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〈はたらく〉 ワークスペース探訪
Exploring Work Spaces

|2019.03.06

化学反応を促す触媒環境に 開かれたオフィスの活用

執筆・素材提供:岸本章弘、編集:松尾奈々絵(ノオト)

働く場所の選択肢の広がり

「ネットさえつながっていれば、パソコン1台でいつでもどこでも仕事はできる」といわれるようになって、どれくらい経っただろう。「仕事」の内容によって空間上・時間上の制限や不都合はあるが、カフェでパソコンに向かう人の姿は、今ではごく日常の見慣れた風景になった。

日常的光景になったカフェワーク

ただし、カフェスペースは多様な人と行為が混在する非仕事空間だ。そのため、オフィスとして活用するにはいくつか課題もある。テーブルやイスなどの家具、空間の仕様や性能は、オフィスに求められる人間工学的要件を満たさないことが少なくない。電源や情報ネットワークなどのインフラ設備が不足していることもある。セキュリティ確保も十分とはいえない。そして、非仕事モードの活動との共存が求められ、時にはちょっとした摩擦が起こることもある。

それでも、こうしたモバイルワークは広がっている。最近では「サードワークプレイス」【※1】とも呼べる多様な場所が利用できるようになってきた。それらには、公共空間のカフェやシェア空間から、メンバー向けのコワーキングスペース、小規模事業者が集まるシェアオフィスまで、多様な形式がみられるが、おおむね表のように整理できるだろう。
【※1】ここではコーポレートでもホームでもない第3のワークプレイスの総称として用いている

サードワークプレイスの役割の分類

①小規模事業者のシェア環境
  :交流を支え、つながりを生むビジネスコミュニティ
②個人向けの立ち寄り拠点
  :フリーランサー等のタッチダウンスペース
③法人メンバーのサテライト拠点
  :社員テレワーカーの一時立ち寄り拠点
④組織の外に開かれた場所
  :多様な人材を招き入れ、出会いを促す空間
⑤ビジネス拡大のための前線拠点
  :期間限定で入居できる柔軟な空間とサービスオフィス
⑥プラットフォームとしてのオフィス環境
  :空間からコミュニティまでのトータルなサービス

①と②のタイプは、従来から見られる空間資源共有型の施設だ。主な利用者はフリーランサーやベンチャーなどの小規模事業者である。

シェアオフィスのキッチンテーブルエリア

これらに加えて、最近は法人会員の従業員に利用者を限定する③のタイプも増えているようだ。一般にフリーランスユーザーとコーポレートユーザーでは、働き方のカルチャーや環境に求めるセキュリティレベルが異なる。従来のような「誰にでも開かれたコワーキングスペースを利用しにくかった」という社員テレワーカーのニーズに応えている。

④はやや特殊で、企業自らが社外の人的資源を呼び込み、オープンイノベーションの入口を広げようとするものである。自社オフィスの一部を広く社外に開放し、集まるためのイベントなども開いている。

社外の多様な人と活動が混在する場

さらに⑥のように、こうしたサードワークプレイスの提供と運用のノウハウとツールを活用しながら、すべてのワークプレイス資源とその運用を一括提供する、プラットフォーム型ともいえるサービス提供者も現れている。

オフィスモデルの再定義

これだけ広がった働く場所の選択肢を積極的に活用すれば、従来からのオフィスモデルを定義し直すことができるだろう。会社のオフィスとしての「コーポレートオフィス」、個人の拠点としての「ホームオフィス」、そして組織を超えたビジネスコミュニティの活動の場としての「コミュニティオフィス」を重ねてみると、その重なり部分には先に挙げたいくつかのオフィス形式が収まる。

サテライトオフィスは企業社員のリモートワーク拠点、サービスオフィスは組織の活動拠点のアウトソース空間、そしてコワーキングオフィスはフリーランスなど個人のための柔軟なシェア空間となる。そして、従来型の閉じた企業オフィスに代わって、より開かれた場としてのコミュニティオフィスが、多様性に富むビジネスコミュニティの活動を支える役割を担うという構造だ。(図1)【※2】

【※2】これらは厳密に定義できるものではないし、実際の事例は複数の形式を併せ持つなど、どれか一つの枠に収まるとも限らない。

図1:連携・融合するオフィスのモデルイメージ

オフィスを開く

コミュニティオフィスを活用すれば、企業組織はより柔軟なオフィス戦略をもつことができる。その役割としては、社員の多様な働き方の選択肢の拡大から、オフィスコストの削減までいろいろな可能性があるが、重要な一つが「オフィスを開く」ことだ。

イノベーションには、これまでとは違うメンバーとのつながりが必要といわれる。あるいは、そのための組織にはダイバーシティが不可欠ともいわれる。新たな出会いや異なる価値観の交錯が、新たな発想を触発するというわけだ。しかも、そうした化学変化はいつ起こるかわからず、あらかじめ計画できないため、頻繁に集まることや継続的に活動を共にすることが重要になる。だから、社内外の多様なメンバーが自由に出入りできる場所があるといい。

そうした場所をどこにつくるか、企業によって目的や条件は違ってくる。出会いたい相手、そこへの移動コスト(距離、時間、手段)、期待する効果や価値など、各社各様の事情や思いがある。自社オフィスの外で、会いたい人々がいるアウェイに自由に出かけるか、足下に場をつくって皆にホームに来てもらうか。もちろん、それらを臨機応変に使い分けてもいい。いずれにしても、多様な選択肢のあるコミュニティオフィスを活用すれば、導入は難しくないはずだ。

ただし、開く目的は明確でないといけない。「先ずはコストを抑えつつ、できればこんな効果やあんな期待も……」といった曖昧な設定では、開くことの意味は生まれない。そもそも計画できない効果を求めるのだから、場と活動の継続性は不可欠。曖昧な目的の下では長続きしないだろう。

オフィスを開く明確な目的をもち、手段としてのコミュニティオフィスを柔軟に組み合わせ、組織を超えた化学反応を促す触媒環境をつくる。そんなオフィス空間の処方箋はどうだろうか。

「働く場所」から「人や地域との接点」へ 変化するオフィスのあり方(株式会社ディー・サイン)

<執筆者プロフィール>
岸本章弘
オフィス家具メーカーにてオフィス等の設計と研究開発、次世代ワークプレイスのコンセプト開発とプロトタイプデザインに携わり、研究情報誌『ECIFFO』の編集長を務める。2007年に独立し、ワークプレイスの研究とデザインの分野でコンサルティング活動をおこなっている。千葉工業大学、京都工芸繊維大学大学院にて非常勤講師等を歴任。 著書に『NEW WORKSCAPE 仕事を変えるオフィスのデザイン』(2011年、弘文堂)など。
 

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