古くからの商店が立ち並び、腕のたつ職人がひしめく街としての歴史をもつ京橋。その京橋に10数年前、仲間入りを果たした「京ばし松輪」は、三浦半島の新鮮な魚を使った和食がいただける名店です。同店で腕をふるうご主人、田中さんは、ほがらかながらも芯の強さを感じるお人柄。近隣のオフィスワーカーを中心に常連客が多い「京ばし松輪」の魅力に迫ります。
日本橋浜町で天ぷら屋を切り盛りしていたお祖父様、お店を横須賀に移し家業を継いだお父様をもつご主人の田中さん。田中さんご自身も横須賀のお店で腕を磨いてきました。
そんな田中さんの確かな腕を見込んだ前オーナーから「一緒にやらないか」と声をかけられ、誕生したのが「京ばし松輪」。立ち上げ当初から店主として、素材の旨みを引き出す調理法にこだわり、他店ではなかなか味わえないと評判の料理を提供してきました。
「京ばし松輪」といえば、広く知られる人気メニューが、ランチの「京ばし松輪のアジフライ定食」。ランチタイムは同メニューだけの提供にも関わらず、開店時間の午前11時半前から行列ができるほど。夜のみの営業だった「京ばし松輪」が、約10年前、常連客のリクエストによりランチをスタートさせて以来、多くのお客様に愛されています。
それまで口にしてきたアジフライの概念をくつがえす、臭みがまったくない、肉厚でフワフワサクサクの柔らかさ。大根おろしとわさびとお醤油でいただくのが松輪流。箸で簡単に切れる驚きとともに口に含むと、アジフライ特有の重たさをいっさい感じない軽い食感と香ばしい風味が広がります。お出汁の旨みが体に染みわたる赤だし、ふっくら炊きあげられたツヤツヤのお米との調和も絶妙です。
なにもつけなくてもいただけてしまうアジフライは、「京ばし松輪」独自の流通経路による新鮮なアジの入手を抜きに語れません。一般流通では、当日朝に水揚げした魚の入手は不可能とされています。ところが、「京ばし松輪」は三浦半島の松輪漁港などとのパイプが強く、朝捕れて昼に漁港に入る一番新鮮な魚の入札権をもち、築地に出荷される前に直接買い付けを行うことで、通常ルートでは手に入らない鮮魚の確保を実現しました。
加えて、下ごしらえにも並々ならぬこだわりが。「生きているうちに開く」を徹底し、昼過ぎに店に届いたアジを生かしたまま泳がせておき、直前に氷水で仮死状態に。素早く頭と骨をすべて取り除くため、身がギュッと締まり厚みを出し、さらに塩をふり浸透圧をかけることで、余分な水分が出て美味しさがアップ。この状態でおよそ10時間寝かせます。
「魚が新鮮なので高温で揚げられます。表面がキツネ色、中がレアな状態で油から出し、盛り付けからお客様へのご提供までの1分間で余熱が通る。つまり、揚げすぎてパサパサになることがありません」と語る田中さんの言葉に、他店とは一線を画すアジフライへの自信が伺えます。
「新鮮な最高の状態のアジしか使わない」ため、1日限定70食のみ。貴重な「京ばし松輪のアジフライ定食」をぜひご賞味あれ。
また、追加メニューとして、数量限定の「海鮮漬け小鉢」、辛味と風味のバランスが絶妙な「柚子胡椒」、コクがたまらない「汐辛」が用意されています。いずれも同店特注の手作りです。
夜の常連客からのリクエストで生まれた「京ばし松輪のアジフライ定食」ですが、「夜も食べたい」との声が増え、今では揚げ物が入るコースに必ずアジフライが登場。ランチ同様、良心的な価格のコースが並びます。雰囲気のよい店内でいただく魚中心の和食に、舌鼓を打つひとときを楽しんでみては。