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〈はたらく〉 イノベーションの舞台
FRONT of TOKYO

|2019.11.14

誕生から約一世紀。日本生まれの「地下足袋」は、京橋の地から世界へ

とび職をはじめとする職人たちの足元を守る作業靴として、または祭りに集う人々の履物として、日本人になじみ深い存在である「地下足袋(じかたび)」。それが今、世界のファッショニスタから熱い注目を浴びている。発信基地のひとつとなっているのは2019年8月、京橋にオープンしたばかりの「MARUGO TOKYO」だ。

運営するのは、老舗メーカーの「丸五(まるご)」。同社は創立100周年を機に、他国にはない独自の形状と機能性を誇る「日本の地下足袋」を世界に広めることをミッションに、現在、刺激的な取り組みに挑んでいる。これまで、一般にはあまり知られていなかった地下足袋の歴史や魅力とともに、伝統と進化を巧みに調和させた商品開発を続ける、丸五のユニークな企業姿勢を紹介しよう。


ファッションアイテムとして海外で注目され始めた地下足袋

「8月のオープン以来、わかっているだけで12カ国以上のお客様が、弊社の商品を目当てに来店されています」。(「MARUGO TOKYO」店長・林将人さん/上写真)

というように、すでに各国で話題となっている「MARUGO TOKYO」。写真をご覧の通り、店舗は外観、内装ともに地下足袋を扱う店とは信じられないほど、ファッショナブルにデザインされている。

左)「MARUGO TOKYO」店内      右)「MARUGO TOKYO」外観

来店する外国人のなかでも、特に多いのは韓国、中国といったアジア地域からの訪日客。特に韓国では、若い世代を中心に地下足袋がファッションアイテムとして人気上昇中なのだという。

「ワールドワイドな活動をしている人気K-POPアーティスト『BTS(防弾少年団)』のメンバーが、地下足袋をファッションに取り入れた写真をインスタグラムで公開したことがきっかけで注目されたようです。アジア地域に限らず、外国のお客様は特にデザインに惹かれて地下足袋を選んでいますね」。

お洒落な店舗に陳列されていると、まさにファッションアイテムのようだが、これらは職人たちも愛用する“本物”の地下足袋である

実は、ファッションアイテムとして地下足袋のデザインが注目されるようになったのは、今から十数年以上前のこと。たとえば、ハイファッションブランドとして知られる「メゾン マルジェラ」は、20年ほど前から地下足袋を彷彿させるデザインのシューズをリリースしていた。

「弊社でデザイン性の高い地下足袋を開発するようになったのは、12年ほど前だったと思います。フランスのデザイナーさんから、丸五の地下足袋をリデザインして現地で販売したいという問い合わせをいただいたのがきっかけでした。海外の一般のお客様から購入に関する問い合わせが来るようになったのも、そのころからでしょうか。現在では、米国版のアマゾンでも丸五の地下足袋を販売しているんですよ」。

左)外国人向けにデザインされた特製パッケージ。希望者には無料でプレゼントしているという 
右)地下足袋を履きこなすフランス人の購入者スナップ

ちなみに地下足袋は、欧米では「ニンジャ・シューズ」という名で認知されているのだそう。言われてみれば確かに、いかにも忍者が履いているように見える。


地下足袋の“特性”を活かし開発された機能性シューズも人気商品に

一方、日本国内でも、地下足袋が持つ魅力が近年再評価されている。注目のポイントは、2019年の大河ドラマ『いだてん』でもクローズアップされた、ランニングを代表とする運動時に発揮される、地下足袋(足袋)の機能性だ。

「地下足袋の形状は、親指がセパレートされるほか、靴底が薄く地面を直接掴むように動かせるため、通常のスニーカーなどに比べ、人間本来の足の使い方をしやすいという特性があります。ランニングの場合なら、効率的な姿勢をキープしやすいわけですね。また、体幹トレーニングをする際にも、足裏のどこに荷重がかかっているか、重心を意識できます。そこで丸五では、2014年から地下足袋の特性を活かしたトレーニングシューズなどのウェルネス系商材にも取り組んでおり、アスリートの方々を中心に好評をいただいています」。

左)人間本来の身体の使い方を取り戻すのに役立つ点が人気となっているトレーニングシューズ「hitoe」(写真上棚)。女性にも人気というカジュアルな足袋型シューズ「たびりら」(写真下棚)は、足元の血流を良くする効果も期待できるという 
右)キッズ向けの足袋型シューズ「たびりらキッズ」は、子どもの「足育」を目的として開発された。こちらも人気商品のひとつだ

現在では専門部署も立ち上がっているという丸五のウェルネス系商材は、機能だけでなくデザインの良さも人気のポイント。もちろん、海外の顧客からも好評を得ている。

そういえば、公共放送ゆえに番組で企業名はクレジットされなかったが、『いだてん』で演じられた足袋製造のシーンの監修は、丸五の社員が担当したとのこと。「MARUGO TOKYO」のオープン時に開催されたイベントでは、監修を担当した社員が自ら、古来の地下足袋製造の工程をショップで披露したそうだ。


創業者が夢見た世界五大陸への進出が、一世紀を経て現実に

地下足袋が持つファッション性をクローズアップしてみたり、そこからさらに機能性シューズという新たな分野に乗り出してみたりと、創立100年の老舗メーカーとは思えないイノベーティブな取り組みを行っている丸五。「MARUGO TOKYO」では扱われていない商品だが、スニーカーの先に保護カバーを内蔵することで安全性と軽快さの両方を実現させた「安全スニーカー」と呼ばれる作業靴を、世界で初めて発売したのも丸五だった。

1995年に発売された「マジカルセーフティー」に代表される安全スニーカーは、瞬く間に大ヒット商品に。従来の安全靴に替わる、現場作業のマストアイテムとなっている

とはいえ、そもそも丸五の起源を辿れば、同社を形づくってきた魂ともいえる地下足袋自体が、当時としては画期的かつモダンな商品だったのである。

「座敷足袋にゴム底を貼りつけるという地下足袋は、明治時代後期に誕生したといわれています。丸五の創業者である藤木伊太郎が、人力車のタイヤに使われていたゴムを利用した『ゴム底足袋』を考案したのは1917年(大正6年)のこと。その後1919年(大正8年)に『丸五足袋株式会社』が設立されるのですが、地下足袋の製造から販売までを一貫して行うメーカーは、これが日本で最初と考えられています」。

丸五の地下足袋発売当時の宣伝ポスター

《今は郵便 昔は飛脚 わらじすたれて丸五*足袋》
*「丸五」は、〇に5のロゴマークで描かれていた

このような当時の宣伝コピーからも伝わるように、まずは郵便配達や人力車夫など“足を使う”職業に携わる人の間から普及が始まったという地下足袋。その魅力を伝えることとあわせて、当時すでに並行して販売していたゴム底の運動靴のPRを兼ねた「岡山茶屋町マラソン」を開催したのが1927年(昭和2年)というから、こちらも画期的だ。

岡山茶屋町マラソン。この時代に、ブランド認知を広げるイベントプロモーションが行われていたとは驚きだ

ときに気になるのが、当時のポスターにも記されている丸五のロゴマーク。聞けば、創立当初から〇にアラビア数字の「5」を組み合わせたロゴを使っているのだという。これには、いったいどんな意味があるのだろう?

「『世界の5大陸に飛躍する商品を創りたい』という創業者の想いを形にしたものだとされています。漢数字ではなく、当時としてはかなりモダンなアラビア数字を敢えて使っているのも、世界に通用するマークにするため。よく見ると、ロゴにある『5』の文字は、上部の横棒が少し跳ね上がっていますよね? これは、世界を駆け巡る馬の尾をイメージしてデザインされたと聞いています」。

左)パンフレットなどに記載されている丸五の伝統的ロゴマーク。しかし、世界戦略を考えるうえで日本語の語呂合わせではわかりにくいということで、現在では新たなロゴマークが公式となっているそうだ 
右)初心忘るべからず。店内には、産地の景色を代表する瀬戸内海を映した写真が飾られている

地下足袋を世界に、という想いが込められたロゴマークが生まれてから100年にして、ついにその夢の具現化が始まったというわけだ。しかし創業者の藤木伊太郎も、さすがに地下足袋がファッションアイテムとして世界から注目される日が来るとは、思いもよらなかったのではないだろうか?


日本の伝統を受け継ぐ京橋・日本橋エリアから生まれる地下足袋の“未来”

記事冒頭でも述べたように、「MARUGO TOKYO」が京橋にオープンしたのは2019年8月のことだ。丸五東京支社の所在地という利便性があったのはもちろんのことだが、店長の林さんによれば、この地に初の小売り旗艦店を構えることは、創立100年を迎えた丸五の未来を考えるうえでも、重要な意味を持つという。
 

岡山弁のやさしいことばを時折交えながら熱い思いを語ってくださった林さん

「京橋・日本橋エリアには、弊社以上に長い歴史を持つ老舗の企業がたくさんありますよね。エリア自体にも、日本の伝統が色濃く受け継がれていて、我々は新参者ですが、この地で働いたり暮らしたりする方々から、これからたくさん刺激を得たいと考えているんです。弊社は岡山の企業ですが、地下足袋という日本独自の伝統ある商品を扱っている点では、このエリアに根付いている文化との共通項があるはず。地元の方々や企業とコラボをすることで、このエリアから世界に向けて日本の良さを大いに発信していきたいですね」。

「MARUGO TOKYO」の店舗内では、創立当時に使われていた地下足袋の型やミシンなどを見ることもできる

2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催時には、さらに多くの外国人観光客が、丸五の地下足袋を求めて店舗を訪れることになるだろう。発売当初、世界でも親指が分離した形状の靴はこれだけだったという、まさに日本オリジナルの地下足袋。丸五は2011年に生産拠点の一部を国内にシフトし、これからは、さらに日本の文化としての地下足袋を追求していきたいという。

現在、シューズショップの感覚で地下足袋の試し履きができるのは、この「MARUGO TOKYO」だけ。伝統の中にいくつものイノベーションが込められた地下足袋、そしてそこから生まれた新商品の数々を体験したい人は、ぜひ一度訪ねてみてほしい。

関連サイト
株式会社丸五: https://www.marugo.ne.jp/
MARUGOオンラインショップ: https://marugo-online.jp/shop/

執筆:石井敏郎 撮影:鈴木智哉

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