〈はたらく〉 ワークスペース探訪
Exploring Work Spaces

|2019.04.24

業務内容に合わせて働く場所を変える、全く新しいオフィス【イトーキ】

執筆:やつづかえり 編集:松尾奈々絵(ノオト) 撮影:小野奈那子

「朝は集中して企画書を書きたいから集中ブースにこもって、午後は話しかけられてもかまわないからコワークスペースに移動しようかな」。

そんなふうに、社員自らが「1人で集中する必要があるのか」「誰かと話し合って進めたほうが良いのか」などを判断し、業務に合わせて働く場所を選ぶことができたら、どんなに良いか。

いち早く社員の理想の職場を形にしたのは、株式会社イトーキだ。オフィス家具や空間デザインを通じて新しいワークスタイルを提案する同社は2018年10月、都内4箇所に分散していた拠点を日本橋の新本社「ITOKI TOKYO XORK(ゾーク)」(以下、XORK)に集約した。

一体、どのようなスペースなのだろうか。設計・デザインに携わった星幸佑さん(営業本部 FMデザイン統括部 FMデザイン設計部 首都圏第2デザイン設計室 室長)にオフィスを案内してもらった。

●仕事の内容に合わせて最もパフォーマンスが上がる場所を選べる

「XORK」とは、“WORK”の“W”をアルファベット順で次の文字である“X”に変えた造語で、「これまでの働き方を次の次元へと進化させる」というメッセージが込められている。

新しいオフィスの特徴は、「ABW(Activity Based Working)」というワークスタイル戦略と、空間品質基準「WELL認証(WELL Building Standard)」に基づくオフィスデザインで、生産性向上を目指す点にある。

ABWとは、個人の席を固定しないフリーアドレスのさらに先を行く、「仕事の内容に合わせて、働く場所や時間を自由に選ぶ」考え方だ。社内のフロアマップには、エリアごとにそこで行うのに適する活動の種類が9つの色とサインで示されている。

活動の種類は、ABWの創始者で、今回イトーキのABW導入の支援も行ったオランダのVELDHOEN +COMPANY社の考えをもとに10の活動に分類。イトーキの本社では「専門作業(テクニカル)」を除く9の活動が行われる前提で、同社が事業を推進するために考えた理想的な活動割合に合わせ、専用の場所を用意している

社員にはABWの考え方に則った働き方を身に付けてもらうため、「1日に4回は働く場所を変えてください」と呼びかけているそうだ。星さんは、ここに従来のフリーアドレスとの大きな違いがあると語る。

「フリーアドレスは多くの場合、1人でする仕事も誰かとの共同作業も、場合によっては食べたり飲んだりも、同じ場所で行うため、周辺の環境からのネガティブな影響が大きい働き方です。このオフィスでは、活動の種類ごとに最もパフォーマンスが上がる場所が用意されていて、社員が自律的に選ぶのです」。


●視線や音にも配慮し集中できる環境を整備

一般的なオフィスと比べると、XORKには小さな個室がたくさんあり、個室でない場所でもデスクの周りを囲うパーテーションが目につく。1人用の「高集中」「電話/WEB会議」「リチャージ」、2人用の「二人作業」「対話」などの専用スペースだ。

集中スペースには、半個室タイプや間仕切りのあるタイプがある

星さんは、集中できる環境を整えることの重要性を強調する。

「例えば集中して論文を書いているときに一度中断すると、元の集中状態に戻るのには20〜30分かかると言われています。その時間が積み重なると大きなロスになりますよね。そのため、視線や音に配慮した集中しやすい場所をつくっているのです」。

高集中エリアにいれば周りの人も作業の邪魔をしない。同じ1人で行う仕事でも、メールのチェックや返信などそれほど集中力を要しない作業の場合は「コワーク」用のエリアで行う。ここにいる人には、随時話しかけてもかまわないというわけだ。

コワークスペースにいれば、自然と声をかけやすい

●理想の働き方をサポートするアプリも独自に開発

XORKでは、打ち合わせや共同作業が必要なときはそのための場所に集まるが、それ以外は誰がどこにいるかがわからないという状態になる。

社員の荷物は全てロッカーに収納

そこでイトーキはXORKの開設に合わせて、独自のアプリケーションも開発した。スマートフォンから同僚の居場所を確認し、必要ならそのアプリから電話、チャット、メールなどができるようになっている。

各個室のAV機器、照明、ブラインドなどを一括してコントロールできるアプリもイトーキが自ら開発。会議室に備え付けのiPadのほか、社員のスマートフォンでも操作できる

星さんは、「我々がやりたかったのは、働き方を変革するための、ITも含めた一連の仕組みづくりだ」と語る。

各自の居場所は記録としても残され、過去に自分が9つに分類された活動エリアのどこにどのくらいの割合でいたかを視覚的に確認できるようにもなっている。例えば、「今週は個人作業に6割程度の時間を使っている。他の人との協働を増やすべきだ」とか「もっと仕事から離れてリフレッシュする時間をとっても良さそうだ」ということを、自分で振り返り、改善に生かしていけるわけだ。


●社員のウェルビーイングの促進が生産性を下支えする

XORKのもうひとつの特徴が、WELL認証の基準に則った空間品質だ。

WELL認証は建物内の環境を評価するシステムで、その中で働く人の「ウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に満たされた状態)」を重視する点に特徴がある。

例えばXORKでは、受付のすぐ近くにある開放的な階段で上下階を行き来できる。これは、アクセスしやすい場所に階段を設置して利用を促進するという、WELL認証の「フィットネス」の基準に沿ったものだ。

また、「食物」の基準に従い、オフィス内に30グラムを超える糖分を含むドリンクを置かない、カフェでは温かい食事や野菜と果物それぞれ2種類以上が入手できるようにする、といった運用も行っている。

ビルの共用のエレベーターよりも、オフィス内の広い階段を好んで使う社員が多い

受付奥にあるカフェでは健康的な食物が提供され、社内外の人との打ち合わせにも、休憩にも利用できる。キッチンが併設されており、社員が一緒に料理を作って交流するような使い方も想定されている

WELL認証にはそのほかに「空気」「水」「光」「快適性」「こころ」という項目があり、「フィットネス」「食物」も合わせて7つの項目それぞれの基準に準拠し、社員が健康で快適に働けるオフィスを実現している。

イトーキは「マインドフィットネス」という独自のプログラムも開発するほど、働き手の心身の健康を重視している。社員の生産性を下支えするものとして、環境や健康のために投資する姿勢が徹底されているのである。

専用の瞑想室のほか、役員室の片隅にもマインドフィットネス用の場所がある。心の状態を整えてから会議を始める、といった使い方がされているそう

●中期経営計画に基づく働き方変革とそれを支えるオフィス

そもそも、どうしてこういったオフィスづくりに取り組んだのか。昨年イトーキは、創業130周年を迎える2020年に向けて3カ年の中期経営計画を発表した。そこで重点方針のひとつに掲げたのが「『働き方変革』の実践」だ。XORKを開設したのも、抜本的に働き方を変えて生産性と創造性を高めるという目標あってのことなのだ。

しかし、最初からXORKのイメージがあったわけではない。まずは営業本部のプロジェクトで以下のような働き方の課題が抽出された。

(1)お客様への充分な訪問時間が取れていない
(2)お客様のオフィスの課題が複雑化している
(3)お客様が期待する提案の品質やスピードを満たせていない

また、社員の意識調査からは、社内外のコラボレーションや創造的な活動よりも個人作業や予定された会議などが重視されていること、当時のオフィスについて「生産性に寄与していない」「集中できない」「働く場所の選択肢が少ない」といったネガティブな評価が多いことがわかった。

より価値を生み出すには、ルーチン業務の時間を短縮し、創造的な協働を促進する対策が必要であることが見えてきたのだ。

そこでイトーキはABWに着目。そのコンセプトを「社員の自己裁量を最大化し、社員自ら働き方を自律的にデザインするワークスタイル戦略」と捉え、オフィスのデザインに反映することにした。

なお、数ある候補のなかから日本橋のビルを選んだのも、現在再開発が進んでいる日本橋は、正にマーケットの中心地であり、ABWやWELL認証準拠の空間づくりができるなど、様々な観点から評価した結果だという。

XORKでは役員室も開かれている。モニターやホワイトボードも完備され、活発な議論が行いやすい場になっている

同社の働き方変革はまだ始まったばかり。全く新しいオフィスが狙い通りに働き方の変革を促し、生産性や創造性の向上、ひいては業績目標の達成につながっていくのかどうか、今後の動向が楽しみだ。
 
コーナー監修・岸本章弘さんコラム[「組織の配置」から「機能の配置」へ 行動と空間のマッチング]

関連サイト
ITOKI TOKYO XORK: https://www.itoki.jp/xork/

<執筆者プロフィール>
やつづかえり
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年に組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018.3)。Yahoo!ニュース(個人)オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、ICT、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。

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