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〈はたらく〉 イノベーションの舞台
FRONT of TOKYO

|2022.03.15

いい帽子を八重洲から日本全国へ。『移動帽子屋 AURA』が目指す、自然体で楽しむ物作り

北は北海道から南は福岡まで、旅をしながらオリジナルの帽子を販売する『移動帽子屋 AURA』。八重洲に立ち並ぶビルの一室にあるオフィスに足を踏み入れると、おしゃれなインテリアの中に、ハット、ベレー帽、麦わら帽子、キャップなど、カラフルで個性的なデザインの帽子が所狭しと並ぶ。この小さな空間で生まれたアイデアが、各地の工場で形となり、全国の顧客の元へ。移動販売のこだわりや帽子作りへの思い、目指す未来について、株式会社ブランチデザイン代表取締役の松浦哲也さんに聞いた。

扉の向こうには、年季の入った雑居ビルの一室とは思えないスタイリッシュな空間が。右写真は、知り合いの画家がAURAをイメージして描いた絵

通りすがりの人が気軽に帽子を試せるのが、ポップアップショップのメリット

移動帽子屋 AURAのスタートは2012年。洋服と帽子のメーカーでデザインを担当していた松浦さんが独立し、友人のギャラリーで自作の帽子を販売したことが、大きなきっかけとなった。

「率直に『おもしろいな』と思いました。それまではメーカーにいて洋服を作ることはしていたのですが、自分で売るのは初めてで。お客さんと話すこと、自分が作った帽子に喜んでくれる姿を見ることができるのはとても嬉しかったですね。それをライターの友人に話したら『移動帽子屋』という名前をつけてくれました。最初から綿密な事業計画をしていたわけではなく、気づいたら商売になった、という流れなんです」

日本全国の商業施設でのポップアップショップや、カフェ、ギャラリーなどに、2週間〜1か月と期間限定で出店。コロナ禍で地方へ行く機会は減ったものの、関東近郊では現在も同時に2〜3か所で移動販売を展開している。続けると、帽子の販売に最適な方法だと気づいたと言う。

「帽子屋にわざわざ行くのは、普段から帽子をかぶっていて、新しい帽子をほしいと思っている人だと思います。ポップアップショップだと、多くの人が通りすがりに立ち寄って、気軽にかぶってくれるんです。『実は帽子をかぶったことがなくて』と言いながら試す人も。
これまで帽子に挑戦したことがない人も、かぶると表情が変わって、笑顔になる。間口を広げるにはぴったりでした。対面販売なので、私たちスタッフがお客さんの顔や雰囲気を見て、似合いそうな帽子をおすすめすることもあります」

移動帽子屋AURA代表の松浦哲也さん。松浦さんは帽子のアイデア、デザイン、工場とのやりとりなど主に製作を担当

今でこそ、商業施設などでのマーケット、イベントなどは頻繁に行われているが、当時は少しずつ、ポップアップショップという呼び方が聞かれるようになった頃。松浦さんは、自然な流れの中で、新たな可能性を見出したことになる。

「確かにAURAを始めた頃は、物を売りたいなら、ショッピングモールのいい場所に店舗を構えなければと考える企業、人が大半だったと思います。ただネットショップが身近なものになってきて、少しずつ世の中の流れが変わってきていました。移動販売は、一度参加するとまた出店しないかと声がかかったり、たまたまマーケットの隣同士で販売していた地方のカフェの方とつながったり、お客さんだけでなく、業界でのつながりができるのもメリットです」

AURAで人気の帽子。一番左は、ツバの部分にワイヤーが入ったバゲットハットで、形を変えられるのが特徴

日本製の品質にこだわり。工場の職人さんと意見を出し合って自由に作る

AURAの帽子はスタイリッシュでありつつ、日常使いしやすい手軽さを併せ持つ。帽子製作のコンセプトを教えてもらった。

「一番は、品質のいいものを作りたいということ。日本の帽子製作、縫製などの技術は素晴らしいので、日本の工場で作った日本製にはこだわりたいと思っています。デザインについては、少し変わったものもあるけれど、実際にかぶって違和感がないものを目指しています。トップの部分が伸縮して長く伸びる帽子があるのですが、一見個性的でも意外にかぶりやすくて、また、たためるので持ち運びがしやすい。機能性もしっかりと考えています。当初はツバが広めのハットがよく売れていたのですが、最近はバゲットハット、ベレー帽が特に人気です。帽子の形は流行に左右されるので、そのあたりも敏感に感じ取っていきたいなと思いますね」

現在は、東京、埼玉、大阪、岡山などにある10カ所以上の工場とともに帽子を作っているそう。当初は1〜2カ所しか取引がなかった工場がどんどんと増え、紆余曲折を繰り返しながら、やりたいことが明確になってきたと松浦さんは言う。

「洋服はデザイナーがパターンをひけば、ある程度どんな工場でも同じものを作ることができるのですが、帽子は工場によってできること、できないことに大きな違いがあります。工場によって特徴があるので、そこがとてもおもしろいんです。洋服のパターンは、ファスナーの付け方、縫い代の幅など1から10まですべてを指示して工場でその通り作ってもらいます。帽子はこの方法だと難しいし、自由なほうがいいものができる気がしていて。だから、デザインを決め込みすぎず、簡単なメモやスケッチだけ書いて工場の職人さんに見せる。説明して、一度作ってもらって、サンプルを見ながらまた相談して…とコミュニケーションを取りながら進めるのが最近のスタイルです。職人さんと、ああでもない、こうでもないと言いながら製作するのは、まるで高校生の文化祭の準備のようで、純粋に楽しい。充実した物作りができているなと感じます」

左)松浦さんが装飾を施した熊手からも純粋な遊び心で制作を楽しむ姿が垣間見える
右)今はあまり作られていない帽子の木型。海外やネットオークションなどでいいものを見つけると購入するそう

いい帽子を一生かぶってもらうことが、究極のサステナブルに

オープン当初から、古着や古いネクタイなどを使ったエシカル商品も取り入れていたAURA。最近何かと話題になることが多いサステナブルを、早い段階から意識していたのかと思いきや「いい物を探していたら昔の物に行き着いた」と言うから、その審美眼には驚かされる。

「昔の物のほうが、今では作れないようないいもの、いい素材が安く手に入るんです。特にネクタイは、昔は多くの男性がしていたので数はあるんだけど、使い道がなく余っていると知りました。シルクを使っていて品質がいいのにもったいないなと。好きなネクタイを選んでもらってその場でハットに巻くワークショップを開催したり、ネクタイで帽子につけられるバッジを作ったり。あえて古いものを使おうというのではなく、余っている物を活用したいなとは思っています。工場の方に聞くと、麦わら帽子を作るときにツバの部分をカットして残る生地や、別注した糸なども、かなり余るらしいんですよね。何かできないかなと常々頭を悩ませています」

古いネクタイで作ったバッジ。光沢のある素材で高級感があり、バリエーション豊富な柄もかわいい

究極のサステナブルは「僕たち作り手がきちんといいものを作って、買った人が処分することなく、長く使ってくれること。いい帽子を一生かぶってもらえるのが、一番いいですよね」と話す松浦さん。今後は、日本の帽子作りの技術を残していきたいのだそう。

「この春には八重洲のオフィスのフロアを広げて、小さなアトリエ兼ショップをオープンします。帽子製作用のミシンを何台か置いて、量産はできないのですが、2〜3個ぐらい作って、その場で販売までできればと。週末だけオープンするショップにしたいと考えています。例えば、うちに麦わら帽子を縫う専用のミシンがあるのですが、これはミシン自体がもう作られていないんです。職人さんも少ないので今後なくなってしまう技術だと思うのですが、目が揃ったすごくいい麦わら帽子ができるので可能な限り残していきたい。各工場の職人さんも高齢化で少なくなっているので、危機感を感じます。数年以内には、羽田空港に店舗をオープンする予定で、この日本の高い技術で作られた帽子を、海外の人たちにも広めていけたらと思っています」

麦わら帽子専用のミシン。もうこのミシン自体が作られておらず貴重なもの

関連サイト
移動帽子屋 AURA: https://www.aurahat.com/

執筆:野々山幸(TAPE)、撮影:島村緑

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