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〈むかしみらい〉 地元企業物語
Campany's story in our town

|2022.02.09

若者が好むヒト・モノ・コトを当事者として提案。日本橋髙島屋『つづくつなぐマーケット』

昨年、創業190周年を迎えた老舗百貨店の「髙島屋」。その歴史を代表する日本橋髙島屋は、百貨店で初めて国の重要文化財に指定。格調の高い百貨店として、親・子・孫3世代にわたって買い物に来ている家族も少なくない。そんな日本橋髙島屋で、ミレニアル・Z世代社員によるプロジェクト「つづくつなぐマーケット」が発足し、新しい客層を取り込みつつある。同名イベントに込められた想いやコンセプトを、婦人服フロアセールスマネジャーの関はるひさん、和食器・洋食器フロアの石坂早さんに聞いた。


価値観を共有する若者たちがコミュニケーションで築く売場

環境にやさしいものづくりやアートワークを行う若手クリエイターらが出店するイベント「つづくつなぐマーケット」。2021年8月に第1回が催され、今年2月16日~21日まで第2回が開催される予定だ。イベントの背景には、年々高まる若者の百貨店離れにあった。

婦人服フロアセールスマネジャー・関はるひさん

「特に日本橋髙島屋は、長年通ってくださっているミセス、それ以上の世代の方が多く、もっと若い方にも興味を持ってもらうにはどうすればいいかが課題でした。そこで、ミレニアル・Z世代のプロジェクトメンバーそれぞれが自分軸で売場に求めるものを考えてみたら、『ファッションに近いおしゃれなフードのコーナーがほしい』『サステナブルな商品が集まったエリアがあったら便利』『美術画廊はあるけれど、そこまでいかないポップカルチャーや手の届くアートを見たい』など実にさまざま。また、百貨店として、同世代のクリエイターをバックアップしていきたいという共通の目標も見えてきました」(関さん)

婦人服、リビング、食品といった従来のアイテム分類ではなく、若者の多様なライフスタイルや価値観をかたどった売場を。こうして第1回「つづくつなぐマーケット」は蓋を開けると、20代から30代の多くの若者が来場。好きなクリエイターのSNSで告知を見て、日本橋髙島屋に初めて来店したという人も。関さんは「日本橋にも百貨店にも来ないであろう客層を呼び込めたのは、大きな収穫でした」と語る。

第1回つづくつなぐマーケット。環境にやさしいアイテムが並ぶ

「つづくつなぐマーケット」では、企画立案から出店交渉、運営まで、自分たちで行うことを課している。そうした組織横断のプロジェクトを、まだ経験の浅い若手社員が通常業務に加え進めなければならないのだから、さぞ目まぐるしい日々だろう。何がモチベーションとなっているのだろうか。

「フロアや担当の壁を越えて同世代のメンバーが集まるたび、刺激をもらえます。たとえば、出店候補を検討するプレゼンで、こんなサステナブルなブランドやお店があったのかと驚いたり。また、入社1~2年目の社員の新鮮な意見もとても参考になります。私が所属するリビングフロアの品揃えにもフィードバッグできることも間違いなくあると思います」(石坂さん)


サステナブルで、カルチャーとの結びつきが深いブランドにフォーカス

2月に開催される第2回は、ヴィンテージテイストやスポーツカルチャーから生まれたファッション6ブランド、雑貨やフード17ブランド、アート・フォト6ブランドの約30ブランドが参加する。選定にあたっては、百貨店の未来を見据えたときに必要かどうかという第1回のときからの視点を踏襲にしつつ、新しいメンバーのエッセンスも盛り込んだ。

「Z世代の社員にほしいものをあらためてヒアリングするとやはり、漠然と『服』がほしいという購入の仕方ではなく、『このカルチャーの中の、この人が作った服だからほしい』といったことが響く。ヴィンテージを購入する層が多いのも、カルチャーを買っている意識が強いことが分かりました。アップサイクルの意味でも、今回はヴィンテージを取り扱うブランドの出店に力を入れているんです」(関さん)

ポイントは、ただ、おしゃれだけじゃなく、共感できるコンセプトやカルチャーを表現しているモノであるかどうか。とはいえ当然、会社からのオーソライズを得る必要がある。商品のクオリティに対するシビアな評価は老舗百貨店ならではのものだ。新たな取引関係を結ぶのに費やすメンバーの努力が、百貨店・ブランド双方の未来に利益をもたらすことも、「つづくつなぐマーケット」の価値のひとつだろう。

「雑貨は、日本各地で受け継がれる手仕事にフォーカスしたセレクトとなっています。地方の職人さんや作家さんほど、百貨店のマスの力を必要とされているケースが多く、そうした作り手と首都圏のお客様をつなぐことも『つづくつなぐマーケット』のミッションと捉えています。根底の価値観を共有する同世代だからこそ、その良さがきっと伝わるのでは」(石坂さん)

和食器・洋食器フロアの石坂早さん

出店交渉を行う過程では、強いこだわりからこんな壁にもぶつかったことも。

「作り手にはできる限りイベントに来ていただいてお客様と直接お話をしてほしい、とお願いしました。人手の問題やコロナの影響で難しい交渉でしたが、もしも私がお客様だったら作り手の作品への想いや歴史的背景を知りたいし、作り手にとってもプラスになることだと思ったので、丁寧にこちらの思いをお話しました」(石坂さん)


同世代がいいと思う同世代のものを紹介したい

メンバーの粘り強い交渉により全容の固まった新たな売場のおすすめを、関さんと石坂さんそれぞれに紹介してもらった。

「ファッション担当があえてフードやアートをセレクトすることで、見た目のポップさにもこだわっているのですが、その中でも、コンセプトへの共感という点で、アメリカンヴィーガンクッキーの専門店『ovgo B.A.K.E.R(オヴゴベーカー)』は外せません。同ブランドの1号店のある日本橋小伝馬町や、また兜町の辺りは近年、新進気鋭のシェフや若いクリエイターの方の出店が多く盛り上がっているエリア。その代表格で、20代のオーナーが営む『ovgo B.A.K.E.R』を、近隣の百貨店としてあらためて皆様にご紹介できれば。また、卒業したばかりのクリエイターによるブランド『IIYU TEXTILE』もユニークです。その名の通り、日本の銭湯の文化を継承し、織物メーカーと組んでポーチなどのグッズを展開しています」(関さん)

左)アメリカンヴィーガンクッキーの専門店「ovgo B.A.K.E.R」
右)「ゆ MORE LIFE.」がコンセプトのテキスタイルブランド「IIYU TEXTILE」

「雑貨のイチオシは、『yuki onizuka(ユキオニヅカ)』。伝統的な刺繍の技法『横振り刺繍』で作られたジュエリーブランドです。1991年生まれの鬼塚さんは、扱いが難しい専用ミシンの貴重な技術継承者で、その手から生み出される繊細で独創的な構造のジュエリーはこれまで見たことがありません。また、和晒ロールを提案するブランド『さささ』にも伝統が息づいています。茹でた野菜の水切りをしたり食器を拭いたり、汚れてきたら掃除に使っても。コーヒーを淹れることもできます。個人的にも和の道具を生活に取り入れることに憧れがあるので、その事始めに寄り添ってくれそうです」(石坂さん)

刺繍ジュエリーブランド「yuki onizuka」

日本全国から人や物が集まり、文化の中心として発展してきた日本橋の街と、多様な価値観とサステナブル志向を持つミレニアル・Z世代。実は親和性が高い両者をまさに“つなぐ”役割を果たす日本橋髙島屋の「つづくつなぐマーケット」。イベントをきっかけに若い世代が日本橋を訪れることで、街はさらに活気にあふれるはずだ。

「SNSを活用すれば誰でもビジネスができる時代ですが、リアルなショップで何かするのはハードルが高い、と言う作り手はまだまだ多くいます。今回のイベントを通して、百貨店という屋号にアドバンテージを感じてくれるクリエイターもいると分かり、『両親が知っている髙島屋でならお店を出したい』なんて声も。いい商品、いいブランドが広まるきっかけを、百貨店が作る。そのためにも社会の価値観の変化にいち早く気づき、複数の要素を一貫したテイストや世界観でつないだ売場を、これからも模索していきたいです」(関さん)

推しの商品のこととなるといつまでも話は尽きない

関連サイト
つづくつなぐマーケット:
https://www.takashimaya.co.jp/nihombashi/departmentstore/special/tsuzuku_market/index.html
https://www.instagram.com/tsuzuku_market/
 
執筆:野々山幸(TAPE)、撮影:島村緑

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