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〈はたらく〉 イノベーションの舞台
FRONT of TOKYO

|2020.10.15

八重洲発のスタートアップが築く「アナログとデジタルの架け橋」

東京メトロ日本橋駅降りてすぐ、JR東京駅からも徒歩数分以内という好立地が魅力のひとつになっている、東京建物株式会社とXTech株式会社が共同運営するシェアオフィス「xBridge-Tokyo」(クロスブリッジトウキョウ)。2018年のオープン以来、ここからでいくつものスタートアップが育ち、そして巣立っていった。

株式会社N-Technologies(以下N Inc.)も、現在xBridge-Tokyoを本拠地として活動するスタートアップだ。彼らが運営するクラウド郵便管理サービス「atena」(アテナ)は、xBridge-Tokyoのようなシェアオフィスを利用するスタートアップはもちろん、自社オフィスを構える大企業からも注目されるサービスに成長しているという。N Inc.の理念を象徴するサービスともいえる「atena」の概要、そしてN Inc.のメンバーがatenaを通じ提供したい価値について紹介しよう。

左)2020年6月に、同じ東京駅前に所在する他ビルから移転し新たなスタートを切ったxBridge-Tokyo(中央区八重洲)
右)施設の黒板に書かれた文字に、N Inc.メンバーの意気込みを感じる

クラウドを利用し郵便物の管理を代行するユニークなBPOサービス「atena」

リモートワークの普及により自宅で行える業務もかなり増えたが、それでも会社に行かなければ片付かない仕事は残るもの。そのひとつが、郵便物の取り扱いである。コロナ禍で在宅勤務を推奨されながらも、会社に届いた郵便物を整理するためだけに、出社を余儀なくされている人もいるだろう。そんなジレンマの解消に貢献するサービスが、N Inc.の「atena」である。

一言でまとめるとatenaとは、郵便物の受け取りと管理を代行するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の一種だ。クライアントにかわりatenaの運営元であるN Inc.が郵便物を受け取り、その表面をスキャニングしてデータベース化。クライアントはクラウドを通じ、電子メールを確認する要領で、届いた郵便物の一覧をリモートで確認できるようになる。

一覧をチェックしたあとで、不要な郵便物の場合はそのまま破棄、実物が必要な場合は郵便として転送、急いで内容を確認したい場合は開封して中身をスキャニングというように、目的に応じた作業をN Inc.に代行してもらうことが可能になっている点が、このサービスの大きな特徴だ。

atenaがサービスを開始したのは、2020年5月。提供内容を考えれば、いかにもコロナ禍を起点に着想されたかのように思えるかもしれないが、N Inc.代表の白髭直樹さんがこのサービスのアイデアにたどり着いたのは2019年のことだった。ニュージーランドに住みながらフリーランスとして働いていた際の経験がベースになっているという。

atenaのサービスイメージ

「海外に拠点を置くスタートアップやフリーランスにとって、いちばんやっかいなのが郵便物の扱い。一部の契約書や請求書など、日本国内の住所でないと受け取れない郵便物って結構あるんです。現地で知り合った人のなかには、郵便物の宛先をつくるためだけに、日本に部屋を借りているケースもありました。

そこで調べてみると、私書箱やメール室代行など既存のサービスは、海外への転送に対応していない場合が多いほか、中身の確認まで代行してくれるものは皆無に近い状況だということがわかりました。日本にないサービスなら、自分で立ち上げてしまえ! というのが、atenaの始まりだったんです」(白髭さん)。

このように、元々は海外に駐在する日本人を主なターゲットとして想定していたatenaだったが、実際にサービスを立ち上げてみると、予想以上に国内からの問い合わせが多かったという。

「もちろんコロナ禍の影響もあると思います。一方で、個人で働くフリーランスから大企業まで、郵便物の整理と管理に代表される“雑務”の軽減が、コロナ禍以前から課題となっていたのだということを、お問い合わせの多さから再確認しました」(白髭さん)。

左)N-Technologies(N Inc.)代表取締役 白髭直樹さん
右)白髭さんとともにインタビューに応えてくれた、同社代表取締役 北方佑樹さん

フリーランスや小規模なスタートアップのような、オフィスを持つ必要がないワークスタイルに対応すべく、運営元で用意した受け取り用の住所に郵便物が届くように手続きしてもらうのがatenaの基本。しかし、スタッフが指定住所を訪問し郵便物を回収するオプションも用意されているので、拠点を持つ企業でも従来と変わらぬ環境でサービスを利用できる。これがatenaの強みだ。

5月のサービス開始から、すでに30社以上の契約があり、そのなかには東証一部上場企業も含まれている。こうした状況を踏まえ、9月にはCoral Capitalから2,500万円を調達。法人向け部門の強化を含め、サービスをさらに拡充していくという。


アナログとデジタル。双方の良さをつなぐサービスの提供がN Inc.の使命

クラウドを利用しクライアントの郵便物を管理するサービスとなれば、やはり要となるのはセキュアなシステムの構築。その重責を担うのが白髭さんとともにN Inc.を立ち上げた北方佑樹さんだ。

「ソフトウェアの堅牢性というプログラミング的な部分はもちろん、お客様から預かった郵便物を正確かつ効率的に管理するために必要な、スタッフのオペレーションを含めた全体像を、ひとつのシステムとして考えています」(北方さん)。

「スマートフォンアプリの作成からマイコンまで、言語を問わずマルチな開発ができるのが、北方の大きな強み。前職で彼と知り合っていなければ、atenaを始めることができなかったと思います」(白髭さん)。

郵便物一覧画面イメージ

郵便物というリアルなアイテムを扱うatenaのようなサービスでは、北方さんが言うようにソフトウェア面の工夫だけでは最適化できない領域が多々ある。クラウド郵便管理サービスと聞けば、いかにもIT的だが、その実態は白髭さん曰く「とても泥臭い」サービスなのだという。

「すべての郵便物にQRコードを利用したIDを付与することでトレースや検索、そして管理を容易にするといった工夫はしているものの、最終的に郵便物を取り扱うのは人間ですからね」(北方さん)。

「お客様の郵便物を回収する、回収した郵便物の表面をスキャニングするなど、サービスの大半が手作業によるものなんです。事業の拡大に応じて、機械化できる部分を増やしていく必要があるのかもしれませんが、郵便物という実体を扱っている以上、人間がかかわるパートをなくすことは難しいと思いますし、なくすべきでもないと考えています」(白髭さん)。

──アナログとデジタルの架け橋。

自社サイトに掲げられているこのメッセージはN Inc.の企業理念であり、白髭さんと北方さんが、社会に対し提供したい価値を端的に示している。

「たとえば郵便物を、思い切ってすべてデジタル化するという考え方もあるとは思います。しかし、制度的に実体の書類をやり取りしなければいけない場面もまだ残っていますし、アナログの郵便物に慣れているビジネスパーソンに、デジタルでのやり取りを強いることが、かえって効率の低下を招く原因にもなりかねませんよね」(北方さん)。

「人間がかかわる以上、すべての仕事をデジタル化できるわけではありません。そのうえで、最適なデジタルトランスフォーメーションを考えるなら、今必要とされているのは、アナログとデジタル、それぞれの領域をつなぐ架け橋となるようなサービスだと、我々は考えているんです」(白髭さん)。

白髭さんは、WEBサイトの制作会社を起点に、映像制作やイベント企画など様々な経験を経てN Inc.を設立した

つまり、彼らの理念を具現化した最初のサービスがatenaというわけなのだ。今後はatenaを軸に、“アナログとデジタルの架け橋”を拡げるような展開を実現させたいという。

「すでに『sweeep』という請求書処理AIとの連携が実現していて、郵便物で届いた請求書の仕分けから振り込みまでを、自動的に処理することが可能になっています。我々が提供するサービスで取り扱っているのは、いわば社内業務の最上流にあたるデータといえます。このデータを上手に活用し、他のサービスと連携させていけば、アナログとデジタル双方の良さを活かした効率化をはかることができるでしょう」(白髭さん)。

「アナログとデジタルの架け橋という点で、エンジニアとしてはIoTの領域にも興味がありますね。たとえば、ポストに郵便物が入っていることを検知するしくみをつくれば、回収の工程をより効率化することが可能になります。このようにアナログな領域には最適化の余地がありますから、ゴールを設けず、常にサービスのアップデートを続けていきたいと考えています」(北方さん)。

フェスやイベントなどのライブエンタメが好きだという2人。アナログとデジタルが密接に融合する点で、現在の仕事とも共通項があるという

余談ながらN Inc.がxBridge-Tokyoに入居することになったきっかけは、atenaを導入できないかというxBridge-Tokyoからの問い合わせだったというから面白い。2人にとって、これまでどちらかといえば縁が薄かった八重洲・日本橋エリアだが、今ではこの地で働くことに大きな魅力と可能性を感じているという。

「一言でいえば、落ち着いた大人の街という印象ですよね。スタートアップといえば、もう少しにぎやかなエリアで活動するイメージがあるかもしれませんが、事業をじっくりと着実に育てるというマインドがある人なら、特にこのエリアは適しているように思えます」(白髭さん)。

「アクセスがとても良いのが魅力ですよね。電車はもちろん、タクシーで移動する場合でも、どこに行くにも結構リーズナブルですし。東京駅も近いから、遠方へ打ち合わせに行くのも便利だったりするので、スタートアップに向いたエリアだと思います。個人的には食の環境が充実しているのもポイントが高いですね。高級なイメージがありますが、探してみれば予想以上に安くて美味しい店がありますよ」(北方さん)。

交通の要所として、また、食の発信地としての歴史を持つ八重洲・日本橋エリアで、人と仕事の関係をより良いものにする新たな“橋”を架ける取り組みを続けるN Inc.。atenaをはじめ、彼らの挑戦は、今後さらに注目を集めることだろう。

関連サイト
株式会社N-Technologies: https://n.inc/ja 
atena: https://atena.life/ 

執筆:石井敏郎、撮影:森カズシゲ

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