〈はたらく〉 ワークスペース探訪
Exploring Work Spaces

|2019.09.03

気づきを誘い、接近を促すシェアオフィス つながる仕組みと仕掛け

執筆・素材提供:岸本章弘、編集:松尾奈々絵(ノオト)


●交流の場としてのシェア空間

近年増えつつあるコワーキングスペースなどのシェアオフィス群。こうした施設に入居するメリットとしては、多様な空間とサービスが低コストで利用できることや、入居期間などの契約が柔軟なことに加え、ビジネス上の新たな出会いやつながりのチャンスへの期待が挙げられることが多い。成長志向のスタートアップ企業が集まるxBridge-Tokyoも、そうした施設の一つだろう。

東京駅前にできたスタートアップ専用オフィスが呼び込む新しい風【xBridge-Tokyo】

もともとはフリーランスやマイクロビジネスなど、多様なオフィス空間やサービスを自前で用意することが難しい小規模事業者の利用を中心に広がってきたシェアオフィス。だが最近では、大企業が自社オフィスとは別の小規模な活動拠点として入居する例も増えているようだ。その主な用途の一つは、多様な人々との交流が期待できる開かれた場を持つことにある。場所を共有すれば、日頃は交流のない社外の人と出会うチャンスは増えるはず。そうして外部人材や顧客を巻き込み、新たな視点や知見を取り込みながら、オープンイノベーションのきっかけにしようというものだ。


●「出会い」から「つながり」までの接近プロセス

新しいつながりは出会いから始まる。だから多くのシェアオフィスでは、交流会などのイベントが催される。ただし、出会うだけでは不十分なことは誰もが承知している。そこでコミュニティマネジャーなどのスタッフを置き、紹介やマッチングを支援する。そうした人的サービスの有効性は誰もが認めるところだろう。

では、オフィス空間には何ができるだろうか。出会いと交流を促すマグネットスペース【※1】や、交流イベントなどが開ける空間(ステージや観客席をしつらえるスペースなど)と設備(音響映像機器や照明設備など)は不可欠として、それらのほかにどんな工夫ができるだろうか。

【※1】前回コラム「場所が人を呼び、人が人を呼ぶ マグネットスペースの活用」を参照

ここでは、日常レベルで他人同士が出会ってから協働できる仲間になるまでのプロセスをイメージしてみよう。少なくとも、出会っていきなり意気投合とはいかず、たとえば図1のような段階を経ることになるだろう。

図1:段階的な接近プロセスのイメージ
日常のプロセスは実線矢印のように段階的、交流イベントなどは破線矢印のように段飛ばしになる

このように分解してみると、各段階の助けになり、プロセスの進行を後押しできるような仕掛けが考えられる。たとえば気付きを与える、興味を引く、出会いを誘う、交流を促すために、利用者の日々の活動を可視化したり、各人の興味や属性の開示を促したりできるような設えや道具が助けになるはずだ。(写真1)

写真1:接近プロセスを加速させるさまざまな仕掛けの例
(1)半透明のパーティション や(2)部分的に透明な会議室の仕切りによって、行動や気配が垣間見える。(3)掲示板に貼られたメンバーの写真カードや(4)部屋主の興味や趣味がうかがえるディスプレイ棚が、利用者のプロフィールを開示する。(5)廊下の壁面に設置された黒板や(6)廊下に面したガラス間仕切りに残された記述に、思考の痕跡が残る

こうした方策の多くは一般の企業オフィスでもみられるものだが、シェアオフィスに導入する際にはそれなりの配慮が必要になる。異なる組織や事業者が同居する環境では、情報開示とセキュリティ確保をどうバランスするかは重要な課題だ。また、入居者の一番の目的は、そこで仕事をすることである。たとえ「つながり」が期待されるとしても、見えるものや聞こえるものは、作業者の日常の集中やプライバシーを妨げないような「役立つノイズ」のレベルにとどめる必要がある。


●タイミングを知らせるテクノロジー

シェアオフィスには多様な組織や個人が同居するため、そこに入居する人々の活動の時間やサイクルは異なる。一企業内のような共通の就業時間もなければ、オフィスにやってくる頻度や滞在時間も一定ではない。たとえ同じ時間帯に居合わせても、同時刻にキッチンにやってくるとは限らない。つまり、人を集めるマグネットスペースがあっても、集まる時間が分散してしまうと、そこでの出会いや交流の機会は減ることになる。

こうしたリアル空間の効果の低下を補う手段としては、情報技術の活用が有効だろう。空間に埋め込まれたセンサーを使えば、人々の行動を感知し記録することができる。そのデータを活用して、出会いのタイミングを知らせたり、離れた場所に様子を伝えたりできる。図2はそうしたアイデアのイメージである。【※2】

図2:仲間の行動を感知し、マグネットスペースへ誘う仕掛け
手元のカップがぼんやり光ると、事前登録したメンバーがラウンジにいる、というサイン。「仲間が休憩モードで今そこにいる」ことを知らせるメッセージだ。タイミングが良ければ行ってみればいい。
分散が当たり前になり、人によってオフィスに居る時間がずれてくると、それだけ出会いのチャンスは減る。リアル空間の力が十分に活かせなくなる。そうした影響を補うために、分散する人々の行動を空間に感知させてタイムリーに知らせ、出会いの場へ引き寄せる。マグカップなら、名札のように常時身につけるわけではないから、監視モードにもならないだろう。

【※2】「分散ワークスペース群をシームレスにつなぐ」/岸本章弘、他/『ECIFFO』/vol. 48/pp. 65-70/2006 http://www.workscapelab.jp/wp-content/uploads/2012/06/e48_CS.pdf 


●環境としての人を支える空間

空間のデザインから影響を受ける人の行動やその姿は、他人の行動や意識にも影響を与える。人にとっては、周りの空間だけでなく、周囲の人もまた重要な環境要素の一つだ。そして、他者にとっては自身もまたそんな環境の構成要素の一つになる。

活動の記録や痕跡を残して公開する。属性や意思をさりげなく開示する。人が居なくても代わりに伝える機能を空間に埋めこむ。そして、それを生かすための適切なタイミングを伝える技術と組み合わせる。多様な人々がシェアする空間のデザインには、従来オフィスよりも広い視野から「人と人、人と空間」の関係を読み解く必要がありそうだ。

もちろん、空間だけですぐに効果が生まれるといった過剰な期待は禁物だ。つながる動機やきっかけとして、人々の日常の積み重ねを空間が支援しながら、イベントなどの非日常のマネジメント企画がさらに後押しする。同時に、非日常の場で得た情報をフォローするうえで、日常の環境がさりげなく役立つ。そんな合わせ技が機能するような人・空間・仕掛けの関係のデザインが望まれる。

<執筆者プロフィール>
 岸本章弘
 「ワークスケープ・ラボ」代表。オフィス家具メーカーにてオフィス等の設計と研究開発、次世代ワークプレイスのコンセプト開発とプロトタイプデザインに携わり、研究情報誌『ECIFFO』の編集長を務める。2007年に独立し、ワークプレイスの研究とデザインの分野でコンサルティング活動をおこなっている。千葉工業大学、京都工芸繊維大学大学院にて非常勤講師等を歴任。著書に『NEW WORKSCAPE 仕事を変えるオフィスのデザイン』(2011年、弘文堂)など。

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