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〈はたらく〉 イノベーションの舞台
FRONT of TOKYO

|2022.08.02

使い捨てが当然という概念を捨てよう! ウーマンパワーが牽引する美容業界のサステナブルな取り組み

「銀座化粧堂」は、2021年2月にスタートしたばかりの新しいコスメブランド。代表の松熊祥子さんは、来るべきサステナビリティ時代に即した「1本で心躍る」コスメの開発から再利用まで、その無理のない循環を目指している。そんな松熊さんが注目し、協力を仰いだのが、使い切れなかった化粧品を新しいクレヨンとして生まれ変わらせるアップサイクルプロジェクト「COSME no IPPO」だ。

今回は、銀座化粧堂代表の松熊さんと、「COSME no IPPO」を立ち上げた大澤美保さんに、昨今加速する美容業界のサステナブルな取り組み、中でもコスメロス削減に向けた互いのアプローチについて語ってもらった。

松屋銀座の銀座化粧堂ポップアップストアにて、化粧品の回収サービスが行われた

銀座化粧堂のポップアップストアでコスメの回収を行い、大きな反響が

2022年5月から約3週間にわたって、松屋銀座で行われたポップアップストア「この1本で心躍る私へ。銀座化粧堂 サステナブル ウィーク」。銀座化粧堂の人気アイテムで、夏のメイクに最適な「ジュエルアイメイクシリーズ」などが販売される中、特に注目を集めたのが、使わなくなったコスメの店頭回収だ。

「銀座化粧堂は2021年にスタートしたのですが、商品の開発はちょうどコロナ禍で外出が減り、メイクをする機会も少なくなっていた頃でした。1本で気持ちが上がる、ワクワクできるアイテムをと思い開発したのが、スティックのアイシャドウです。

一方で、私は長年、化粧品の研究・開発を行ってきて、季節ごとに新たな商品を作って販売することに違和感をおぼえるように。お客様は多くの場合、前のシーズンの化粧品を使い切れていないんですよね。サステナブルな社会を目指す今にあって、トレンドを追うだけではもうダメ。欲しいと思えるものを手に入れたら自然と社会に貢献できている、というのが理想的だなと。そこで、銀座化粧堂の商品では、ポーチやマスク入れとしても使えるリユース可能なジップバッグをパッケージにしたり、サステナブルな美容成分を採用することなども行ってきました」(松熊さん)

銀座化粧堂代表の松熊祥子さん。無添加化粧品ブランド「ファンケル」において、長年研究開発に従事。2020年2月に銀座化粧堂(本社:中央区京橋)代表取締役に就任し、 2021年2月より化粧品の販売をスタート

そんな松熊さんが今後さらにどう進むべきか、いい方法がないかを考えていたときに知ったのが、化粧品を“ハロヨン”というクレヨンとして生まれ変わらせる、大澤さんのプロジェクトだった。そしてすぐさま、当時「COSME no IPPO」のコスメ回収をしていた店舗に足を運んだという。

最終的に、銀座化粧堂のポップアップ期間中に回収されたアイシャドウ、リップ、ファンデーションなどのコスメは、ダンボールに2箱、約20kgに上るそうだ。

「最初の数日間、コスメ回収について知っていただくためにチラシを配ったんです。すると、そのチラシを見て、翌週にわざわざコスメを持って来てくださる方がたくさんいて。あらめて、コロナ禍で使わなくなったり、長年眠らせていたコスメを捨てられずにいる人は多いのだと実感しました。皆さん、もったいないと思う気持ちがあって、こんなにかわいいクレヨンに生まれ変わるなら喜んで持ってくるよ、といった様子で。私が感動したように、お客様も感動されていましたね」(松熊さん)

「松熊さんのご縁で、銀座化粧堂さんのポップアップストアのあと、6月15日〜30日まで、松屋銀座のコスメフロアでもコスメの回収ボックスを置いてもらえることになりました。多くの方に参加していただける機会につながり、とても嬉しかったです」(大澤さん)

左)銀座化粧堂のコスメは、リユース仕様のパッケージを採用。「裏面の責任表示のシールは簡単に剥がせるので、ポーチなどとしてお使いいただけます」(松熊さん)
右)銀座化粧堂の人気アイテム「ジュエルアイスティック」。アイシャドウとアイライナーの2Way使いできる

子どもたちの未来のためにも…。コスメをクレヨンに生まれ変わらせる

銀座化粧堂のポップアップストアでも反響があった「COSME no IPPO」の取り組み。大澤さんはどのような思いで立ち上げたのだろうか?

「私は10年以上、美容のPRの仕事をしています。仕事を通じて出会う方々とお話することもあったのですが、私自身もコスメが好きだからこそ、最後まで使うことがなかなかできないジレンマを感じていました。

そしてあるとき、我が家に眠っていたアイシャドウを眺めながら、これってこのまま絵を描いたりできるなと思いました。使わなくなって固まったマニキュアを除光液で溶かし、絵の具のようにして使っているという友人がいることも分かって。それも最後まで使い切るための工夫として素晴らしいですが、何か形にできないかな、コスメを生まれ変わらせたいなと思い、画材にしてみようと思い立ちました。そこからまずは工場を探すところから始め、紆余曲折を経て最終的に出来上がったのが“ハロヨン”です。

もう1つ、私がこのプロジェクトを始めるきっかけとなったのが、2人の子どもを出産したこと。第2子を1年半前に出産する少し前から、気温上昇や海洋汚染など、地球の未来を考えると深刻な問題ばかりだけれど、子どもたちにとって少しでも希望が持てる地球を残したいなと強く思うようになって。自分が長年携わる美容業界から行動できればと思い、多量のゴミを排出している美容業界のゴミ削減に貢献したいと考えました。目標は大きく『美容業界のゴミゼロ』を掲げて、活動しています」(大澤さん)

コスメメーカーなどを経て、フリーランスの美容PRとして独立した大澤さん。現在は法人化し、「COSME no IPPO」だけでなく、リサイクル可能なガラスびんブランドを運営するなど、エシカル・サステナブルな活動を行う

大澤さんのこれまでの活動と、子どもたちが生きていくこれからにしっかりと向き合うことで生まれた「COSME no IPPO」。最近では、徐々に活動が周知され、問い合わせも増えているという。

「コスメの回収は、『COSME no IPPO』の公式インスタグラムアカウントにDMをいただき直接やり取りさせていただくか、イベント開催時に回収ボックスを設置しています。回収できるのはアイシャドウ、チーク、ハイライト、粉白粉、リップ、アイブロウなど、パウダーや練り状のものとなっています。

皆様からお預かりしたコスメは、製造元で丁寧に手作業をしながらクレヨンに生まれ変わります。コスメを原材料にしているので、既存のクレヨンとは発色が異なり、大人っぽい、ニュアンスカラーなども多いですし、ラメが入っているものもあります。その時々で集まったコスメによって、一箱、一箱同じものはない色の組み合わせであることも特徴です。購入される方は、どんな色が届くかも楽しみにしていただければ嬉しいです。友人は、色鉛筆とクレヨンの間、という絶妙な表現をしてくれました。また別のデザイナーの友人が、ハロヨンだけで素敵な絵を描いたりしてくれています」(大澤さん)

「コスメを預けてくれたお客様にこのハロヨンをお見せすると、すごく喜ばれるんですよ。コスメを使うときのワクワクした気持ちがそのまま循環するようで、本当にいい取り組みだとあらためて思います」(松熊さん)

左)1箱、1箱色が異なり、コスメならではのニュアンスカラーもハロヨンの魅力。「なるべくゴミが出ないよう、クレヨンは巻き紙を施していません」(大澤さん)
右)大澤さんの友人がハロヨンで描いた絵

メーカーや顧客も楽しく巻き込んで、できることからコスメロス解消へ一歩を踏み出す

これまで美容業界で培ってきたそれぞれの経験を活かし、サステナブルな取り組みに果敢にチャレンジしている松熊さんと大澤さん。“コスメロス”をさらに減らしていくために、できることはあるのだろうか。

「『COSME no IPPO』のようなアップサイクルの取り組みがいつかなくなる世の中を目指したいと思っています。カラーコスメのパッケージを、使い捨てではなくてサステナブルな形状にするメーカーさんが増えたり、余剰品を出さないような生産計画を立てたりと、メーカー側が積極的に『美容業界のゴミゼロを目指す』ようなムーヴメントを起こしたいです。美容業界に長くいることも生かして、メーカーさんや美容に携わるさまざまな担当の方々と議論しながら、ゴミゼロに向けた働きかけをしていきたいですね」(大澤さん)

「それは大切なことですよね。企業努力はもちろん、私はお客様ももっと巻き込んでいきたい。美容業界にいると、エシカルやサステナブルは必要だと感じますが、アンケートでリサーチすると、まだまだ興味がない方も多い。ハードルが高くなりすぎないように、まずは、私たちが『季節ごとに買い替えましょう』ではなくて、『同じアイテムで夏はローションを多めに、冬はクリームを多めに使い方を変えればいいですよ』とか、『クレンジングは朝も夜も一緒でOK』といったサステナブルにつながることを、発信していければと思います」(松熊さん)

積極的なリーダーシップと行動力。松熊さん・大澤さんの今後の活躍を期待せずにはいられない

さらに、「環境問題のために何かしたいけど、何をすればいいか分からない」人の気持ちに寄り添いたいと、おふたりは続ける。

「サステナブルな取り組みは実際に、『言ってくれれば喜んで参加するわよ』という人は多い。したくないわけではなくて、やり方が分からないだけなんです。そういう皆さんの背中をそっと押すようなしくみを作れるといいですね」(松熊さん)

「全く興味がない人に、すぐに行動に移してくださいと伝えることはなかなか難しいと思うので、まずは少しでも意識が向いている方に『COSME no IPPO』の活動に参加してもらえたら。このプロジェクトを始めてから、10代、20代の学生さんたちとご一緒する機会があるのですが、彼らは気温の上昇や天災の増加などを体感しているからなのか、当たり前のように環境について考えている子が多いそうなんです。これって希望が持てることだなと。より多くの年代、多くの人が興味を持ってまず一歩踏み出すことで、未来は変わっていくと思います」(大澤さん)


関連サイト
銀座化粧堂: https://www.ginzacosme.jp/
COSME no IPPO: https://cosmenoippo.official.ec/about

執筆:野々山幸(TAPE)、撮影:島村緑

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