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〈はたらく〉 イノベーションの舞台
FRONT of TOKYO

|2018.06.06

誰もが行ける宇宙の実現へ 日本最初の旅行会社が取り組む宇宙開発支援(後編)

国内宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズが開発した全長10メートルの観測ロケット

日本初の民間単独によるロケットの宇宙空間到達なるか。2018年4月28日、歴史的瞬間を見届けようと多くの宇宙ファンが、人口約5,700人の北海道の小さな町に全国から集まった。ロケットを開発したのは地元、大樹町に本社を構えるインターステラテクノロジズ(以下、IST)。“ホリエモン”こと堀江貴文氏が出資する宇宙ベンチャーというと分かりやすいかもしれない。その場にいる全員が固唾を飲んで見守る中、「MOMO2号機」の打上げは、機体準備に時間がかかり翌日に延期。その後、機体の一部にトラブルが見つかり、最終的には夏以降にずれ込むことが発表された。

ぎりぎりの判断を迫られる、緊張の連続のロケット打上げ現場

延期か、続行か。世間の期待に応えたい気持ちと技術屋としてのプライドのせめぎ合い。リスクと延期のコストを天秤にかけた上での難しい判断。想像しただけでも息苦しさを覚えるが、その陰に旅行会社社員の奮闘があったことを知る人は少ないだろう。本インタビューの主役で、株式会社日本旅行(本社:中央区日本橋)が企画、実施する宇宙を体感する旅のブランド「sola旅クラブ」の責任者・中島修さん、その人だ。
sola旅クラブ発足に至る舞台裏や、毎回キャンセル待ちの人気ツアーの内容はこちら

「2018年3月30日、ISTと弊社の間で業務提携契約を締結しました。その最初の成果物が、MOMO2号機の打上げを応援するISTオフィシャルツアーだったんです。sola旅クラブのブランド名で販売し、現地添乗員が同行するコースや、小学生・中学生の子どもだけで参加できる宇宙キャンプ、カウントダウンイベントに参加する日帰りコースなどを用意しました」。

営業企画本部 企画・開発部 国内旅行チームの中島修さん。sola旅クラブの企画から運営までトータルに手掛ける

勘のいい人ならお気づきだと思うが、契約締結の時点でロケット打上げ日まで1カ月を切っている。中島さんは、これだけのプログラムを短時間で企画し、募集をかけ、運営までもトータルに手掛けたというから頭が下がる。

「sola旅クラブの立ち上げから3年。法人営業時代のJAXAや宇宙関連企業との関わりでいえば8年余り。その間、種子島だけでも20発以上のロケットを見送ってきました。現場で得た知見が今回のツアーに活かされたことは間違いありません。また、宇宙科学のファンクラブというsola旅クラブの側面によるところも大きいでしょう。ファンクラブ会員、すなわちsola旅クラブのブランドに興味を持ってくださるファンの方々が一定数いるため、大半のツアーが会員からの申し込みで埋まってしまうんです」。

積極的な勧誘は一切しない。そのsola旅クラブの姿勢が、知的好奇心で集まる居心地のいい知縁のコミュニティにつながり、そこからリピーターが生み出されるという理想的なビジネスモデル。さらに、ISTとの業務提携で、関連ツアーの収益の一部がISTに還元されることになった。参加者は宇宙の魅力を楽しめるだけでなく、いまや国家に代わって宇宙開発を牽引する宇宙ベンチャーのチャレンジに間接的に貢献できるのだ。

ベンチャーとの連携はごく普通のこと。共にチャレンジする

「我われはメーカーではないので、他社と契約を結ぶことではじめてお客様にサービスを提供することができます。JRや航空、ホテルが分かりやすい例ですね。ISTと業務提携した理由は、sola旅クラブが重視する観点、『宇宙開発への理解』を進めるのに、今後のツアーの広がりや民間のロケット開発会社との接点の必要性を感じたから。ベンチャーだからという考えはありませんでした」。

今回の業務提携により、ISTは還元されるツアー収益の一部を次の開発資金に充てることができ、日本旅行はツアーのラインナップの強化を図れる。左写真はツアーでの工場見学風景

大手企業とベンチャーの連携の事例は数多くある。中には、“上下・主従”関係が透けて見えるものも多いが、中島さんの言葉はいたって明快だった。

「既存の国主導によるロケット開発の現場は、どうしても秘密情報の範囲が広くなります。一方、ISTは、工場の見学を許しているだけではなく、部品や道具など、見学者に何でも気前よく見せてくれるんです。そういうところは確かにベンチャーだなぁと感じます(笑)。工具店で売っているペンチを使って、ロケットをつくる彼らの根性をこちらこそ見習わなくてはいけない。一緒にチャレンジする気持ちでいます」。

ツアーの参加者と添乗員、打上げ事業者の気持ちがひとつに

「MOMO2号機の打上げが夏以降に延期されたことは、我われが想定した最悪のシナリオでした。というのも、最近の打上げ延期の大半が悪天候によるもので、明日、明後日に再設定されることがほとんど。ですから、現地に残り、打上げを見届ける参加者は少なくありません。旅行代金をお戻しすることはできませんが、そのときは私も現地に残り、できる限りのお手伝いをします」。

もちろん、やむなく帰る人もいる。今回のISTオフィシャルツアーの状況は、「帰らざるを得ない」と言う方が正しいだろう。でももしかしたら、sola旅クラブの真骨頂が見えるのは、最悪のシナリオが現実になったときかもしれない。

「リピーターのお客様の多くが、『残念だったね、この次は絶対見てやろうね』と、笑って帰られます。そして次のツアーの発売を待って、申し込まれるケースが多いですね。どのツアーでもそうですが、ロケット開発に携わる人の思いをきちんと伝えるようにしています。すると、打上げ延期の一報で、皆さんの応援熱はグッと上がる。我われができることはあくまで、マイナスの状況をプラスに変えるきっかけをつくること。sola旅クラブならではと言っていただけるツアーの一体感も、温かい雰囲気も、つくっているのはお客様なんです」。

地上での宇宙体験からいよいよ宇宙旅行へ

決められた行程を確実にこなすのが旅行会社の常識。延期はクレームを引き起こすリスクを多分に孕んでいるはずだが、sola旅クラブはそんな常識を軽やかに飛び越え、ユーザーに新しい価値を届けている。

「参加者には、家族連れやアクティブシニア層に混じり、30代から40代の女性のお一人様や母娘ペアの姿も見られます。sola旅クラブをきっかけに初めて弊社のツアーを利用されたというお客様が、全体の約半数ですね。嬉しい限りですが、sola旅クラブの可能性はまだまだこんなものではありません(笑)。つい先日も、弊社もメンバーとして参加する宙(そら)ツーリズム推進協議会の『宙ツーリズム』が、観光庁の『テーマ別観光による地方誘客事業 新規選定テーマ』に採択されました。宇宙や星空が観光資源として認められた証です。また、宇宙ベンチャーとのさらなる連携により、衛星を用いたエンタメなど、まったく新しい宇宙関連のコンテンツが生まれる可能性もあります」。

宇宙のようにどこまでも続く中島さんの構想。sola旅クラブのゴールはどこにあるのだろうか。

「最終目標は、安全安心な宇宙の旅。しかも、遠い未来の話ではないと考えています。なぜなら、ライト兄弟が人類初の飛行に成功して100年余り。観光渡航が自由化されたのはたかだか約50年前です。そうかと思えば、米宇宙開発ベンチャー、スペースX創業者のイーロン・マスク氏はこの10年で火星への飛行が実現する可能性を述べています。様々な技術が加速度的に進化する中では、少し前までの「常識」が「非常識」に、「非常識」が「常識」に変わることが珍しくありません。たとえばこんなのはどうでしょう? “高度100キロから上”と定義される宇宙まで、Suicaの対キロ運賃で1,663円。近未来においては、あながちあり得る常識かもしれませんよ(笑)」。

1905年(明治38年)、日本で初めての、列車を使った高野山や伊勢神宮を参拝する団体旅行の斡旋から始まった、日本旅行の旅の新たな可能性への挑戦。そのパイオニア精神は、今でも確実に受け継がれ、子どもから大人まで多くの人に学びと楽しみを提供している。そんな日本旅行が、今も昔も日本道路網の起点、旅立ちの場所として知られている日本橋に本社を構えていることに縁を感じずにはいられない。

中島さんのインタビューの前編はこちら

関連サイト
sola旅クラブ 宇宙体感ツアー(日本旅行): http://www.nta.co.jp/theme/space/

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