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〈さんかする〉イベントレポート
Event report

|2022.11.16

誰もが楽しめる開かれた写真フェスティバル「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2022」イベントレポート

10月1日(土)よりおよそ1カ月にわたり東京駅東側エリア各所で開催された、屋外型国際写真祭「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2022」(主催:一般社団法人TOKYO INSTITUTE of PHOTOGRAPHY)。本エリアで第3回となる今回は、全13会場、約100名のアーティストが参加する過去最大規模となり、1カ月間の来場者はおよそ53万人にのぼりました。

『東京街人』編集部では、開催に先んじて、T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO(以下、T3)のファウンダーで株式会社シー・エム・エスの速水惟広さんと、初回から特別協賛を行う東京建物株式会社のまちづくり推進部・奥秋慎司さんの対談をセット(https://guidetokyo.info/culture/art/art22.html)。インタビューで明かされたイベントへの想いを踏まえ、当編集部が注目した今年のT3のプログラムを写真とともに振り返っていきます。


様々な問いを投げかけた、企画展「The everyday ―魚が水について学ぶ方法―」

写真がきわめて身近になったいま、あらためて写真について考える機会として、「知っているようで知らないこと」「近いようで遠くにあるもの」「気付いたら隣にあるもの」に眼差しを向けた本展。批評家のきりとりめでるさんと速水さんが共同でキュレーションを行いました。

選出されたアーティストの1組が、スイスの写真家ヨアキム・コーティスとエイドリアン・ゾンダーレッガーです。アメリカ同時多発テロやジョン・F・ケネディ暗殺など、人々の意識に深く焼きついている写真をスタジオで再現し撮影する作品群で知られ、「私たちが見てきた写真は本物か?」、観る者に強烈な問いをなげかけます。作品の前で長く佇み、作品を能動的に見ようとする鑑賞者の姿が、キュレーションの成功を物語っていますね。

ヨアキム・コーティス&エイドリアン・ゾンダーレッガー ICONS  at 東京建物八重洲ビル

また、同じテーマでもどこに視点を置くかで、まったく作風の異なる写真が展示されているのが本展のおもしろみだったのではないでしょうか。コーティスとゾンダーレッガーによる、再現された世紀の一枚があると思えば、先住民としての「小笠原人」に密着した注目のフォトグラファー長沢慎一郎さんの作品も。

かつて無人島だった小笠原諸島に1830年、初めて定住したのが欧米人やハワイ諸島のカナカ人でした。十数年の歳月をかけて、長沢さんがとらえた小笠原諸島の風景は、私たちが知らない日本の歴史。自分が「知らないこと」に目を向け、新たなことを知る努力をできているんだろうか、写真の持つ力によって、まざまざと突き付けられる体験でした。

長沢慎一郎 The Bonin Islanders at 東京スクエアガーデン

写真と言葉の対話を通して都市の姿を描き出すプロジェクト「Tokyo Dialogue 2022」

殺風景な工事現場の仮囲いですが、見方を変えれば真っ白な大きなキャンバス。昨今、新しい表現の場として様々な試みが行われています。

T3では本年度から3年間の取り組みとして、京橋に本社を構える戸田建設株式会社と共同で作品制作プロジェクトを始動。写真家と書き手がペアとなり、写真と言葉で紡ぐ対話を通して変わりゆく都市の姿をとらえていきます。実はこの場所、普段は歩行者の少ない裏道。けれど、ここでしか生まれない魅力的な作品展示があることで、人の流れが変わり、街の景色が変わる。さらには、インスタグラムをはじめとするSNSを介して場所と紐づいた情報が世界中に駆け巡る——。T3が、街全体を盛り上げていることを強く予感させられた展示でした。

かつて京橋にあった川の面影を撮影した伊丹豪さんの写真に、歌人の穂村弘さんが短歌を寄せた

作り手とつながる交流の機会「Photo Market」

10月9日(日)・10日(月・祝)の2日間、東京スクエアガーデン1階貫通通路にて開催された「Photo Market」。約45ブースが出展し、来場者数は約4000人。会場は終始にぎやかで活気に満ちていました。

速水さんが命名した「T3」という写真祭の名前は、アメリカの社会学者であるリチャード・フロリダが「クリエイティブ都市論」で語った都市の繁栄に必要な3条件、「才能(Talent)」、「技術(Technology)」、「寛容性(Tolerance)」から引かれています。「Photo Market」はまさに寛容性を体現するプログラム。写真展の招待作家だけではなく、創作活動を行う多くの写真家を紹介する目的で、写真集やZINE(個人が作る少部数の小冊子)などを対面形式で販売。作り手とつながる交流の機会となっています。

会場のあちこちで話に花が咲き、アート写真コミュニティの盛り上がりを感じました

いまや誰もがスマートフォンで日常的に簡単に撮影でき、それを加工し、SNSで世界中に発信できる時代。人によっては、アートと呼ばれる写真と、そうでない写真は一体何が違うのか、疑問に感じる人もいるかもしれません。

その一つの解として、速水さんのインタビュー記事の一部を引用し、ご紹介したいと思います。

〈多くの人は言葉を話したり、読み書きしたりできますよね。でも同時に、村上春樹の小説を読んで、「こんな風には書けない」ということも理解できる。つまり、言葉なんて誰でも使えると思っている一方で、日常の言葉遣いや思考では辿り着けない次元もあると知っています。写真も本来はこれと同じレベルで「難しい」メディアのはず。普段の写真の使い方も良いのだけど、それは「写真の一部」だよということも見せたいと思っています。〉

写真表現が本来持つ無限の可能性について、あらためて考えるきっかけをくれた今回のT3。早くも来年の開催が待ち遠しいですね。

撮影/島村緑

関連サイト
T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO: https://t3photo.tokyo/

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