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〈みるきくしる〉美を愉しむ/地元の古美術・画廊巡り
New way to enjoy antique

|2020.05.22

アートはコロナに負けない オンライン展覧会に込めた想い

美術館やギャラリーの休業、展覧会やイベントの自粛など、新型コロナウイルスの影響はアート界にも及んでいます。「東京 アート アンティーク~日本橋・京橋美術まつり~(以下、東京アートアンティーク)」もそのひとつ。今年は4月23日・24日・25日に開催予定でしたが、緊急事態宣言が発表された4月7日、イベントの開始以来初めて全面中止を発表しました。

東京アートアンティークは1998年に、地元の美術店や画廊の店主有志が立ち上げたイベントです。周辺の同業者へ参加を呼びかけ、会期の時だけの特別展示を企画してもらったり、実行委員会主催のトークショーを催したり。こうした、街を散策しながら誰もがアートに触れられるイベントは今でこそ珍しくありませんが、当時はほとんど例がなく、「顧客を他店に取られるのでは?」といった懸念から、参加店を集めるのにも苦労したそうです。

それから月日が経ち、地域発信のアートイベントとして今年で11回目を迎えた東京アートアンティークには、過去最多の97軒が参加を表明。しかし、イベントの準備も整いつつあった矢先、緊急事態宣言が発令されました。イベントのみならず、営業縮小を余儀なくされている美術店や画廊の皆さんの落胆や不安は計りしれません。

そうした中、東京アートアンティーク実行委員会に唯一異業種から参加する、広報担当の小野瀬裕子さんがスタートさせたのが、「東京 アート アンティーク2020オンライン・WEB展覧会(以下、オンライン展覧会)」です。Web制作を本業にする小野瀬さんですが、アートに触れ心穏やかになれる時間と、作品との一期ー会の機会をくれる、東京アートアンティークの店主たちとの会話を大切にする美術ファンでもあります。

過去の東京アートアンティーク開催風景(画像提供:東京アートアンティーク実行委員会)

ここからは、東京アートアンティーク初のオンライン展覧会(会期:2020年4月23日~10月31日)に込められた想いを、小野瀬さんへのインタビューを通じてお届けします。一人でも多くの人が、アートで心豊かになる時間を過ごせますように──。


──どのタイミングでオンライン展覧会の可能性が持ち上がりましたか?

東京アートアンティーク全面中止の決定前、すでに休館した美術館や中止となったアートフェアがオンライン上で作品発表や販売を始めていましたので、「東京アートアンティークでも」との声は内輪で上がっていました。

とはいえ、ホームページや広報冊子に作品の販売価格を載せないことは、非営利団体である東京アートアンティークがずっと守ってきた方針のひとつ。アートに親しんでもらい、アートがもたらす心豊かな時間を知ってもらい、そして日本橋・京橋がアートの街として認知されることが私たちの活動の趣旨ですから、オンライン展覧会を本当に開催するのか、開催にあたってどこまでの情報をWebページに載せるのか、様々な意見が飛び交いました。

東京アートアンティーク参加店をインタビュー中の小野瀬さん(右)

──最終的に、参考価格を掲載した決め手は何だったのでしょうか?

話が矛盾するようですが、どうすればもっと多くの人にアートに親しんでもらえるかを考えたとき、ミステリアスな作品の値段がアートの敷居を高く感じさせているようにも感じていました。美術品の高額落札のニュースなどが大きくフィーチャーされ、アートは恐ろしく高額なものばかりだと思っている人も多いのではないでしょうか。美大卒の私でさえそうでした。

でも実際は、インテリアを楽しむ感覚で手の届くアートもかなり多いのです。そのため、相場感を知っていただくことは大事だと考えました。そこからさらに進んで、「販売サイトとして機能させては?」といった声もありましたが、東京アートアンティーク実行員会が販売を代理するわけにはいかないため、あくまで「参考価格」の扱いにとどめました。

このように、ページのつくりに関してはなんとか意見がまとまったのですが、東京アートアンティーク参加店の中で、オンラインの販売に取り組んでいる店は実はごくわずか。特に古美術を扱う方々は、多くの人の目に品物がさらされることを「目垢がつく」と言い、作品の画像を表に出すことすら抵抗のある店も多く、オンライン展覧会の呼びかけに応じる店がどれくらいあるか、初めはとても不安でしたね。

東京アートアンティーク実行委員会のメンバーによる会議の様子(写真提供:目の眼2020年1月号より)
開催1年前からメンバーで定期的に集まり会議を重ね、イベントの準備を行う

──誰もが経験したことのないコロナ禍でのアートマーケット。美術店や画廊の皆さんはどんな想いを抱えているのでしょうか?

作品を売る場がない今、とても困難な状況にあることは間違いありません。一時的に営業時間を短縮したり店を閉めたり、そうした対応ももちろん大変ですが、一度止まってしまったアート市場のこの先の動きが見えない不安はもっと大きいのではないでしょうか。

また、現代アートを扱うギャラリーでは、多くの時間とエネルギーをつぎ込んで制作に当たるアーティストたちに発表の場を提供できないことは心苦しいでしょうし、古美術の世界では、テーマに沿った作品を探し出し、手に入れ、ある程度の作品数を集めるのに、10年を要する展覧会もあるほど。それなのに日の目を見ないのはあまりにも残念で、店主の皆さんも悔しい思いがあったと思います。展覧会の開催にこぎつけるための根気や資金は、当事者でなければなかなか分からないものです。

──小野瀬さん自身が、この度のオンライン展覧会に込めた想いをお教えください。

やはりモニターの中ですから、いくら写真を拡大しても作品がまとう空気感まで感じ取ることはできません。逆にその物足りなさを補う意味で、「よし、本物を見に行こう!」と思っていただければと期待しています。オンライン展覧会に参加する店の数はまだそれほど多くないですが、「おかげさまで売れたよ」と言ってくださったお店もありました。

今回の事態をきっかけに、各所で展覧会のオンライン配信は増えていくでしょう。だからといって、将来的にオンライン展示会がリアル展示会に取って代わるわけではありません。オンラインという手段は補助的に、けれど、リアルとワンセットとして捉え積極的に用いることで、新しい感性との出会い、刺激的な体験を無数の人にもたらします。さらに今後は、オンラインでしか発表、体験できないような形態の作品も多く出てくるはずですので、作品を見るのがもっと面白くなりますね。

左)街のマルシェイベントへの出展時の様子。東京アートアンティーク・インフォメーションブースに立つ小野瀬さん
右)オンライン展覧会のWebページ。アートのジャンル別、ギャラリー別に閲覧することもできる

──最後に、東京アートアンティークとしてメッセージをお願いします。

新型コロナウイルス対策を巡って、「不要不急」という言葉がまず印象に残った人も多いと思います。そして、「不要不急をどう定義するのか」という疑問。私は、どのような状況下でもアートが「不要」になることはないと考えています。外に出られない時、大切な人と会えない時、そういう時こそすぐ側に、常にあるものなのだと気づかされる、アートとはそういう存在ではないでしょうか。

皆さんの創意工夫や独創的な発想、生き方、思想がアートの始まりで、今、小さなアートがネット上にたくさん広がっています。ぜひ、そのような眼でアートを生業としている人たちがつくり出す作品を見てもらい、状況が落ち着いたら本物を見に美術店や画廊に足を運んでみてください。

東京アートアンティークのオンライン展覧会も10月末まで開催しています。毎月新しい作品を追加したり、作家の声や制作風景などのコンテンツを新しくつくったり、少しずつサイトを充実させていきますので、覗いていただけたら嬉しく思います。

関連サイト
東京 アート アンティーク2020オンライン・WEB展覧会: https://www.tokyoartantiques.com/item-list/

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