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〈はたらく〉 イノベーションの舞台
FRONT of TOKYO

|2018.10.18

“化学反応”が生まれるショールームを拠点に、未知のガラスを作り出す

京橋交差点の一角に、前面が総ガラス張りのビルがある。中に入ると、この日は、森の中のラウンジを思わせる不思議な空間が広がっていた。

空間をゆるやかに仕切るガラスはスピーカーの役割も果たしていて、ガラスそのものからせせらぎの音が聞こえる。天窓を模したガラスに映し出される空は、青空、夕焼け、月の夜空と、時間とともに移り変わっていく。そこに腰掛けていると、ふと自分が、来たるべき近未来にいるような気になる。あるいは、地球とよく似た別の星にいるような——。

ここはAGC(2018年7月に旭硝子より社名変更)が手掛ける体験型ショールーム「AGC Studio」。AGCとガラスの未来を先駆けて体感できる場所だ。この先、ガラスはどれほど大きな進化と変貌を遂げていくのか、AGCのふたりのキーパーソンに話を訊いた。

世界最大手のガラスメーカーが新たな地点へ

創業1907年の老舗企業であるAGC株式会社は、一般的にはガラスの大手メーカーとしてよく知られている。実際に建築用ガラスや自動車用ガラスでは世界No.1シェアで、なんと全世界の自動車の約4台に1台がAGCのガラスを使っているという。またスマートフォンなどに使われるTFT液晶用ガラス基板でも世界No.2のシェアを持つ。「世界最大手のガラスメーカー」と呼ぶにふさわしい存在だ。

加えてAGCは、ガラス以外にも様々な素材や製品で世界に名を馳せている。たとえば耐久性に優れた塗料用フッ素樹脂「ルミフロン®」。これは明石海峡大橋、岡山城、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズなど多くの著名建築物に採用され、東京スカイツリーの全ての鉄骨にも使われている。他にもセラミック製品や重曹でも大きなシェアを占め、意外なところではバイオ医薬品原薬なども扱っている。

これからのラウンジのあり方について新たな可能性を提案する『ラウンジ・デザイン展』。2018年11月30日(金)まで開催される

そんなAGCが今、「脱自前主義」を打ち出し、新たな領域へ歩み始めている。その取り組みのひとつが冒頭のAGC Studioだ。当スタジオは2010年にオープンし、2018年の社名変更を控えた2017年10月に、AGCのブランド発信拠点としてリニューアルされた。AGC事業開拓部 事業創造グループ マネージャーの勝呂昭男さんはこう話す。

「当社はいわゆる素材メーカーなので、BtoB取り引きが大部分ですが、当社の技術の使い方を外の方にも広く知っていただき、新たなビジネス領域を探索するため、コラボレータと共創したソリューションをメインに展示しています」。

「え、これもAGCだったの!?」を発見できるAGC Studio

1階にある「Solution Cafe」では、人々の暮らしに新しいソリューションを提案する企画展が随時行われている。他企業や外部クリエーターとコラボレーションした展示が多く、冒頭で紹介したのも、AGCと建築設計事務所最大手の「日建設計」のコラボレーションによる『ラウンジ・デザイン展』の様子だ。

一方、2階の「Material Lab」はビジネスフロアとして、AGCグループの先端技術や新製品に触れて体感することができる。一般消費者からしてみれば、へえと思うような発見も少なくない。たとえば、ドイツの有名サッカースタジアム「アリアンツ・アレーナ」の独特の外装の素材がAGC製の特殊フィルム「アフレックス®」であることを知っている人がどれくらいいるだろうか。AGC Studioの内装や什器にもAGC製品が使われており、空間のデザインを通して素材の用途が具体的にイメージできるようになっている。

“studio”の名称は、建築家、デザイナー、アーティストとの交流を通じて、新たなガラス文化を共に創り出していく場にしたいとの意味が込められている

ちなみに、AGCの本社は丸の内にある。なぜ東京駅を挟んで反対側の京橋にショールームを構えたのだろう? AGC広報・IR部に所属し、当スタジオの技術アドバイザーを務める木原幹夫さんはこう話す。

「誰もが気軽に遊びに来られるようなオープンな場所にしたかったので、交通の利便性や、京橋交差点角地という視認性の高さから、この場所を選びました。実際に一般ユーザーから専門業者まで様々な人にお越しいただいています」。

ショールームを飛び出し、世界屈指のデザインフェスへ

さらにAGCは、将来の商品ニーズを開拓・先導する存在である外部デザイナーとタッグを組み、ガラスの可能性を大きく押し広げるという取り組みも行っている。それを象徴するのが、世界最大規模のデザインの祭典「ミラノ・デザインウィーク」への出展だ。2015年より4年連続の出展を果たし、AGCの新しいガラスを元にクリエーターがインスピレーションを働かせ、両者が切磋琢磨しながら、これまでにない用途のガラスを生み出してきた。その展示内容からは、まさにガラスの未来が垣間見られる。

左上から時計回りに)「情報を持つガラス」(2015年)、「ガラスの分子構造をガラスで表現」(2016年)、「触って感じるガラス」(2017年)、「音を生むガラス」(2018年)
【2015年】Photo: Takehiko Niki 【2016年・2017年・2018年】Photo: Akihide Mishima

それにしても素材メーカーであり、ほとんどがBtoB取り引きのAGCが、なぜ近年こうして外部との接触を積極的に行っているのだろう? AGCのおふたりからは、こんな興味深い答えが返ってきた。

AGC広報・IR部 AGC Studio技術アドバイザーの木原幹夫さん(左)と、AGC事業開拓部 事業創造グループ マネージャーの勝呂昭男さん(右)

「昔は当社も技術や製品はある程度完成させないと世に出してはいけないという傾向がありましたが、今は昔に比べて変化のスピードが圧倒的に速くなっています。特に自動車やスマートフォンなどは、1年経ったらもう古いと認識されてしまいます。そういうスピード感に対応するには、自社だけでコソコソやっていてもダメなんです。だから最近はネタの段階から外部の会社やクリエーターとコラボレーションし、お互いの得意分野を出し合って相乗効果を生んでいこうという流れが強くなっています」。(木原さん)

「お客さま企業からの注文をこなすだけでなく、我々の方から主体的に新しいものを生み出していかなくてはいけないと考えています。その点、外部のデザイナーさんの感覚は世のニーズの先を行っているので、それに技術で応えるのはとても意味があることだと思っています。展示ひとつをとっても、外部の人に考えてもらうことで、我々が社内でああでもない、こうでもないと延々とやっていたものとは段違いなものが出てきます」。(勝呂さん)

これまでのガラスの概念が大きく覆る

こうして生み出されていく、まだ見ぬ新しいプロダクト。木原さんに、“未来”の一部を教えてもらった。

「ガラスといえばこれまでは光を透過するもの、あるいは物と物を物理的に隔てるものという概念でしたが、これからは建物のガラスを使って外の人にメッセージを伝えたり、自動車のガラスを使って車と人がやりとりしたり、あるいはガラスで音を伝えたりと、何かを『伝える』役割をどんどん担っていくでしょう。実際に当スタジオでもそうした展示物が多くなっています」。

AGC Studioは、そうした様々な“未来”の出発点となり得る場所だ。それは大きなフラスコのような存在かもしれない。異なるもの同士が混ざり合い、化学反応を起こし、時にマジカルなイノベーションがボワン! と生まれる。そのフラスコはガラス製で可視化されており、間口はとても開かれている。

執筆:田嶋章博、撮影:森カズシゲ

INFORMATION

AGC Studio

住所
中央区京橋2-5-18 京橋創生館1・2階
営業時間
10:00~18:00
定休日
月曜日・日曜日・祝日・年末年始
Webサイト
http://www.agcstudio.jp/
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