〈はたらく〉 ワークスペース探訪
Exploring Work Spaces

|2019.09.02

東京駅前、スタートアップ専用オフィスが呼び込む新しい風【xBridge-Tokyo】

執筆:やつづかえり 編集:松尾奈々絵(ノオト) 撮影:小野奈那子

東京駅八重洲口から徒歩1分のビル内にあるシェアオフィス「xBridge-Tokyo」(クロスブリッジトウキョウ)。2019年7月現在、合わせて26のスタートアップ企業とベンチャーキャピタルが集う。口コミで知られるようになり、オープンから1年あまりで入居社数が2倍に達するほどの盛況ぶりだ。

運営するのはビルの所有者である東京建物株式会社と、既存産業とテクノロジーの掛け合わせによる新規事業創出を手掛けるXTech株式会社。渋谷や六本木エリアを拠点とするスタートアップが多いなか、八重洲にこのような施設を開設した狙いは何だろうか? スタートアップにとってのメリットはどこにあるのか? 東京建物まちづくり推進部の渡部美和さんとXTech(クロステック)の波多江直彦さんに伺った。

東京建物の渡部美和さん(写真左)とXTechの波多江直彦さん(写真右)

●勢いのある企業が街に新しい風を吹かせてくれる

xBridge-Tokyoは2018年4月にオープンした。急成長を遂げようとする“志”と、八重洲・日本橋・京橋エリアを共に盛り上げていこうという意思があることを条件に、スタートアップを広く受け入れている。最初は12社の30名程度でスタートしたが、入居企業の増加に加え、この1年で大きく成長して人数を増やした企業もあり、現在では100名近くが利用する。

xBridge-Tokyo開設の背景には、同ビルを本社とする東京建物の思いがある。

「もともとこのあたりは既存産業の大企業がほとんどで、スタートアップ企業は多くはありません。街を盛り上げていくためには、若い企業にたくさん来てもらい、大企業とオープンイノベーションを生み出すような動きを作らなければいけない。社内では以前から、そういった危機感を抱いていました」。(渡部さん)

このエリアにスタートアップを呼び込むために考えたのが、創業期の会社でも利用できる低廉な賃料の場所と、専門家による成長支援を提供することだった。検討段階で新規事業創出や起業支援の経験が豊富な、のちにXTechを創業する西條晋一氏と出会い、XTechと共同で事業を運営することになったのだ。

東京駅周辺は賃料が高く、創業期の企業には手が届きにくい。しかし「八重洲通りを進んで八丁堀や茅場町までいけば、それほど賃料の高くないエリアが広がっていて、同エリアに加え、人形町や水天宮、月島や勝どきのあたりには住宅地もある」と渡部さん。xBridge-Tokyoをきっかけにこの街の魅力に気づき、次のオフィスや住居もこの近辺で見つけ、この街の中で成長していくようなエコシステムが形成されていくことを期待しているという。

すでに、初期メンバーのうち2社が事業拡大のためにxBridge-Tokyoを“卒業”し、それぞれ大手町と浜町に自前のオフィスを構えた。期待は現実になりつつあるのだ。

●効率的に営業活動できる立地の良さ、だけではないこの地域の魅力

入居するスタートアップの方は、どんなメリットを感じているのだろうか。

「何よりも立地の良さがあります。たくさんの路線が乗り入れ、新幹線もありますし、空港へのアクセスもよいので、都内はもちろん地方に行くにも便利です。例えば医療系のスタートアップの方は地方にも頻繁に営業に行かれるので、移動時間を節約できることをとても評価していただいています」。(渡部さん)

xBridge-Tokyoに関わることになって初めてこのエリアで仕事をするようになった波多江さんは、渋谷や六本木と比べて街が平坦で歩きやすいことに気づいたそう。

「大手町や丸の内も徒歩10分程度。東京駅周辺には大企業がたくさんあるので、1日10件訪問することだってできます」。(波多江さん)

xBridge-Tokyoの利用者は過半数が30代以上で、ほかの会社である程度経験を積んでから起業に至ったケースも多い。そのようなミドル層やシニア層からは、「若い起業家が集まる渋谷や六本木よりも居心地がいい」という声も聞こえてくるそうだ。


●創業期のスタートアップがシェアオフィスを利用するメリット

xBridge-Tokyoは大部分がオープンな空間で、異なる会社のメンバーが隣り合って座ることもある。独立したオフィスを借りる余裕がないから仕方なく、という面もあるかもしれないが、他社とオフィスを共有することにはメリットも多い。

そのひとつは、ビジネスのネットワークを構築しやすいという点だ。波多江さんは「スタートアップにとって、人脈は非常に大事だ」と強調する。しかし、やみくもにつながれば良いというわけではなく、信頼できる相手かどうかの見極めも必要だ。その点に関しては、XTechの人脈や経験が役立っていると渡部さん。

「入居を希望される会社について、実際に会ってお話を聞くのはもちろんですが、その方々の経歴や仕事で関わっている人を見て信頼できるかどうかをXTechと相談しながら判断しています。『知り合いだから問題ないですよ』とか『以前に○○で仕事していた人だから大丈夫ですよ』など、今の肩書だけではわからないところまでご存知だったりするので、とても頼りになります」。(渡部さん)

安心できる環境のなかで互いの人脈をつなげあい、すでに入居企業同士で協業やお互いのサービスを自社のサービスに導入し合うようなケースも生まれている。

交流のきっかけを作るため、渡部さんは当初からシェアオフィスに入ってすぐにあるバーコーナーにお酒を置いている。最近ではほかの利用者も飲み物を持ち寄り、夜になると飲みながら雑談をするシーンも増えているそう

渡部さんは、シェアオフィスには会社のムードを明るく保ち、メンバーのモチベーションを保つ効果もあると感じているという。

「創業期の会社というのは、事業の状況によって会社の雰囲気も大きく浮き沈みしがちです。傍から見ていても『なんか良くないことがあったんだな』とわかるときがあるほどです。そんなとき、ほかの会社も一緒にいるほうが沈んだムードになりすぎず、気が紛れて良いようですね」。(渡部さん)


●大企業がスタートアップの文化から学んだこと

xBridge-Tokyoは、歴史ある大企業である東京建物が、あえて「スタートアップ的」な仕事の仕方を実践してみる場にもなっている。

実践のひとつは、自分たちの手によるオフィスの構築だ。通常ならば外部のプロに任せるデザイン、設計、施工なども、今回はすべて社内やグループ会社内で適任者を探して手作りで進めた。

「スタートアップの皆さんに喜んでもらえるようなオフィスを、コストを抑えながら自分たちで作ってみることにしました。社内でデザイン画を描ける人や施工ができる人などを探し、当初は異なる部署で全く別のことをやっているメンバーですが、施設への思いを全員で共有でき、楽しんでやってもらえたので結果的に非常に有意義な時間になりました。家具も、通常ならプロにお願いして揃えてもらうのですが、今回はデザインを担当した社員と相談しながら私がインテリアショップやネット通販で探して一つひとつ購入しました。こんな風に自分たちの手で新しい事業を始められるんだ、ということがわかり、私たちにとっても良い経験になりました」。(渡部さん)

オフィスのデザインについてはXTechから「高級感よりも、ハングリー精神を駆り立てるようなスタートアップに合ったオフィスがいい」というアドバイスがあったそう。シリコンバレーで成功しているIT企業も最初はガレージで起業したというエピソードをよく聞く。そんな「ガレージスピリット」を感じられるオフィスを目指し、天井の配管が見えているなど、あえて未完成な雰囲気を演出した

スタートアップが急成長する様子や、社員だけでなくフリーランスなどもうまく活用してプロジェクトを進める仕事の仕方、場所や時間を柔軟に選択してライフとワークを融合させるような働き方などを間近で見られるのも、会社にとって良い刺激になっているそうだ。

●八重洲をスタートアップに選ばれる街に

ここまで順調に利用者を増やしてきたxBridge-Tokyo。それ故に、会議スペースが足りない、互いの顔がわからない入居者が増えている、といった課題も出てきている。2年目の今年はそのような課題に対処しつつ、利用者がそれぞれのカルチャーをこの場で作り、「ここが自分たちの本拠地だ」と感じられるようなサポートをしていきたいと、渡部さん。

数年後には、スタートアップ企業が東京でオフィスを探すときに必ず八重洲が候補地に挙がる状態を目指す。そして10年後には、このエリアの企業がイノベーティブな成功を遂げ、それがさらに多くのプレイヤーを引き寄せるような状態をビジョンとして描いている。そうなれば、八重洲にとどまらず、東京、そして日本の活性化にも大きく寄与するに違いない。

コーナー監修・岸本章弘さんコラム [気づきを誘い、接近を促すシェアオフィス つながる仕組みと仕掛け]

<執筆者プロフィール>
やつづかえり
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年に組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018.3)。Yahoo!ニュース(個人)オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、ICT、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。

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