〈はたらく〉 ワークスペース探訪
Exploring Work Spaces

|2019.04.25

「組織の配置」から「機能の配置」へ 行動と空間のマッチング

執筆・素材提供:岸本章弘、編集:松尾奈々絵(ノオト)


●長く続いた「自席」デスクワークの時代

株式会社イトーキの新オフィス「ITOKI TOKYO XORK(ゾーク)」では、ABW(Activity Based Working)をもとに空間が設計された。働き手自らが、働く場所を選ぶワークスペースとなっている。

社員が自己裁量で働き方をデザインする全く新しいオフィス【イトーキ】

もともとオフィスとは、人手を使ってビジネス情報を処理し、その進捗を管理・監督するためにつくられた場所だ。事務作業を効率よく進めるために、オフィスワーカーは標準化された作業を分担していた。誰もが自席を与えられ、仕事の流れや組織の構造に沿ってレイアウトされた。自席は常に仕事場の中心だった。

パソコンが登場する以前の時代は、紙の書類や資料、固定電話機が必須であり、そしてパソコンが導入された後でも、デスクトップパソコンと有線LANの時代には、やはり自席にいる必要があった。

そんな時代が長く続いたのだから、「仕事は自席でするもの」と思い込んでいる人が多くても不思議ではない。自席以外に仕事道具を自由に持ち運べるようになったのは、わりと最近のことである。書類がデジタル化され、パソコンがノート型やタブレット型になり、それらがネットワークでつながり、電話機が携帯型になってからだ。

それでも、「分業型の情報処理」が主な仕事なら、自席を離れる必要は特にないし、働きぶりを見ながら管理したい上司にとっても、その方が都合がいいに違いない。


●オフィスの仕事は、情報処理から知識創造へ

しかし今、オフィスワークは大きく変化しつつある。一言でいえば、「情報処理」から「知識創造」へと、急速に移行し始めている。

通常、オフィスでの知的活動は、概ね3つの階層で捉えることができる。

図1:オフィス内の行動モード分類と空間の組合せ

「情報処理」は事務処理や定型処理作業。「知識処理」は知識情報の調査探索や加工処理など、知的価値を向上させる作業。そして、「知識創造」は新たな価値の創造や、イノベーションにつながる作業がメインである。

これらの行動は、各人が個別または分担して行う個人作業と、グループやチームが共に相互作用的に行う共同作業に大別できる。そして、それらの行動には、その合間を補完する社交的行為、休憩や気分転換、移動なども伴う。図1はこうした考え方に基づいてオフィス内の行動モードを分類したものである。

このように分けると、情報処理は「減る仕事」、知識処理は「増える仕事」、知識創造は「増やしたい仕事」といえるだろう。つまり、長らくオフィスワークの中心にあった情報処理型のデスクワークや、その合間に行われた情報伝達型の会議が減り、それらに代わって、高い集中が求められる個人作業や、対話を必要とする共同作業が増えるということだ。

当然、行動モードにはそれぞれに適した空間のタイプがあり、それらは従来型のデスクとは異なる。

集中するために背を向けたり閉じこもれるブースや個室。

協働のための道具がそろった会議スペースやプロジェクトルーム。

そして、交流のためのカフェやラウンジなど。

その時の作業内容や行動モードに応じて、これらの選択肢から適切な空間を選べる会社が増えてきている。


●「適業適所」の働き方を支える空間へ

行為や作業に合わせて場所を選べるオフィスをつくるなら、従来のデスク空間のように人数分同じものを配置するわけにはいかない。そのオフィスにおいて、どんな空間が、どの程度必要になるのかを把握しなければならない。

そのためには、そこで働く人々の行動モードの配分を理解する必要がある。組織には多様な部署や職種があり、誰もが同じ行動パターンを取るわけではない。部署や職務ごとに、仕事内容や場所のニーズの違いを知ることが求められる。

例えば、開発や営業、管理といった業務によって、あるいは同じ部署でも、部下と管理職では行動モードの配分は異なるだろう。図2は、ある組織の職種別調査から、営業職と設計職の結果を抜き出したものである。営業職が共同作業の比率が高いのに対して、設計職は個人作業の比率が高く、また個人差が大きいことがうかがえる。

図2:職種によって異なる行動モード比率の例(細線は各個人、太赤線は平均値)

図3は、同じ組織の職位別調査のうちの一般と部長のグラフである。それぞれに、個人作業と共同作業の比率や、知識処理と知識創造の比率に違いがあることが分かる。

図3:職位によって異なる行動モード比率の例(細線は各個人、太赤線は平均値)

実際の計画では、こうした行動実態や要望の調査結果を参考にしながら、求められる空間機能のバリエーションを設定し、利用時間や頻度といった要件に応じて配分することになる。そこでは、従来のオフィスレイアウトのように、部署ごとの人数に基づいて「組織を配置」するやり方は通用しない。

求められるのは、そこで働く人々の行動特性に応じて「機能を配置」し、それらの使い分けを支える道具と運用の仕組みを整備することである。

このように、知識創造系の行動モードに最適化された空間の選択肢を提供できれば、オフィスはそこで働く人々のパフォーマンスの向上に貢献できるだろう。これからの働き方に対して、従来型空間が引き起こす行動と空間のミスマッチを避けるための一つの手段になるはずだ。

<執筆者プロフィール>
岸本章弘
ワークスケープ・ラボ」代表。オフィス家具メーカーにてオフィス等の設計と研究開発、次世代ワークプレイスのコンセプト開発とプロトタイプデザインに携わり、研究情報誌『ECIFFO』の編集長を務める。2007年に独立し、ワークプレイスの研究とデザインの分野でコンサルティング活動をおこなっている。千葉工業大学、京都工芸繊維大学大学院にて非常勤講師等を歴任。 著書に『NEW WORKSCAPE 仕事を変えるオフィスのデザイン』(2011年、弘文堂)など。

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