〈はたらく〉 ワークスペース探訪
Exploring Work Spaces

|2019.10.31

創業307年の老舗企業が語る。日本橋の魅力と独自の商品づくり【国分グループ】

執筆:やつづかえり コーナー監修:岸本章弘 編集:松尾奈々絵(ノオト) 撮影:小野奈那子

江戸の中心地であり、日本の各地へと伸びる五街道の起点でもある日本橋。そのたもとの日本橋一丁目1番地にある会社をご存知だろうか。1712年に創業し、食品卸売業を手がける国分グループである。

日本橋に拠点を移したのが1756年。263年にわたってこの地で事業を行ってきた同社にとって日本橋はどのような場所なのか、社内ではどのように歴史と文化を継承し、どのように現代のニーズを捉えているのか。国分グループ本社 経営企画部広報課の柚木彩花さんにお話を伺った。


●老舗企業どうしの“ご近所付き合い”も。働く場所としての日本橋の魅力

「日本橋で働いていて、魅力に感じるところはどこですか?」と尋ねると、柚木さんは開口一番、「古いものと新しいものが融合しているところ」と答えてくれた。

何世代にもわたって愛されている店や歴史的建造物がたくさんある一方で、2019年9月にはコレド室町テラスが開業するなど、新しい話題にも事欠かない。東京の歴史と最先端を同時に感じられるエリアなのだ。これから来年にかけては東京オリンピックの盛り上がりも存分に味わえるだろう。

日本橋の左手に見える建物が国分グループ本社ビル

会社と地域の関わりも深い。江戸三大祭りのひとつ「山王祭」には、その年の新入社員が参加する習わしだ。柚木さんも、入社した年には会社の半纏(はんてん)を着て神輿を担ぎ、日本橋から京橋あたりまでを練り歩いたそう。

最近では「日本橋」橋洗いというイベントにも参加した柚木さん。

「休日のため任意での参加ですが、20人ほどの社員が参加しました。日本橋を通行止めにしてデッキブラシでゴシゴシ磨く経験は、なかなかできるものではありませんよね。皆さん、家族や友人を誘いあい、近隣の企業の社員の方々と一緒に、お祭りのような感じで楽しんでいました」。

国分グループも含め、老舗企業が集積しているのも、渋谷や六本木にはない魅力だ。国分グループ本社ビルの目の前には、創業162年になる江戸菓子の「榮太樓總本鋪」が店を構える。両社は古くからの“ご近所づきあい”があり、地方や海外に行くときには「榮太樓總本鋪」でお土産を購入する社員も多いそうだ。


●卸売りの会社が作るオリジナル商品の強みとは

日本橋の老舗同士の付き合いは、新たな商品開発にもつながっている。

2009年に山本海苔店と炭火焼きせんべいを共同開発したことがきっかけとなり、2012年より「麒麟の翼」というブランド名で「日本橋発」を謳うコラボ商品のシリーズを開発。現在は、山本海苔店、にんべん、榮太樓總本鋪のそれぞれとコラボした商品が発売されている。

江戸東京らしいと好評な商品を、社員が取引先へのお土産として持っていくことも多いそう。というのも、国分グループでは「麒麟の翼」シリーズに限らず、他社ブランドとのコラボレーション商品や「缶つま」シリーズなどのオリジナル商品を積極的に開発している。「こんな商品開発もできますよ」という話のネタにもぴったりなのだ。

卸売業の会社というと、メーカーと小売の中間に立ち、自社ではモノを作らないというイメージがある。国分グループは、なぜオリジナル商品を開発・販売しているのだろうか。

「実は国分では、『日本橋漬』という名前の福神漬を100年以上前から製造し販売しているんですよ。『缶つま』などのそれ以外のオリジナル商品を作るようになったのは、ここ数年のことです。仕入先とのつながりを生かし、他社と差別化できる商品開発に励んでいます」。

商社系の卸売企業も多いが、国分グループは独立している立場。しがらみがなく、他社と柔軟に協業できるのも、独自の商品開発を進めやすい理由であるようだ。

また、グループ傘下には地域別に7つのエリアカンパニーがあり、それぞれに商品開発部隊がある。地域密着型の体制が、日本各地のこだわりの素材をおつまみにした缶詰「缶つま」(現在は71種類を販売)や、47都道府県のご当地鍋や汁物をフリーズドライにした「tabete ゆかりの」といったユニークな商品につながっているのだ。

オフィス内にある打ち合わせスペース。予約無しで商談場所として使えるため、社員にも好評だという

●会社のテーマである「食」が、社員同士のコミュニケーションツールにも

国分グループには、5,000人を超える社員が全国各地にいる。彼らをひとつに結び付けているのは、「食」というテーマだ。

柚木さんに「御社のオフィスの特徴は?」と聞くと、「ほかの会社よりも、仕事中に何かを食べていることが多いかもしれません」という答えが返ってきた。

社内にテストキッチンがあり、試作品について「どちらが美味しいか」といったアンケートへの協力を求められることも多いという。また、自社の商品に限らず食べ物へのアンテナが高い人が多いようで、柚木さんのデスクの引き出しの一段はお菓子でいっぱい。部署ごとの忘年会は、社員が三越の地下に出向いてお惣菜を買い、社員食堂で大々的にやるのが習慣になっているというのも、この会社ならではだろう。

柚木さんのデスクの引き出しの一段分は、お菓子で占められている(写真左)。コンビニエンスストアのチェーン運営も手がける国分グループ。最近は、無人店舗「SmaPit(スマピット)」の展開も手がけている。国分グループ本社にも設置され、社外に出ずとも必要なものが手に入ると好評だ(写真右)

●社内報は70年近く継続。最近ではチャットによるコミュニケーションも加速

会社の歴史と文化、そして業界の動向など最新の情報は、全国のグループ社員にどのように伝えられているのだろうか。

ひとつの手段は、毎月発行する社内報だ。2019年10月発行のもので829号を数える。毎年4月には新入社員紹介が掲載されるほか、自社商品の開発秘話や食品に関する法制度の改正についての解説など、その時々の話題がわかりやすく編集されている。バックナンバーは貴重な史料と言えるだろう。

もちろん、今の時代はITによる情報共有も欠かせない。1999年には社内掲示板「KOMPASS」がスタートし、ここに各部署から情報が発信される。

「出勤したらまずKOMPASSを立ち上げるのが習慣になっています。福利厚生やメーカーの商品情報など、新しい情報が随時更新されます」。

昨年からはテレワーク制度が導入され、今年から週に1回まで在宅勤務もできるように。時期を同じくして社内のチャットツールも使えるようになり、どこにいても必要なタイミングで、気軽に情報発信や業務のやり取りができるようになった。

部内のやり取りなどはチャットを使うことで、メールのようにかしこまった印象にならず、絵文字なども使って柔らかいコミュニケーションがとれるようになったという。「スマートフォンですぐにチェックできるのも便利です」と柚木さん。

商品開発部門と営業部門では、昨年からSalesforce Chatterという情報共有SNSも利用している。Twitterのような形で、写真や短文を気軽に投稿できるものだ。各地で行われているイベントの様子や、仕入れ先の農園の様子などが共有されている。KOMPASSに載せるほどではないけれど、他地域や他部署の社員にも伝えたいことが、気軽に共有できる場所になっているようだ。

国分グループの社内報(写真左)とKOMPASS画面(写真右)

●本社1階には自社商品を扱うセレクトショップも

同社は本社ビルの1階にセレクトショップ「ROJI 日本橋」を構えており、自社商品を取り揃えている。場所柄、「ROJI 日本橋」には東京土産を求める観光客が多く訪れるのはもちろん、社員が自社商品に触れられる場ともなっている。

「『缶つま』は常時70~80種類を発売していて、多いときには100種類以上ありました。店内には、『缶つま』の全種類が揃っているので、お好みの商品を見つけていただければ嬉しいです」。

食を扱う同社の社員にとって、商品が一般の消費者にどのように届いているのかを実感することも、非常に重要だろう。

「ROJI 日本橋」のテラスにはベンチを置き、買い物客がその場で飲食を楽しむことができる。また、隣接するレストラン「ニホンバシ イチノイチノイチ」内には、「缶つまBar」が昨年オープン。ビールやワインなどのお酒などと一緒に、アレンジした缶詰料理を楽しめるのが好評だ。

卸売りをメインの事業としながらも消費者と身近に接することができるのも、セレクトショップを日本橋本社脇に構えるからこそのメリットだ。働く場と遊ぶ場が融和している日本橋。その地に本社を構えているからこそ使える、有効な戦術と言えるかもしれない。

「ROJI 日本橋」店内。「缶つま」は常時70~80種類を発売している(写真左)「ニホンバシ イチノイチノイチ」のテラス席。日本橋を見ながら缶詰を楽しむことができる(写真右)

<執筆者プロフィール>
やつづかえり
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年に組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018.3)。Yahoo!ニュース(個人)オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、ICT、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。

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