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|2016.09.01

外国人観光客が敬意を表する、まちの歴史と技。「吉野鮨本店」

吉野鮨本店で、煮切り醤油が塗られたトロの握りを食すメラニーさん。「煮切りを塗る分、つけ醤油のほうはそのままだと味に角が立ちすぎるので、水でちょっと割って一度、煮立たせてあります」と吉野さん。


東京の玄関口として多くの外国人客が利用する東京駅。東京を訪れる外国からの旅行者は年々、増加の一途を辿っており、平成13(2001)年の約267万人から、平成22(2010)年には約594万人と、10年で約2倍に増えた。

「オーストラリア、ニュージーランドと羽田・成田間は、LCCであるジェットスター航空が運行しているので、今後も空港から東京駅経由で、鉄道やバスを利用して日本各地に向かう外国人観光客は増加するでしょう。しかし一般的に外国人観光客は、東京駅を出ても、日本橋・京橋エリアまで足を延ばしにくいかもしれません。かくいう私も、ホテルや日本橋髙島屋など百貨店、名橋・日本橋まで訪れても、これまでなかなか路地を散策することはありませんでした」と、在日オーストラリア・ニュージーランド商工会議所の会頭、メラニー・ブロックさんは言う。

この日、メラニーさんは日本橋三丁目にある吉野鮨本店で昼食を取っていた。四月、日八会さくら祭りで開催されたストリートラグビーの打ち合わせなども兼ねてのことだ。

老舗など、東京・日本の「技」を、ありのまま見せてほしい。


メラニーさんは昭和57(1982)年から一年間、青森県八戸市の高校に留学した。「ホームステイ先がとても温かく迎えてくれて。帰国時には帰りたくないと大泣きした記憶があります」(メラニーさん)。「南部弁を身につけて」帰国後、大学では日本語を専攻。平成6(1994)年に再来日。6年前、在日オーストラリア・ニュージーランド商工会議所の会頭に就任した。

「日本では、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、英語対応の自動販売機が開発されたと聞きました。外国人が日本で快適に滞在できるようにとの心遣いは嬉しいですが、正直言って、そういうことはあまり問題ではないと思います。ジュースを買ったつもりがコーンスープが出てきたとしても、それは小さな冒険、旅の面白さのひとつです。私が思うに、日本の誇れる『技術』をありのまま見せてもらえることのほうが、大切なように思います。工業、福祉、そして吉野鮨のような伝統の技もそうです」

八重洲、日本橋、京橋界隈には、江戸期創業の老舗店が数多く残っている。明治12(1879)年創業の「吉野鮨本店」もそのひとつ。現在は五代目の吉野正敏さんが店を営んでいる。屋台からスタートしたこの店は、マグロの「トロ」という名前が生まれた店としても知られている。脂が多いことから「アブ」などと呼ばれていたトロは、冷蔵庫のない時代、傷みやすいため人気がなかった。しかし二代目と客との「トロっとしていて案外旨い」という会話から「トロ」という名前が生まれ、今ではすっかり一般的に。

「握り寿司はいわば、江戸東京の郷土食。うちにも外国人のお客様がいらっしゃいますが、英語・日本語ができなくても、お互いに伝えようとの気持ちがあれば案外、通じ合えるものですよ」と正敏さん。
「オーストラリアは歴史が新しい国なので、吉野鮨さんのように四代、五代と続く飲食店はなかなかありません。だからとても貴重に感じます。この辺りは、本当の日本が残っていると言ったらいいのでしょうか、海外ブランドが並んでいる繁華街とは違うよさがあります。

『FUJIYAMA』や『MAIKO』もいいですけど、まずは東京で、歴史を重ねる老舗店を訪ねてみたい。もっと言えばラーメンを食べたりコンビニへ行ったり、そういう日常の日本だって十分、面白い」とメラニーさんは言う。

吉野鮨本店でにぎりを味わうなら、お昼の「盛り合わせ」
(2160円)をぜひ。夜の予算は1万円〜。

スポーツを通じた草の根の交流が、両国の経済を活性化する。


とはいえ「点在する老舗店などに誘導するためのわかりやすいサインや、地図・標識などのインフラを整えることも重要」であり、加えて「草の根的な交流が必要」と、メラニーさんは力説する。「私たち商工会議所としても、今後は互いの中小企業同士のビジネスが成立するよう、働きかけていきたい」と語る。

その試みの一つが、ストリートラグビー(路上で競技できるよう簡易化したラグビー)だ。ストリートラグビーアライアンスが主体となり、地域の青年部と企業が協力して、昨年、そして今年と、日本橋さくら通りでストリートラグビーの大会を開催。オーストラリア・ニュージーランド商工会議所も協力し、同国のチームも参加した。まさに両国交流のための、草の根の取り組みだ。

「2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップも、大きなチャンスといえましょう。私は第二の故郷といえる青森県八戸市の特派大使も務めていますが、今、日本の『地方』は、経済的に苦しいところが多い。各地でラグビーワールドカップを開催することにより、世界中から人が集まって、地方の景気回復に役立つと信じています」

「行政だけにまかせるのではなく、企業など、民間が動くことが必要」と語るメラニーさん。日本を愛するメラニーさんのアドバイスは、具体的かつ前向きで頼もしい。こうした声を活かすことが、より多くの人々に楽しんでもらえる、魅力的なまちづくりに繋がる。
 

INFORMATION

吉野鮨本店

住所
中央区日本橋3-8-11
電話番号
03-3274-3001
営業時間
11時〜14時、16時30分〜21時30分(土はお昼の営業のみ)
定休日
日曜・祝日
Webサイト
http://r.gnavi.co.jp/g195100/

TEXT:野村麻里、PHOTOGRAPH:渡邉茂樹
東京人2016年7月増刊より転載。

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