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〈はたらく〉 ワークスペース探訪
Exploring Work Spaces

|2019.12.12

イノベーションの発火点をつくる コミュニティワークプレイスの可能性

執筆・素材提供:岸本章弘、編集:松尾奈々絵(ノオト)


●オープンイノベーションへの期待

革新的なモノやサービス、あるいは社会課題の解決策を生み出すために、組織の外に目を向け多様な知見を活用する。そんなオープンイノベーションのプロセスを支援する場所が増えてきている。交流イベントスペースやコワーキングスペースから始まり、近年は狙いをより明確に打ち出したイノベーションハブと呼ばれる施設や仕組みも各所につくられている。

そうした中には、フィンテックや宇宙ビジネスなど対象領域やテーマをあえて絞り込み、より専門的な支援プロセスや運営態勢を充実させる、やや小規模な施設も生まれてきているようだ。持続可能な都市・社会づくりを掲げる「シティラボ東京」もそんな施設の一つだろう。

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今回は、そうした特定の領域やテーマに特化しながら革新と共創のプロセスを後押しする場として、比較的小規模なシェア型ワークプレイスを想定し、オープンイノベーションの起点としての潜在力について考えてみたい。

シティラボ東京のイベントスペース(写真提供/シティラボ東京)

●ビジネスコミュニティのためのワークプレイス

今日、働く場所の選択肢は会社のオフィスに限らない。本コラムの初回でも触れたように、サードワークプレイスの選択肢は増加している。多くのコワーキングスペースでは、日々のデスクワークからミーティング、交流イベントとしての空間まで対応し、利用者同士の化学反応を生みだすような企画を用意している。そうしたシェア空間なら、テーマ特化型のビジネスコミュニティのための活動拠点の可能性があるはずだ。

多様なワークプレイスを活用する際の場所の関係を図1のように想定してみよう。企業などの専用オフィス(コーポレートワークプレイス)と、組織を超えて誰もが利用できるオフィス(コミュニティワークプレイス)が、都心の業務エリアと郊外の居住エリアに分散配置され、既存のカフェや公共施設も含めて連携するイメージである。

図1:各種ワークプレイスの位置付けと連携のイメージ
P1は多分野の事業を展開する大企業、P2はやや事業領域が狭い中企業のコーポレートワークプレイスを表す。M1は都心の業務エリアにあるコミュニティワークプレイスで、特定テーマに絞ったビジネスコミュニティの活動拠点。その一画には企業P1が専用サテライトオフィスを構えている。該当分野でのイノベーションを模索する企業(P1やP2)の社員たちの自社オフィス外の活動の場になる。つまり、コーポレートワークプレイスと業務上で連携している。
M2は郊外の居住エリアにあるコミュニティワークプレイスだが、必ずしも特定テーマに絞った活動が前提ではない。地元住民のためのサードワークプレイスであり、たとえば地域の図書館に併設されたコミュニティスペースの一部を占めるといった設定ができるだろう。こちらは、都心の異なる企業に勤める同じ街の住人たちが、普段の仕事から離れて集まる場所になる。したがって、コーポレートワークプレイスとの関係は業務外の個人的な連携といえる。

都心のコミュニティワークプレイスは、特定の領域や課題に絞り込んだテーマ特化型の拠点として、関連分野の企業社員や大学研究者などがメンバーの中心を占める。特に強い関わりを望む企業などは、コミュニティワークプレイスの一画に自社のサテライトオフィスを構えて、オープンイノベーションの前線拠点とすることも考えられる。

他方、郊外のコミュニティワークプレイスの場合は、テーマ特化度をそれほど上げないほうがいいだろう。なぜなら、想定されるメンバーはそのエリアの住人だが、多くの勤務先が都心の企業や大学なら、その時点で組織を超えた多様な人材である。それぞれの知識や興味を組み合わせた多分野の視点と発想によって、共通の地域の課題を見出し、それを次のステップへと広げていけばいい。テーマによっては、メンバーの副業やプロボノ活動につながったり、本業に対する新たなアイデアのヒントになったりするかもしれない。

都心型コミュニティワークプレイスがテーマに応じてメンバーが集まるのに対して、郊外型はメンバーに合わせてテーマや課題が選ばれプロジェクトが生まれる。オープンイノベーションに必要なのは、多様なメンバーだ。それぞれのエリアの条件に応じたプロセスをとることで、多様なメンバーからなるチームの求心力と活動の継続性が期待できるだろう。


●ワークプレイスの構成

多様なメンバーによる共創と革新を目指すなら、コミュニティワークプレイスには、交流や学びにとどまらずプロジェクトを生み出すところまで後押しする役割を求めたい。そのためには、小規模な施設であってもさまざまな用途に合わせた空間が必要になる。それらは概ね図2のように整理できるだろう。

図2:コミュニティワークプレイスの役割と想定される用途空間例

セミナーや交流のためのイベントスペースやサービス設備など、多くのシェアオフィスやコワーキングスペースに見られる空間は不可欠として、より深いレベルの対話や学びのための支援機能も必要だ。新たな視点や気付きを触発するライブラリーや、多様なメンバーとの対話を可視化できる情報空間としての設え。発想したアイデアやイメージをその場で具現化しシミュレーションするなど、すばやく形にして試すためのプロトタイピングの道具と空間。さらには、チームが占有できるプロジェクトルームや、活動の成果を提示し共有できるギャラリーなど、イノベーションにむけて一歩踏み込んだ共創活動を触発できるような施設も欲しい。


●学びと対話を促す運用

少人数のコミュニティならではのプログラムも考えられる。例えば、共創を支援する際に共通する課題の一つは、初期の受け身的な出会いや学びの段階を超えて、もう一歩踏み込んだ対話や発想の機会を充実させることだろう。セミナー後の質疑応答や交流会での対話は、少人数のほうが発言機会も増え、話を深めやすい。

高校や大学で導入が広がっている「反転授業」の形式をとるのもいいだろう。反転授業とは、授業と宿題の役割を反転させることだ。デジタル教材であらかじめ知識を習得し、教室では知識の確認や問題解決学習を行う。コミュニティの場でも、オンライン経由で事前に講義を受けることを前提とし、メンバーが集まるリアルな場には感想や疑問、発想や展開アイデアを持ち込んでもらって対話や議論を活性化するのである。事前に関連情報や経過資料も共有できる。小規模コミュニティならこうした運用もやりやすいはずだ。

もちろん、リアルな講義も有効である。新しい課題やテーマに取り組むときには、ある程度の学びの段階が不可欠だが、参加者の反応や臨場感を共有しながらの講義なら、ほどよい緊張感も保てる。こうした初期段階の学びのプロセスを「半学半教」で行うことも有効だろう。メンバーの中で詳しい者が他のメンバーに教える方法である。多様な分野のメンバーが集まれば、誰もが自分野については他者よりは専門家なのだから、基礎段階の先生になれるはずだ。そうした相互学習のプロセスは、チームビルディングにおいても役立つだろう。


●緩やかなチームを支える場

共創するチームにはダイバーシティが重要だといわれる。だから外に出かける、あるいは自身の居場所を開く。背景には、集まると何かが起きるかもしれないという期待と、いつも同じメンバーと働いていても新しい発想は生まれないという危機感の両方が感じられる。

もちろん、新しい出会いだけで自動的に化学反応が起こるわけではない。オープンイノベーションはあくまでも手法であり、明確な目的やビジョンが欠けると、発想や議論はすぐに拡散してしまう。だから、テーマを立て、多様な視点から対話を深める。そして、成果が得られるまで活動を続ける。ただし、少人数かつ継続的であっても多様性は失ってはいけない。

そんなバランスを保てるチームのあり方として、緩やかにつながる小規模なビジネスコミュニティが有効なら、その活動を支える拠点としてコミュニティワークプレイスの可能性にも期待したい。

<執筆者プロフィール>
岸本章弘
ワークスケープ・ラボ」代表。オフィス家具メーカーにてオフィス等の設計と研究開発、次世代ワークプレイスのコンセプト開発とプロトタイプデザインに携わり、研究情報誌『ECIFFO』の編集長を務める。2007年に独立し、ワークプレイスの研究とデザインの分野でコンサルティング活動をおこなっている。千葉工業大学、京都工芸繊維大学大学院にて非常勤講師等を歴任。著書に『NEW WORKSCAPE 仕事を変えるオフィスのデザイン』(2011年、弘文堂)など。

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