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〈むかしみらい〉 地元企業物語
Campany's story in our town

|2022.11.04

お菓子に夢を。グッズも大人気のロングセラー「たべっ子どうぶつ」が体現するギンビスの企業理念

「らいおん」、「きりん」、「さる」に「かば」など、ポップでカラフルなデザインの動物たちが並ぶパッケージが印象的な『たべっ子どうぶつ』。1978年以来、半世紀近く販売されているロングセラー商品だ。最近では、ビスケット菓子の枠を超え、キャラクターグッズの分野でもブームを起こしている。なぜ『たべっ子どうぶつ』は、世代を超えひろく愛される存在となったのだろうか。その答えは、製造・販売を手掛ける株式会社ギンビス(中央区日本橋浜町)が、創業以来守り続ける企業理念にあった。


「真似はされても、真似をするな」の精神で独創的な焼き菓子を開発

1930(昭和5)年、宮本芳郎・須美子夫妻が創業した和洋菓子の製造卸「宮本製菓」が原点となるギンビス。1945(昭和20)年には銀座一丁目に営業所を開設して名称を「銀座ベーカリー」に改め、同時にレストランを開店。その頃から、本格的にビスケットの製造販売を手掛けるようになったという。

銀座一丁目に開店したレストラン「銀座ベーカリー」の当時の様子(写真提供:ギンビス)

「『ギンビス』という社名になったのは、現在本社がある日本橋浜町に本社社屋を建設した1974(昭和49)年のことです。当時、文化や流行の発信拠点だった銀座を代表するお菓子をお客様に届ける、ビスケットのリーディングカンパニーでありたいという想いから命名された社名だと伝えられています。つまり、“銀座とビスケット”で“ギンビス”というわけですね」(株式会社ギンビス 吉村萌子さん)。

今回お話を伺った、ギンビス 営業本部 広報担当 吉村萌子さん

ちなみに“ギンビス”という通称は、74年の社名変更以前から使用されていたとのこと。たとえば1952(昭和27)年には、その名もずばり『ギンビスコ』という商品が、第12回全国菓子博覧会の名誉大賞を受賞している。このことからも、創業者・宮本芳郎氏の“銀座のビスケット”に対する情熱がうかがえる。

「品質はもちろん、宮本は製品のオリジナリティも重視していました。その好例が、『たべっ子どうぶつ』以上のロングセラーとなっている、1968(昭和43)年に全国流通菓子として発売された『アスパラガスビスケット』です。ビスケットの形状は丸や四角が主流だった時代に、敢えてスティック型の商品を開発したのです。さらに、節をつけて食感をよくしたり、ゴマを加えて風味をアップさせたりといった独自性を発揮することで、ヒットにつながりました」。

1968年以来、ほぼそのままのパッケージデザインで販売されている「アスパラガスビスケット」。プロテイン入りなど、健康に配慮したバリエーション商品もある(現在は販売終了)

「真似はされても、真似をするな」が口癖だったという宮本氏。それを起点に生まれたのが、現在もギンビスの経営方針となっている「3つのI」だ。そして、この経営方針を現在もわかりやすく体現する商品の筆頭が、1978(昭和53)年に登場した『たべっ子どうぶつ』なのだという。


『たべっ子どうぶつ』に込められた経営方針「3つのI」とは

「弊社が経営方針として掲げる『3つのI』は、国際性(International)と独自性(Independent)、そして教育性(Instructive)の頭文字にちなんでいます。『たべっ子どうぶつ』に当てはめると、ビスケットに動物の名前がアルファベットで表記されている(国際性)、46種類の形状がある素焼きビスケットは唯一無二である(独自性)、形状にちなんだ動物の名前を英語で楽しく学べる(教育性)ということになります。ただ食べて美味しいだけではなく、親子のコミュニケーションビスケットとして、学びながら、そして楽しみながら美味しく食べてもらえるお菓子を作りたいという思いがありました」(吉村さん)。

実は『たべっ子どうぶつ』には、いわば“ルーツ”とでも呼ぶべき商品が存在する。1969(昭和44)年に発売された『動物四十七士』がそれだ。

『動物四十七士』のパッケージ(現在は販売終了)。右下に、大きくコアラがフィーチャーされているが……

写真を見ればわかるように、ビスケットが厚みを帯びていることを除けば、英単語の焼き印など『たべっ子どうぶつ』に、かなり近い「3つのI」を体現する商品だったことがわかる。

「ぽってりとした形状で素朴な味わいが人気だった『動物四十七士』をベースに、お子様に親しんでいただけるような商品として、薄焼きのバター味ビスケットとして発売したのが『たべっ子どうぶつ』です。そもそも、たくさんの動物をモチーフにしたビスケットのアイデアは、自宅で仔豚や子熊まで飼っていたという、宮本の動物好きから生まれたと伝えられています。ちなみに、弊社のロゴマークの『コロちゃん』という名前は、宮本が飼っていた子熊がモデルなんですよ」。

余談ながら『動物四十七士』が、その名の通り47種類の動物をモチーフにしているのに対し、『たべっ子どうぶつ』でモチーフとなっている動物は46種類。惜しくも『たべっ子どうぶつ』のビスケットになれなかった動物は、『動物四十七士』のパッケージに大きく記載されていたコアラだ。薄焼きビスケットにすることで、どうしても耳が欠けてしまうことが、選から漏れた理由なのだとか。少し気の毒な気もするが、これも品質にこだわるギンビスならではの決断、といえるだろう。


社長みずから味を毎日チェック。“変えない”ことへのこだわりが生むブランド力

『たべっ子どうぶつ』に込められた、ギンビスのこだわりはパッケージにもあらわれている。1978年の発売以来、根本的なデザインを、ほとんど変えていないのだ。

「『たべっ子どうぶつ』だけでなく『アスパラガスビスケット』など他のロングセラー商品も、発売当初からほぼ同様のパッケージデザインになっています。親から子へと世代を超えて愛される商品を目指すため、売り場に行けば一目でわかるようにしていることが理由です。もちろん味についても、期間限定のフレーバーを追加することはあっても、ベースとなる味は、いっさい変えていません」。

アメリカ版(左)と、中国版(右)のパッケージデザインも、日本版のそれと基本は同じ。『たべっ子どうぶつ』のブランド力の高さを示す証拠ともいえる

聞けば“変わらぬ味”を維持するため、社長みずから毎日のように製品をチェックしているのだとか。「定番の味を守る」と文字にするだけなら簡単だが、一世紀近くにわたりそれを続けるためには、並々ならぬ企業努力と揺るがぬ理念がなければ困難だったはず。ここにもギンビスの強いこだわりが感じられる。


多様なキャラグッズ展開も好調。目指すはお菓子を通じた世界平和への貢献

ギンビスのこだわりが詰まった『たべっ子どうぶつ』に“新展開”が生まれたのは、2018年頃のこと。2019年にはカプセルトイの発売をきっかけに、キャラクター商品が続々と登場するようになった。

「小さなお子様に食べていただくことを念頭に開発されたため、親子向けのビスケットというイメージが強かった『たべっ子どうぶつ』は、その“中間”にあたる世代へのアピールが弱い、という課題を抱えていました。そこで、定番の味やパッケージは変えずに、パッケージのキャラクターを活かしたPRができないかと企画されたのが、キャラクターのグッズ展開です。初期に発売したカプセルトイが話題を呼び、その後は文具やアパレル、家電雑貨など、多様な分野で商品化されるようになりました。現在では、毎月のように新アイテムが登場するため、最新のアイテム数を把握するのが難しいほどなんですよ(笑)」。

ギンビス本社のショールームには、『たべっ子どうぶつ』のキャラクターグッズが、ぎっしりとディスプレイされている

幼少期に刻まれた『たべっ子どうぶつ』のキャラクターに対する温かな“記憶”が呼び起こされるグッズの数々は、昨今人気の「80’sレトロ」テイストにマッチしたこともあり、若い世代の女性を中心にヒット。現在では『たべっ子どうぶつ』以外の商品もグッズ化されるなど、ギンビスグッズは大きなブームとなっている。その結果、若い世代がギンビスのお菓子に再注目するようになったというから、まさに企画が大成功したわけだ。

「昔ながらの風情と新しい景色が融合する街並みが好きなんです」と本社がある日本橋浜町の魅力を語ってくれた吉村さん

「キャラクターグッズから感じられる“懐かしさ”、そして再び弊社の商品を食べていただくことで感じる“懐かしさ”は、創業以来変わらぬ味とパッケージにこだわってきたからこそ醸されるものだと思っています。先ほどご紹介した『3つのI』のほかにも、弊社には『お菓子に夢を』、そして『お菓子を通して世界平和に貢献する』という企業理念があります。おいしいお菓子を食べると、誰でも幸せな気持ちになれますよね? つまり、おいしいお菓子は平和の副産物であるともいえるんです。これからも変わらぬ味と価値を追究することで、お客様にお菓子を通じた夢をお届けし、それが平和への貢献につながればと、私たちは願っています」。

いわば『たべっ子どうぶつ』のキャラクターたちは、夢と平和の使者でもあったのだ。創業以来、1世紀近く“変わらぬ味”へのこだわり続けているギンビス。その実直かつ健全な取り組みは、これからも多くの人々に夢を与えることだろう。

関連サイト: https://www.ginbis.co.jp/

執筆:石井敏郎、撮影:島村緑

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