現在の首都東京の礎を築いた江戸。当時の記録として残された文献のみならず、江戸を題材にした時代小説も次々と出版されており、いまなお多くの人々を魅了しています。江戸の面影をたぐりよせながら実際に街を歩き、新たな発見に触れるといった楽しみ方も素敵です。
その江戸の歴史から心意気まで、第一人者を講師に招きあらゆる視点から親しんでもらおうと、去る10月18日(水)、コングレスクエア日本橋にて第三回「江戸まち塾」が開催されました。
第三回の講師は、時代小説が大人気の直木賞作家、山本一力さん。作家ならではの江戸に関する視点と楽しみ方についてお話をお伺いしました。
作家・山本一力を世に知らしめた代表作のひとつ、「蒼龍」の執筆当時、駆け出しの新人だった山本さんは、江戸の古地図との出会いから時代小説作家として本格的にキャリアをスタートさせました。
後に文藝春秋のオール讀物新人賞受賞作となった同作の執筆にあたり、八重洲ブックセンターの古地図販売コーナーを訪問。そこで初めて、古地図は制作年度によって大きく異なることを知ります。迷った挙句、「新人賞への応募」と購入動機を打ち明け、書店員のアドバイスをもとに、江戸の発展段階として知られる天保の古地図を手に入れることに。この古地図が山本さんの原点だそうです。
時代小説作家は、誰もが地図を明確に描き、在りし日の風景や日常を読者に届けることで、読者自身が作品から自分だけの地図を頭のなかに描写しながら江戸に親しめるよう、日夜努力を重ねているのだそう。そんな山本さんが「この街は確かに江戸につながっている」と実感したのは、以前放送されたニッポン放送の番組の企画で、パーソナリティの上柳昌彦さんと日本橋から船に乗り、お堀をわたって飯田橋方面に向かったときのこと。
堀川をたどっていくと目に飛び込んできたのは、石垣に彫られた大名の家紋。その石垣を担当したことを明示する刻印として後世に残されたものの、堀川からしか見ることができない位置にあるのだとか。この経験は山本さんに新鮮な驚きをもたらし、江戸の存在をあらためて強く意識したと語ってくださいました。
興味深かったのは水売りの商売のお話。ミネラルウォーターの先駆けでもある水売りがはじまったのは、明暦の大火を経て、本格的な街づくりで海を埋め立てて作った深川。埋立地では塩水しか採れなかったため、大きな水槽を備えた水船が深川で暮らす住人に飲料水を届けたそうです。
時代小説から触れる江戸の楽しみ方を丁寧に解き明かす山本さんのお話に、好奇心満載の表情を浮かべる参加者でにぎわった第三回「江戸まち塾」。
三回にわたり開催された「江戸まち塾」を通し、江戸への親しみがわきました。当時を思い描きながら街を歩いてみてはいかがでしょうか。
<イベント詳細>
日 時:2017年10月18日(水)
時 間:18:00~20:00
会 場:東京建物日本橋ビル 2階コングレスクエア日本橋
主 催:日本橋六の部連合町会、京橋一の部連合町会、日枝神社下町連合、日本橋六の部連合町会青年部 日八会、
京橋一の部連合町会青年部 京橋はじめ会
協 力:日枝神社、日本橋地域ルネッサンス100年計画委員会、都市出版株式会社「月刊東京人」
事務局:東京建物株式会社 江戸まち塾係