今年で5回目を迎える屋外型国際写真祭「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」。東京の中心である八重洲・日本橋・京橋をメイン会場として2023年10月7日~29日に開催される、世界的にも珍しい大都市のオフィス街で行われる写真祭です。
その開幕を翌日に控えた10月6日、展示会場のひとつである東京スクエアガーデンにて、出展作家、関係者、メディアが参加した交流会が開催されました。当日は海外の作家も来日し、和やかな雰囲気で交流を深めました。
「LINK UP!」をテーマに、過去最大となる20人の作家の作品を展示
2017年にスタートし、今回で5回目となる「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」(以下、「T3」)。メインの会場となる八重洲、日本橋、京橋という東京駅の東側に位置するエリアは、再開発で日々まちが進化を続けながら、一方で江戸時代から続く老舗や古美術商などが多く残る、まさに昔と今の文化が交差する場所。東京建物がこのまちに「T3」を招致し、年々連携企業を巻き込み、まちにおける展示数を増やしてきました。メインの企画展の他にもこのエリアを舞台に世界各国の作家たちによる作品展示やトークショーなどのパブリックプログラム、さらには国内の美大、専門学校と協力し開催する作品展示や特別授業などが行われます。
交流会のはじめに、プロジェクトチームのファウンダー(設立者)・速水惟広さんから開会と乾杯のご挨拶がありました。
「名称にある『T3』は、米国の社会学者リチャード・フロリダが提唱した『都市の繁栄に必要な3つのT(技術、才能、寛容性)』に由来しています。この写真祭を通し、本日ここに集まっていただいた写真家のみなさんが、まちと関わりながら創作活動ができるグラウンド作りができたら、写真界にとって意味のあることなのではないかということでスタートさせていただきました」(速水さん)
その会場として選ばれたのが、東京駅東側エリアです。なかでも京橋はもともと「映画のまち」として知られていました。その歴史を紐解くと、この界隈は古くから写真のフィルムを現像するラボが多く集まるエリアだったとか。そのつながりで映画のフィルムも現像しやすい場所だったことから、東映や日活が拠点を構える「映画のまち」として栄えました。そのような写真とのゆかりの深い土地に縁を感じ、2020年以降、「T3」はこの周辺をメイン会場に。現在では多くの地元企業の協力のもと、地域連携で開催されるイベントへと変化してきました。
「本年度のテーマは『LINK UP!』です。このエリアに京橋と日本橋をまたぐ骨董通り(東仲通り)というのがありまして、ここには約150の画廊や古美術商が点在しています。ある時、それについて写真家の濱田祐史さんとお話ししていたときに、縄文土器でお茶をたてて飲んだことがあると聞きました。そういう体験ができる傍らで、ペットボトルでお茶を飲むこともできる。そんなことができるのは現代を生きている人だけだなとガツンと衝撃を受けて。まさに『時間』という軸において、今を生きる僕たちが最もグラデーションの豊かな時代に生きているんだと思いました。また最近はオンラインで海外の方とも気軽にやり取りができて、距離の尺度も変わってきています。まさに『古いものと新しいもの』『リアルとオンライン』が混在する時代。今回はそんな『時間』と『距離』という座標軸において、今まで想像もしていなかった点と点を結ぶことで生まれるおもしろさを見つけていこうと、このようなテーマとさせていただきました」(速水さん)
今回の写真祭には、過去最多となる20人以上の作家が世界各国から参加。さらに14の美術大学、専門学校から選ばれた各校代表の学生の作品も展示されます。
世界各国の作家も参加し、交流を深める
交流会当日は多くの海外ゲストも来場し、速水さんから国内組を含めた、出展作家と関係者が紹介されました。その後、出展作家を代表して写真家の寺田健人さんからご挨拶がありました。
「普段は美術館やギャラリーで展示をさせていただいていて、私の作品やテーマに興味のある方には伝わっていたと思うんですけれども、もっと広く多くの人に見ていただきたいと思っておりました。そんな時にこの写真祭にお声がけいただきまして、東京の中心にあるオフィス街、オフィスビルで展示をさせていただけるとのことに本当に感謝しています」(寺田さん)
乾杯後は軽食やドリンクを手に、歓談タイムとなりました。
会場には地元・京橋で150年以上続く老舗和菓子店「桃六」のどら焼きとおこわが並び、カウンターでは旭酒造の日本酒「獺祭」、ベルギーのホワイトビール「ヒューガルデン」などドリンク類が提供されました。
フランスから来日したマーク・フューステルさんは、企画展「態度が<写真>になるならば」のキュレーターを務めました。日本の写真の専門家としてヨーロッパで広く知られている彼ですが、今回はあえて日本人に知ってほしい海外の作家をセレクトする役割で参加されたそうです。
この企画展に海外から参加した一人が、アメリカ人作家のデヴィッド・ホーヴィッツさん。「ZINE(小冊子)」などのアートブックを表現の手法として用いていて、ニューヨーク近代美術館(MoMA)にも作品が展示されるなど、注目のアーティストの一人です。今回、八重洲ミッドタウンでの展示のほか、八重洲仲通りビルでは路上喫煙が問題となっている裏路地壁面をダイナミックに活用し、挑戦的な取り組みも行っています。
国内作家では、第47回「木村伊兵衛写真賞」を受賞した新田樹さんも来場。今回の写真祭では受賞作である<サハリン>とあわせて新作<鏡>も東京スクエアガーデンにて展示されました。
「(新作について)特に気に入っているのが故郷の会津若松市で撮影した一枚です。会ったときにピンとくるというか、『この子は』と思うものがあった人との出会いから生まれた作品たちです」(新田さん)
会場内には、作家のみなさんの写真集展示コーナーも設けられ、参加者が思い思いに手に取る様子も見られました。
「家族」をテーマにした寺田健人さんの作品の特別展示も
会のはじめに展示作家を代表して挨拶された寺田健人さんの作品もこの日、交流会会場内に展示されました。
「私は普段、『家族』をテーマに作品作りをしていまして、透明な家族と暮らす一人の父親の物語を写真で撮っています。自分がゲイとして生まれ、ことあるごとに『彼女は?』『好きな女性のタイプは?』と聞かれ、それをどうにかやり過ごしてきました。これは自分だけでなく、多くの当事者が体験してきたことです。この経験やそれを通して感じたネガティブな思いを、作品を通してポジティブな思いに変えていきたいという気持ちで作り始めました。一般的に母親がキッチンに立って、父親はダイニングで椅子に座るというような性的役割みたいなものがあると思います。そのような固定概念に対して『それでいいのか?』と問いかけるような作品にしたいと思って制作しています」(寺田さん)
今回の写真祭では、東京建物八重洲ビルの1階ロビーに新作を含めた作品が展示されます。
「今回は写真だけでなく、フローリングの床に子供が遊んだようなものが置いてある、家の中の一部を切り取ったようなオブジェも配置しています。新たな試みだったと思いますが、このような展示方法を快く受け入れてくださった東京建物さんに、本当に心から感謝したいです。平日はオブジェの周りで待ち合わせをされているビジネスマンの方がいらして、それも含めて一つの作品のようになっていて。個人的にも今までで一番おもしろい展示になっているのではないかと思います。また、今回一緒にトークイベントをさせていただくジョアンナさん(エルザ&ジョアンナ)など、なかなかお会いする機会のない海外作家のみなさんとこうしてお会いして交流できるのもすごく貴重な体験です」(寺田さん)
このような寺田さんの展示について、展示会場を提供する東京建物 まちづくり推進部 竹腰明香さんは「弊社も寺田さんからご提案をいただいて、『ぜひ!どんどんやってください!』という気持ちで実現しました」と言います。
「寺田さんの作品を拝見した時、作品の背景やそこに込められたメッセージも含めて、まさにビジネスパーソンに何かを感じとってもらうべき作品だと感じました。今回は、ただ写真を展示させていただくだけでなく、その空間、そしてそこに存在する人を含めて作品になるような、そんな試みをしております。写真はもちろん、その演出、空間を丸ごと楽しんでいただけると幸いです」(竹腰さん)
また東京建物は、「T3」がこのまちで生まれたきっかけとなった企業です。
「このような世界各国のすばらしい作家のみなさんの作品が揃う催しと並走でき、大変光栄に思います。普段から観光客で賑わうこのエリアですが、さらに世界中から多くの作家の方々やそれを楽しむ人が集まるまちとして賑わい、大都市における寛容性の手本となっていくことを期待しています」(竹腰さん)
その後、時間一杯まで会場内にはアート談義に花を咲かせる輪が、あちこちにできていました。国内外から多くの作家と関係者が来場したこの日の会は、写真とアートを心から楽しむ人たちの交流を深める貴重な機会となったようです。
撮影/森カズシゲ
関連サイト: https://t3photo.tokyo/