東京駅八重洲口を出て外堀通りを渡る。小さな飲食店や雑居ビルがひしめきあう様に、何とも言えない高揚感が湧いてくるのは筆者だけだろうか。
八重洲の街なかを縦横に伸びる小路を進むと唐突に現れるのが、「THE GALLERY」と名付けられたガラス張りのギャラリースペースだ。東京建物株式会社(中央区八重洲)が運営する「ブリリアラウンジ(Brillia Lounge)」内にあり、同社はブランディング及びCSRの一環としてアーティスト支援を目的とした公募展「Brillia ART AWARD」を2018年より本格始動させた。その年の入選作品が一年かけて順番に展示されていくTHE GALLERYは、さながら季節ごとに変わるショーウインドウのようで、この街に働く人の密かな愉しみになりつつあるという。
今回は、Brillia ART AWARDの仕掛け人である、東京建物 住宅事業企画部の遠藤崇さん(写真左)と萬由衣さん(写真右)、さらに、審査員を務める小山登美夫ギャラリー代表の小山登美夫さん(写真中央)に、同アワードならびにTHE GALLERYの展開と可能性について訊いた。
アーティストを刺激する空間を提供する
──Brillia ART AWARD立ち上げの経緯とは
遠藤 ブリリアラウンジは、弊社が展開するマンション「Brillia(ブリリア)」のブランドコミュニケーションの場として、創業120年周年を迎えた2016年にリニューアルオープンしました。お越しいただくお客様にくつろいで楽しんでいただけるラウンジ空間を目指し、そのシンボルとなるようなアートを歩道に面したスペースに飾ろうと思いついたのが、THE GALLERYのはじまりです。ですから1年目は、様々な作品をお借りして展示したのですが、もっと多くの皆さんにTHE GALLERYを知っていただきたいと、THE GALLERY のPRも兼ねて、展示するアート作品を一般から公募する今のやり方に変えたんです。
小山 遠藤さんからコンペの中身について最初にご相談を受けたとき、直感的にこの企画が面白くなることを確信していました。大勢の人がうごめく八重洲の街なかに作品が置かれるという環境がまずあって、限られたスペースのガラス張りの空間(=THE GALLERY)がアーティストに与えられる。普段、彼らが作品と向き合う作業は少なからず内的です。他方で、Brillia ART AWARDを介して社会とつながったアーティストは想像力をより広げることができるのではないかと考えました。
萬 実際に、THE GALLERYの展示を観た方からは「今まで見たことのない作品」「作品のファンになった」といった声も多く寄せられています。小山さんをはじめ、新しい才能を見出すのに長けた有識者の方々を審査員に迎え行われるBrillia ART AWARDには、新進アーティストのステップアップの場としての側面もあるので、これからも枠組みに捉われないジャンルレスなアイデアを重視していきたいですね。
──Brillia ART AWARD 2019の見どころは
小山 Brillia ART AWARD 2018の大賞作品『What?』が素晴らしい前例をつくってくれましたが、THE GALLERYと一般のギャラリーでは、作品の在り方がまるで違いますよね。THE GALLERYの鑑賞者はギャラリーの外、すなわち街にいます。アーティストの立場からすれば、夜にはライトアップもされるその場所を、全体として魅せる必要があるわけです。今年のアワードでも、個人的な空間から街へと思考を飛ばせた作品に、驚かれる人も多いでしょう。
遠藤 新年最初の展示では、巨大な卵型の物体にまとわりつく、どこかおかしみのある獣たちの見たことのない世界をお見せします。また、約3カ月ごとにまったく異なる技法、素材、モチーフの作品が展示されますが、いずれも、通りの向こう側を歩いている人をも引き寄せるような強い力を持った作品揃いです。
都市を舞台にアートの可能性を追求する
──八重洲とアートとの親和性は
萬 八重洲には昔から人々が集まり、受け継がれるものと新たに根付いていくものとが共存していますよね。
遠藤 しかも、狭い小路が縦横に幾筋も伸びている。言い換えれば、人と建物がすぐそばにある環境と、THE GALLERYの形態がマッチしたのではないでしょうか。
小山 私は、生まれが人形町で、子どものころは自転車を飛ばして八重洲にもよく遊びに来ていました。ただ大人になってからの方が、八重洲という街の奥深さ、多様さがよく分かります。世の中のあらゆるものが、合理性や効率化といった価値を拠りどころにしがちですが、八重洲は、街そのものに親密な空間が内包されていて、アートを楽しむ土壌が成熟していると言えるかもしれませんね。
──企業にとってのアートとは
小山 若いアーティストや芸術を専攻している学生はどんな時代でも一定数いるものです。何かをつくりたいという想いは根源的で、人の普遍的な欲求であるにも関わらず、大半の人がどうやって着地させるのか分からないままでいます。そこで、作品を発表する場所や、社会とつながれる場所を、企業が用意することはとても意義深いと思います。企業側にとっても、常に新しい表現に挑戦し続けるアーティストから受ける影響は少なくないはず。これからのアートは、企業とアーティストの双方が響き合って成立していくのかもしれません。
また、アートは、その受け手も重要な役割を担っています。よく、アートが分かるとか分からないとか聞きますが、そんなことは問題ではないんです。好きなものがあったらそれがアート。「なぜ、これが好きなのかな」と考え、受け手が反応することが、アーティストの可能性を押し広げることにつながると私は考えています。
Brillia ART AWARD 2019
主 催:東京建物株式会社
運 営 協 力 :公益財団法人 彫刻の森芸術文化財団
運 営:株式会社Quaras
WEBサイト:https://www.brillia-art.com/award/index.html