風が生んだものなんですね」
確かに「竺仙」の藍染の浴衣はクラシカルで美しい。しかし時代を反映してか、イエローやグリーンといった鮮やかな色目の浴衣にも注目が集まっている。「ビビッドな色目は一度着たら覚えられてしまうと敬遠されがちでした。でもいまはご年配の方でも普通にお召しになられる。そういう素地ができてきたんだと思います」
では、盛夏の浴衣の選び方、着方を小川社長に指南していただこう。まず、「絹(きぬ)紅梅(こうばい)小紋(こもん)」という浴衣。「ベースの糸に絹糸を使っており、驚くほど軽いんです。これはぜひ、麻の襦袢をお召しになって、足袋や草履をお履きになっていただきたい。盛夏でもサラサラ感があり、裾さばきの良い浴衣です」
そして「綿絽(めんろ)」。「効果は、長板中形と同じような贅沢な染め上がりの効果を狙っていますが、注染は長板中形の半値以下ですからお求めやすい。絽は、透けるからと襦袢をお召しになりがちですが、着ても涼しい、見た目も涼しいのが綿絽の特徴です。ぜひ素肌にお召しになってください」
さて、夏もお盆を過ぎたころになると、紺白ばかりの涼し気な浴衣にも飽きてくる。9月、晩夏に向けては「奥州絣(かすり)」がおすすめである。「紬(つむぎ)生地に絣糸を織り込んで深みが出るように作りました。粗野な雰囲気から奥州という名前を付けたわけです。ちょっと肌寒くなったかなと思ったら9月の単衣(ひとえ)を意識して襦袢をお召しなってください。」
盛夏に、紺白の絵際の美しさで選び、さっぱりと夏を着るのもよし。着る人も見る人も涼しい透け感のある綿絽を素肌にまとうのもよし。夏だけでもさまざまな種類の浴衣を提供している「竺仙」。着物にはないビビッドなカラーも登場して、ますます選ぶのが楽しい。
(文・織田桂 写真・泉大悟)