案内&文/松田京子 撮影/工藤睦子
気持ちのいい秋の到来です。
秋は1年中で最も空気中の塵が少なく、澄んでいる季節。だから夕焼けもきれいに見えるのだといいます。この空気を堪能しない手はありません。秋は空気がおいしい、秋は食欲も倍増、秋の夜長はお酒も恋しい、とくれば、テラスのあるお店に繰り出すしかないですよね!
暑い真夏にビアガーデンで冷たいビールをのどに流しこむのも乙ですが、爽やかな秋風に吹かれながら美味しいお酒とお料理に舌鼓を打つのはまさに至福。
日本橋、京橋エリアという東京の中心で、そんな極楽気分を味わえるお店にご案内いたしましょう。
五街道の起点、江戸の中心として栄えたお江戸日本橋。日本橋の上に立って東京駅方面に目をやると、橋の袂にテラス席のあるお店を発見。ここが最初にご案内する創作和食のレストラン&バー「ニホンバシ イチノイチノイチ」です。一度聞いたら忘れられないその店名は、日本橋一丁目一番一号という住所をそのまま名前にしたといいます。
入り口のドアを開け、バーコーナーを通って奥に進むと、広々とした客席。さらにその奥に、ありましたありました、日本橋を望む絶景のテラス席です! 足元には日本橋川が流れ、外国人観光客を乗せた遊覧船が楽しげに行き交っています。こんな素敵なロケーションでおいしい食事をいただけるなんて、これ以上の贅沢があるでしょうか。
デートや女子会、合コンでもしようものなら、盛り上がること請け合い。さらにこの場所ですから、仕事の接待や会食にも最適です。お昼にビジネスランチで使う人も多いとか。週末になると客層が一変し、近くの百貨店への買い物ついでに立ち寄るマダムや外国人観光客が増えるそう。どんなお客さんでも楽しめて、使い勝手もいいお店なのです。
さてまずは、その名もずばり「日本橋ビール」でカンパ~イ。このビールは、国分が日本橋100周年を記念してつくったものだそう。酵母入りでコクがある、フルーティーな味わいです。
おつまみには、一番人気だという「塩辛バターのフライドポテト」をチョイス。塩辛を刻んでバターと和えたディップをのせたフライドポテトは、どんなお酒にも合う、呑兵衛にはたまらない一品。塩加減が泣かせます。さらにお酒を注文させようというお店の罠に違いありません。
その罠にまんまとかかり、お次はメニューを見て気になった「ニホンバシ サングリア」を注文。ワインの代わりに日本酒をベースにしたサングリアは、おしゃれな見た目も相まって、女子ウケ必至。
ならばお料理も女子ウケ抜群の「季節野菜とやまゆり豚のせいろ蒸し」にしましょうか。ビタミンBが豊富な豚肉に、紅心大根、れんこん、みょうが、かぼちゃ、さやえんどう、長ねぎ、もやし、キャベツなど、日本各地から取り寄せた野菜、しかも油を使わない蒸しものとくれば、ヘルシーの3乗です。せいろの蓋を開ければ、もうもうとした湯気に包まれたカラフルで見目好い野菜が登場。ゴマだれでいただきます。
これで体が浄化されたので、もっと飲んでもいいですよね。ではお次は、いよいよ日本酒にまいりましょう。お江戸の中心で飲むなら、やっぱり日本酒は欠かせません。店長の上西健児さんおすすめ、三重の「勘兵衛 本醸造」をいただきます。やや辛口でキレがあり、それでいて米の旨味がしっかり感じられます。
合わせる料理は「牛ハラミ肉のほう葉味噌焼き」で。枯れほう葉の上に味噌をのせて焼く飛騨の郷土料理です。キレのよいお酒が甘めのほう葉味噌と相性抜群。七輪でジュージューと焼いて、少し焦げた香りを嗅ぎながら食べるのも楽しく、ああ、またお酒が進んでしまう……。
いい頃合いなので、そろそろ締めにまいりましょう。この店の看板料理「真鯛の土鍋めし」! ここに来たら、これを食べずには帰れません。蓋を上げると、思わず「わあっ」と声を漏らしてしまいました。湯気とともに現れた、ふっくら炊きあがったご飯に分厚い鯛の切り身がのっています。さあ、身をほぐして、ご飯と混ぜていただきましょう。しゃもじで土鍋の下からご飯をすくうと、ほんのりおこげが。これがまた美味いんですよねえ……。
ただでさえおいしいこの土鍋めし、三度楽しめるのも人気の理由です。まず、そのままで3分の1ほどいただく。次に、白味噌と木の芽のペーストを和えた木の芽味噌をつけて、また3分の1ほどいただく。最後に、残りにだし汁をかけてお茶漬けにしていただく。土鍋ご飯の前にたらふく飲み食いしていましたが、するするお腹に入っていく不思議。日本に生まれてよかったー!と叫びたくなるひとときでした。
こちらはテラス席も最高ですが、中のスペースもとっても素敵です。入り口から入ってすぐのところにあるバーコーナーは、黒のカウンターに赤い照明が効果的に使われていて、モダンでありながら江戸の粋を感じさせます。広々したレストランコーナーは、ダークブラウンを基調とした落ち着いた色彩の中で、オブジェのようなガラスのライトが目を引きます。
発色のきれいな江戸切子風のグラスや、江戸文様の取り皿、箸も塗り箸と、ちょっとしたところに江戸を感じさせる演出も心憎い。この中をギャルソン風のユニホームに身を包んだフロアスタッフ達が料理を手に進んでいきます。
和と洋、過去と現在が同居する空間は、今の日本橋という街を象徴しているかのようです。
さて今度は、京橋まで足を延ばしてみましょう。東海道の起点である日本橋から「京へ上る最初の橋」であったから、その名が付けられた「京橋」。今も昔も多くの人と物が行き来し、日本の商業・ビジネスの中心地として賑わっています。
次にご紹介するのは、そんな京橋の真ん中で出会った、「立って呑むおかだ」。京橋駅直通、2016年11月に開業したばかりの新名所「京橋エドグラン」の1階にありますが、中央通りとは反対側の柳通りに面しているため、喧噪から離れてゆったりとした時間が流れています。
「誰でも気軽に入れるお店」をコンセプトにしたという店構えは、2面がガラス張りで開放的。天井から吊り下げられたガラス灯のオレンジ色の明かりが、ちょっと昭和レトロな雰囲気を醸し出しています。
その明かりに誘われて中に入れば、目の前の棚には日本酒や焼酎の一升瓶がずらり。ほかにも壁にかけられた黒板に、びっしりとお酒のメニューが書かれています。ビールにウイスキー、ワインに自家製サングリアにハイボール……と、ここで気になるものを発見。樽生スパークリングワインとは?
「イタリアから樽のまま仕入れられる生ワインです。スパークリングは微発泡で泡がきめ細かいんですよ」と教えてくれたのは、副店長の吉田実香さん。ちゃきちゃきした別嬪さんです。これは彼女目当てで夜な夜な通う男性ファンがたくさんいるに違いない……と思いきや、あれ? 男性じゃなく女性の常連さんが声かけてる?
そう、ここは、男性はもちろん、女性が一人で行っても、とても居心地よく飲めるお店なのです。吉田さんをはじめ、若さに似合わぬいぶし銀のシブさを持つ店長・片岡豪さん、スーパーアドバイザーと呼ばれてみんなにいじられている“あっちゃん”こと佐々木淳史さんが、初めてのお客さんにも気さくに声をかけて、屋台で飲んでいるみたいな温かい空気を作ってくれるのです。
かつて江戸では、屋外で気軽に料理が食べられる「屋台」が大流行し、庶民のコミュニケーションスポットとして大いに賑わったといいます。また、酒屋が店先で酒を提供し、客は立ち飲みスタイルで楽しんでいたとか。これを「居酒(いざけ)」といって、居酒屋の原型になったそうです。
「京の着倒れ、大阪の食い倒れ、江戸の飲み倒れ」といわれるほど酒好きだった江戸っ子。当時の喧騒が目に浮かぶようです。このお店も、江戸時代の屋台や居酒屋のコンセプトを自然と引き継いでいるようで、歴史好きの私は何ともいえず嬉しくなってしまいました。
常連さんたちも最初は一人で飲んでいたけれど、何度か来るうちに自然に仲良くなって一緒に飲んでいる、という人たちもいるそう。仕事帰りにちょっとだけ飲んで帰りたいな、でも連れが見つからないな、というときにはうってつけのお店です。
一人で立ち飲みはちょっと……と臆さずに、ぜひ足を運んでみてください。もちろん、同僚や友人知人と連れだって行くのも楽しいでしょう。
築地まで材料を買い出しに行っているというフード類も充実しています。秋の燻製シリーズ4点盛りは、旬の秋刀魚、サーモン、カマンベールチーズ、ミックスナッツ。すべて芳しく燻製されていて、泡と相性抜群。
築地にある鶏の名店「鳥藤」から仕入れたもつ煮込みは、柔らかくて臭みがなく、甘辛いタレが絶妙です。贅沢にキンカンも入っていながら、540円という安さ! 同じく築地の老舗「松露」の玉子焼きをここでいただけるのも嬉しい驚き。
片岡店長一押しの「豪の唐揚げ」も、なるほどよく漬け込まれていてお酒が進みます。“秘伝の味付け”とメニューに書かれている、その秘伝の正体をうかがうと、「『新小岩魂』です」というシブい答えで煙に巻かれました(新小岩に住んでいるらしい)。
お店の外にはテーブルや大樽が置かれていて、そこでも飲めるようになっています。まさに江戸時代の居酒の様相。店内でワイワイ飲むのも楽しいですが、秋は断然、外飲みがおすすめです。立ち飲みプラス、外ならではの開放感で、いつもの“飲み”よりも心がゆるりゆるりとほぐれていくのです。
江戸時代に思いをはせつつ、夜空を見上げてグラスを傾ければ、あー、ほんとうに気持ちがいい。
夜風がお酒で火照った顔をやさしく撫でてくれるので、ついつい杯が進んでしまいますが、長っ尻は野暮というもの。江戸っ子の粋にならって、今宵はそろそろ引き上げることにいたしましょうか。
案内人プロフィール: 松田京子(まつだ・きょうこ)
フリーアナウンサー、四万十市観光大使。フジテレビ「プロ野球ニュース」でアナウンサーとしてデビュー。数々の番組司会、リポーターとして活躍するかたわら、セミナー司会や企業の式典司会なども多数。日本一の酒豪県といわれる高知に生まれ育ち、全日本きものの女王高知県代表やミス高知として地元の食を全国に伝えた。CS食チャンネルやテレビ東京「朝はビタミン」「7スタLIVE!」のリポーター時代は、各地の温泉&グルメをリポート。趣味は食べ歩き。
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