2023年10月3日から31日まで、東京駅前八重洲通りに期間限定のパブリックスペース「YAESU st. PARKLET(ヤエスストリートパークレット)」が出現しました。
パークレットとは、道路空間を活用して創出された、人が休憩したり楽しんだりできるスペースのこと。車社会のアメリカで、「これまで自動車中心だった道路を歩行者のための空間に変えていこう」と始まったムーヴメントです。その考え方は多くの人の共感を呼んで世界中に広がっており、日本でも数年前から各地で社会実験が行われています。
YAESU st. PARKLETには仮設デッキにコンセントつきのテーブルや椅子が設置され、期間中はさまざまなイベントも開催されていました。その様子をレポートします。
通りとの一体感がある立体的なパークレット
YAESU st. PARKLETが現れたのは、中央区八重洲2丁目、東京ミッドタウン八重洲のすぐそば。車道外側線に沿って長さ16メートル、横幅4.5メートルほどのウッドデッキが造設されていました。テーブルやベンチ、パラソルなどもあり十数人がゆったりと寛げる広さ。通りの雰囲気に合わせてウッドデッキは薄いグレーに塗装され、仮設とは思えない一体感や高級感を醸し出しています。植物も効果的に使われていて、都会の中のオアシスといった印象でした。
コンセントやWi-Fiも用意されていて、自由に使うことができます。中央のテーブルにはペダル発電機が備わっていて、近隣のオフィスワーカーと思われる人たちがパソコンで作業しながらペダルを漕いでいました。仕事をしながら運動不足も解消できそうですね。
道路側を向いたカウンターテーブルに座ると、すぐ目の前をバスやタクシーが風を切って走り抜けていき、ほかでは味わえない臨場感があります。乗り物好きな子どもにはたまらないのではないでしょうか。
ウッドデッキの入り口にはスロープが設けられていて、ベビーカーや車いすでもアプローチできるようになっています。階段状になった小上がりスペースもあり、買い物途中の親子連れや友人同士が座って談笑する姿も。パークレットの先行事例は複数ありますが、こうした立体感のあるパークレットはあまり見かけません。一番上の段に立つと、目線の高さが変わるからか、見慣れた街の風景が少し違った印象に変わります。
なお、「八重洲2丁目」の看板や中央のテーブルに囲まれた銀杏の木は元々この場所にあったもの。動かせないものを上手く活用しながら空間をデザインする工夫が随所に見て取れました。
小上がりゾーンの向こうはフードゾーン。薬膳喫茶「惚惚」のキッチンカーが停まっていて、フードやデザート、ドリンクを販売していました。もちろん、パークレット内で食べることができます。また、地域のイベントと連携した取り組みをしていたのも特徴です。2021年から毎年10月に八重洲・日本橋・京橋エリアで開催されているイベント「COFFEE PICNIC」の一環として、休憩中の人にフリーコーヒーが振る舞われるタイミングもありました。
連携イベントはそれだけではありません。2017年から同じくこのエリアで開催されている屋外型国際写真祭「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」とも連携し、パークレット内に作品の一部が飾られていました。作品を探してこの場所にたどりつき、「この通りにこんな場所あったっけ?」と驚いた方も多かったようです。
日が暮れると、小上がりのステージにDJが現れました。リラックスできる音楽が流れてライトも灯り、なんともいい雰囲気。足早に通りを歩いていた人が、「なんだろう?」と立ち止まって眺める場面も。仕事帰りに同僚と立ち寄って一杯、というのも楽しそうですね。
昼と夜、平日と休日で表情が変わり、老若男女問わずさまざまな使い方ができそうな空間でした。
東京駅前地区を「歩いて楽しいまち」へ
YAESU st. PARKLETを主催したのは、東京駅前地区駐車対策協議会と東京駅前地区まちづくり推進協議会。両者とも「東京駅前地区」と呼ばれる八重洲・日本橋・京橋エリアで活動しており、地元町会や企業で構成されています。
再開発により大規模な商業ビルやオフィスビルが建設され、近年大きく変わりつつある東京駅前地区。エリア全体の魅力を向上させるため、「歩いて楽しい通り空間」として道路を利活用し、地区内の人の回遊を促す検討が進んでいます。そのために必要な社会実験を行っていく予定で、YAESU st. PARKLETはその第一弾という位置付けです。
東京駅の玄関口である八重洲通りは東京駅前地区の中でも最も変化が大きなエリアで、たとえば2022年9月には道路に点在していた高速バスや空港連絡バスの発着停留所が東京ミッドタウン八重洲地下2階「バスターミナル東京八重洲」に集約されました。
東京駅前地区まちづくり推進協議会の担当者は、「八重洲通りは、今後も八重洲地下街出入口の再編やバスターミナル整備などさまざまな環境変化が見込まれています。その流れの中で道路空間の再編となった場合に道路交通への影響や賑わいの創出に繋がるか等を検証し、今後の取り組みを考えていくことが今回の社会実験の目的です」と話します。
今回のYAESU st.PARKLETは、道路空間の一部を一体的に活用して設置されたもの。八重洲通りの車道のうち路肩として使われていた空間と歩道の一部に跨っています。また、パークレットを設置しても、歩道部分は3.5メートル以上確保されており、歩行者の通行にはほとんど影響がなかったように見受けられました。
1か月の社会実験を通してどのような検証結果が得られたのか、東京駅前地区まちづくり推進協議会担当者に聞きました。
「本イベントは『いこえる。みつける。つながれる。』をキャッチコピーとして実施しましたが、老若男女問わずさまざまな方がくつろいでくださいましたし、通りを歩いていた方が歩道側に設置したサイネージの前で足を止めてこのエリアの情報を調べていたり、発電ペダル席に座った方が隣の人に使い方を聞いて談笑していたり、狙い通りに利用していただけたという感触を持っています。実際に、AIカメラによって人流測定を行っていますが、実験開始以降、1日の歩行者交通量は増加傾向となっています。一方で、トラブルなどはほとんどなく、利用者からは『常設してほしい』『ハンモックや雨よけも設置してほしい』といった期待の声を寄せていただきました。
想像以上に多かったのが海外からの旅行客の方です。近くにバスターミナルがありホテルも多いので、移動中の隙間時間にこの場所を見つけ、スーツケースを片手に休憩されている光景を何度も目にしました。
ただ、照明やキッチンカーの運営のために電気が必要となったのですが、ディーゼル発電機を使ったため音やにおいは少々気になりました。また、植物や壁などで車道空間とは十分に分離を図ったつもりですが、万全を期すため急遽現地でワイヤーを設置したりもしました。やはり安全安心は一番大事ですから。実際に設置したことで気づけた改善点やアイデアがたくさんありますので、利用者の皆様からいただいたアンケート結果をしっかりと確認して次回に活かしていきたいと思います」
東京駅前地区駐車対策協議会・東京駅前地区まちづくり推進協議会では、今後も行政と連携しながらこうした社会実験と検証を繰り返し、「歩いて楽しい通り空間」づくりを目指していきたいとのこと。
買い物や仕事の合間にふらりと立ち寄って思い思いに過ごせる、都会の中の小さな公園のような憩いの空間。こうした場所が街中に増えていくことを望む人は多いのではないでしょうか。東京駅前地区がどのような表情のまちに変わっていくのか、今後が楽しみです。
撮影/石川 望
関連サイト: https://tokyo-suishinkyo.com/