おりがみでありながら、透明であったり、和食器のような柄が入っていたり。さらには水に濡れても平気なのでお風呂でも遊べ、花瓶やお皿としても使える。そんな“未来型のおりがみ”として注目度を高めているのが、大手繊維メーカーの東洋紡株式会社(中央区京橋に東京支社)が開発した「オリエステルおりがみ」だ。2015年の発売以来、同社ではSNSを中心にコツコツとPR活動を重ね、販路を拡大。2017年には映画『シン・ゴジラ』やアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』と、2018年には日本を代表する江戸切子ブランド・華硝とのコラボレーションおりがみを発売するなど、ビッグネームとのタッグも実現している。
そんなおりがみ界のイノベーションともいえる「オリエステルおりがみ」だが、もともとおりがみとして開発されたものではなかった。同事業を担当する東洋紡・橋田智之さんとグループ会社である東洋紡STC・鈴木孝治さんに、「オリエステルおりがみ」の誕生秘話からこれまでの軌跡を振り返ってもらった。
「お風呂で遊べるおりがみが欲しい」が始まりだった
「オリエステルおりがみ」に使われているのは、東洋紡が開発した「オリエステル」という素材だ。折りたたむことが難しかった従来のポリエステルフィルムに対して、折れるポリエステル=「オリエステル」と命名された。しかし、最初はおりがみ用ではなかったと橋田さんは言う。
「当初はペットボトルの商品ラベルなどに使う収縮フィルムとして開発しましたが、ふとしたきっかけで、まるでおりがみのように折りたためることに気づきました。そこで紙を扱ういろいろな会社に“折れるフィルムです”と売り込みをかけたものの、“そもそもフィルムって折れないんですか?”“何がすごいんですか?”など、反応はいずれもいまいち。そうした中、とある営業先で思いがけない言葉が返ってきたんです。“お風呂で遊べるおりがみはありませんか? という問い合わせがよくきます”と。それで、『オリエステル』を使ったおりがみを、まずは販促用のサンプル品として制作することにしました。もともと『オリエステル』は食品包装にも使われる素材。水に濡れても大丈夫だしインクが水に溶け出さない仕組みも確立されていたので、ヒントをいただいてからサンプル制作まで早かったですね」。
そして、これが予想を超える反響を呼ぶことになる。
「決して狙ったわけではないのに、各方面からご好評をいただきました。中にはお風呂嫌いのお子さんが、手がふやけるまで遊んでいるという声もありました。それで、“これはけっこういい商品かもな”と考えたんです」。(橋田さん)
かくして東洋紡は2015年11月、商品として「オリエステルおりがみ」を正式にリリース。光沢性に富み、透明感がある。そして紙よりはるかに丈夫で、水に濡れてもOKな“新世代のおりがみ”が誕生する。
まるでガラス細工のような折り鶴が誕生
とはいっても、東洋紡は、フィルム、自動車用資材、環境関連素材、バイオ・医療など幅広い分野にまたがる高機能素材メーカーで、B to B取引が主流。こうしたB to Cの新事業に最初から大きなリソースを割くことは難しい。橋田さんも鈴木さんも他にメインとなる業務を抱えながら、「オリエステルおりがみ」と消費者との接点をつくるべくネットショップを開設。わずかな時間を見つけてはブログやSNSで情報発信を続け、また、手芸店などの店頭で折り方や使い方を教えるワークショップも積極的に行った。「発売当初は全く売れなかった」というものの、人員が少なく、流通ルートが確立されていなくてもできるこうした地道な活動の甲斐あって、少しずつ、着実に世に認知されていった。
「オリエステルおりがみ」を世に広めるきっかけとなった商品がいくつかある。ひとつは「鶴の中の鶴」。透明な折り鶴の中に小さな折り鶴が入った世にも稀な“二重折り鶴”で、透明性という「オリエステルおりがみ」の強みが活かされている。SNSでアップしたところ、大きな反響を呼んだ。
もうひとつが、ガラスの切子細工をイメージしたおりがみだ。女性を中心に高い支持を集め、現在、全商品の中で一番人気となっている。
「開発にあたっては、切子模様をデザインに落とし込むのに大変苦労しました。どうしても本物の切子細工のように立体的に見えず、平面的に見えてしまうんです。配色を変えるなどの試行錯誤を重ねた末に、ようやく満足できるデザインが完成しました」。(橋田さん)
そしてこれが、興味深いコラボレーションを生むことになる。お相手は、1946年創業の日本を代表する江戸切子ブランド「江戸切子の店 華硝」。切子模様のおりがみをきっかけに話が進み、華硝のオリジナル紋様を含む伝統的な江戸切子の紋様を落とし込んだおりがみを発売することに。おりがみという日本の文化に、江戸切子という日本の伝統工芸、「オリエステル」という日本の先端素材が合わさった瞬間だった。
人気作品の世界観をおりがみに落とし込んだ異色コラボ
ちなみに江戸切子の店 華硝は日本橋に店舗を構え、さらには「オリエステルおりがみ」の営業を代行するのは、京橋に拠点を置き、当サイトでも取り上げたNEXT switchだ。こうした近隣企業との連携は意識的に行っているのだろうか。
「自分たちから一番近いところと連携を図ろうというのは意識しています。やっぱりまずは身近な方々と互いに高め合っていきたいですよね。また物理的にも、掛け持ちで業務にあたっていることもあって、遠方には繰り返し通えません。だから近隣エリアとのコラボが、効果の面でも効率の面でも一番なのかなと考えています」。(鈴木さん)
コラボといえば、あっと驚くコラボもある。2017年に実現した『シン・ゴジラ』そして『新世紀エヴァンゲリオン』との異色コラボだ。
「『シン・ゴジラ』は劇中の重要な場面でおりがみが出てくるということでコラボレーションのお話をいただき、映画に登場する解析図柄や、ゴジラの皮膚をモチーフにしたおりがみなどを制作しました。そのご縁を活かし、同じく庵野秀明監督が手がける『新世紀エヴァンゲリオン』とのコラボをこちらから打診し、幸いにも許諾をいただきました。『オリエステルおりがみ』の光沢感や半透明なデザインと、エヴァンゲリオンの未来的なイメージがマッチした商品を作れたのではないかと思っています」。(鈴木さん)
大変だけど楽しい。それが推進力になったのでは
こうして発売以来、着実に認知度を高めてきた「オリエステルおりがみ」。最近は、企業からオリジナルのおりがみ製品やノベルティおりがみの制作を依頼されるケースも増えているという。限られたリソースで新事業を軌道に乗せることができた要因について、おふたりの分析はこうだ。
「大きな後押しとなったのが、ワークショップの存在です。参加者の方々から『こんなのが欲しい』『こういうのを作りたい』と具体的なニーズをお話しいただくことが、新しい商品を開発する大きなヒントになりました」。(橋田さん)
「いろいろ大変なことも多いですが、それ以上に“楽しい”という思いが強かったですね。SNSでのPRにしても、ワークショップの開催にしても、発信元であるわれわれが楽しみながらやっていることが、少なからずプラスに作用したのかなと思います」。(鈴木さん)
2018年4月より、鈴木さんは晴れて「オリエステルおりがみ」事業の専任となった。また橋田さんの方にも、業務をサポートするアシスタント社員が付いた。リソースが強化され、今後の「オリエステルおりがみ」の躍進にますます期待がかかる。
「『オリエステル』としては、直近のゴールを東京オリンピック・パラリンピックに定めています。それまでにもっとメジャーな存在になり、クールジャパンを象徴する素材としてどこかに使われたらいいなと考えています。『オリエステルおりがみ』としては、透明でお風呂でも使えるおりがみというものが当たり前の存在になり、結果的に日本のおりがみという伝統文化が時代にフィットした新しい形で根付くこと。それが10年先、20年先の目標です」。(橋田さん)
関連サイト
「オリエステル」総合情報 http://olyester.net/
「オリエステルおりがみ」WEBサイト http://origami.olyester.net/
「オリエステル」Facebook https://facebook.com/toyobo.olyester/
「オリエステル」Instagram https://www.instagram.com/olyenger/
「オリエステル」ブログ http://olyester.net/blog/
執筆:田嶋章博、撮影:島村緑