〈むかしみらい〉 地元企業物語
Campany's story in our town

|2019.04.22

リアル下町ロケット! クボタのロボット農機が世界の農業を救う

人が誰も乗っていない無人トラクターが、田んぼを正確無比に、黙々と耕していく…。大人気のテレビドラマ『下町ロケット』新シリーズで、そんな場面があった。まさにそれは、農業の来たるべき未来の1シーンといえる光景だった。

ところがその“未来”は、すでに現実のものとなっている。それを実現させているのが、同ドラマで技術監修や農業機械の提供を行った農機メーカー・株式会社クボタだ(中央区京橋に東京本社)。同社は2016年に自動操舵機能を搭載した田植え機を発売したのを皮切りに、自動運転や無人運転が可能な農機、いわゆるロボット農機の実用化を続々と果たしている。

まさに“リアル下町ロケット”とも言うべきロボット農機の実態はどんなものなのか。そして、さらにその先に待っているであろう農業の完全自動化について、同社機械業務部長・木下武志さんと、東京広報室(現、筑波工場)・大鰐健さんに聞いた。


農業機械がこれほど関心を集めたことは過去にない

2018年の10月から12月にかけて放送された連続ドラマ『下町ロケット』(TBS系)は、最終回の平均視聴率が16.6%を記録するなど、2015年放送の前作に続き高い支持を集めた。農業機械の提供や技術監修という形で同ドラマに全面協力したクボタにも大きな反響があったと、同社の木下さんは話す。

「仕事柄、農家の方々をはじめ、行政関係者、研究者、他メーカーの方々とお話する機会が多いのですが、放映期間中は『前回の放送は◯◯でしたね』という話に花が咲き、なかなか本題に入れないことが多々ありました(笑)。私の実感値ではありますが、周りの関係者の視聴率は100%に近いものがあったのではないでしょうか。また、農業機械というものに一般の方々がここまで関心を持っていただけたことは、過去に記憶がありません。作品では農家の方々の苦労やパッションが非常にうまく描かれていて、そうした部分もみなさまに知っていただけたのかなと感じています」。

撮影ではこんなサプライズもあったと大鰐さんは明かす。

「技術的なサポートで撮影現場に赴いた弊社社員が、着くなり監督さまから頼まれ、ギアゴーストの社員や帝国重工の社員としてエキストラ出演させていただきました。しかもなんと2~3日後にはそれが予告編で放送され、観ていた本人も他の社員もたいへん驚いたということがありました」。

左)クボタ 機械業務部長の木下武志さん
右)同社 コーポレート・コミュニケーション部 東京広報室(現、筑波工場)の大鰐健さん

ただ、ドラマの中には現実とは異なる場面もあった。帝国重工の自動運転トラクター(※)がデモンストレーション走行で田んぼのかかしにぶつかり、さらには農道から脱輪して用水路に転落するシーンだ。

※トラクター=農具などを牽引する牽引車

「ああいったことが起こってはいけないという前提で技術を確立しておりますので、通常の作業をしている限りはまず起こりません。ドラマの演出として必要なシーンと理解して、弊社も了承しました。弊社の現在の技術レベルではあり得ない話だというのを理解していただけると嬉しいです」。(大鰐さん)

では現実の世界では、クボタのロボット農機は今、どんな地点にいるのだろう。

左)『下町ロケット』に登場する農機はクボタが提供したもの。ドラマのストーリーに合わせて塗装を施した
右)トランスミッションを分解して調べるシーンに登場した各パーツも、クボタが提供したものが使われた

農業危機を脱するには「スマート農業」が重要なカギに

鋳物メーカーとして1890年に創業したクボタは、これまでに食料・水・環境に関するさまざまな製品を世に送り出してきた。とりわけ農業に関しては、1923年に農工用発動機を日本で初めて発売し、1960年には国産初の畑作用乗用トラクターを開発するなど、日本の農業の機械化を長年牽引してきた。1975年からは電子制御技術などを駆使したハイテク農機も市場に送り始めた。

そして2010年ごろからは、ロボット技術やICTによって少ない労力で高い生産性を実現する「スマート農業」の本格的な研究を開始。その背景には、日本の農業が直面する危機的な状況がある。

「日本の就農者の平均年齢はいまや約67歳に達しています。2000年に230万戸だった販売農家(※)は、すでに2015年の段階で130万戸まで減っていて、2025年までにさらにその半分になるとも言われています。ただ、食料の自給等を考えると、農地をむやみに減らすわけにはいきません。だから一部の担い手農家が毎年10%や20%も経営規模を拡大せざるを得ず、大変な負担になっています。そうした危機的状況を脱するのに、スマート農業は重要なカギになると考えています」。(木下さん)

※商品生産を主な目的とする農家(耕地面積30a以上。または農産物販売額50万円以上)

そこでクボタは、スマート農業の一環として、農業機械の自動運転化や無人化に着手。そうして2016年に晴れて市場投入されたのが、GPSによる直進キープ機能を内蔵した田植え機だった。本来、田植え作業は熟練技術による高い精度が求められるが、この田植え機を使えば未熟練者であっても簡単にまっすぐ植えられる。また熟練者も、直進運転をキープするストレスから開放される。


未経験にも関わらず、農作業が滞りなく行えた

その後2018年までに、トラクターとコンバイン(※1)においても、同じくGPSを利用した自動操舵機能や自動運転アシスト機能を持つ製品を発売。そして2017年には、無人自動運転機能のついたトラクターのモニター販売もいち早く開始した。これにより、近傍で人が監視していれば、無人のトラクターを圃場(※2)で走行させることが可能になった。まさに『下町ロケット』で見たあの光景だ。

※1 農作物の刈り取り・脱穀・選別を行う農機具
※2 農作物を育てる田んぼや畑のこと

左)GPSを利用した直進時自走操舵機能が付いているため、熟練した技術がなくても難易度の高い田植え作業が高精度で行える
右)現在、クボタが実現化している“レベル2”の技術では、人が近くで監視した状態での農機の無人走行が可能。写真のように一方に人が乗って作業し、並行して無人機が作業するということも可能

現在、国内には自動運転農機を販売している企業がクボタを含め4社あるが、開発レベルや販売規模においてクボタは他社を大きくリードしている。そこにはさまざまな要因があるだろうが、同社が大きな強みとしているのが営農者への寄り添い方と、探究心だ。

「田んぼや畑というのは、同じように見えても1枚1枚の状況は本当にさまざまです。土質、耕した深さ、水分の量等々で、作業環境は大きく変わります。その中できちんと性能を発揮し長く使えるようにするには、北は北海道から南は沖縄まで、実際に土地土地に足を運びどんなニーズがあるのかを集約し、最大公約数を導き出す必要があります。技術者がそうした探求の労を怠らないという部分に関しては、弊社は確固たる自信を持っていいのかなと思います」。(木下さん)

実際にクボタのロボット農機を使うユーザーからは、こんな反響が上がっているという。

「農業高校を卒業されたばかりの方から『いざ農作業を行うのは大きな不安がありましたが、ロボット農機がほとんどの作業をやってくれるのを体感し、不安は一掃されました』という声をいただいた時は、これはメーカーとして本当にやってよかったと感じました」。(木下さん)


農業ロボット化3ステップの“レベル2”に到達

農林水産省は、農機のロボット化に関して3段階のレベルを定めている。レベル1は、人が農機に乗った状態での自動操縦。レベル2は、人が近くで監視した状態での自動化・無人化。そしてレベル3が、完全無人化。つまりクボタが現在立つのが、レベル2の地点ということになる。

「残念ながら、すぐにレベル3が実現するという状況にはまだありません。まずはレベル2の普及が喫緊の課題です。それには無人自動運転機能付きトラクターの価格を、営農者のみなさんが魅力に感じてもらえる価格にまで抑える必要があります。それをクリアしながら、公道を自動走行するための規制緩和や、遠隔監視を可能にする5Gの通信環境、自動走行に必要な3Dマップといったインフラの早急な整備を行政に期待しております」。(木下さん)

そうしたさまざまな課題をクリアし、いざレベル3が実現した時、そこにはどんな世界が待っているのだろう。今回伺ったお話を元に、決して夢物語ではない、現在の技術の少し先にある農業の近未来を描いてみた。

……定時になるとロボット農機が自動で倉庫を出発し、田んぼに向かう。到着するや、耕うんや田植え、稲刈りなどの作業をオートマチックに行い、人間はその進捗を事務所のモニタでチェックする。そして定められた作業が終わると、また自動で倉庫に戻る。もちろんロボット農機は複数台での稼働が可能だ。暗くても動けるので、時には夜通しで作業する。

左)ドローンを利用した農薬散布は、既に急速に普及し始めている。これまで人が1日かけていた作業を、これなら1時間ほどで終えることも可能に
右)こちらも既に始まっている、ICTサービス「KSAS(ケーサス)」(Kubota Smart Agri System)。農機などから得たビッグデータを元に、最適な作業内容を導き出してくれる

農業が憧れの職業になる日がやってくる

また、重労働だった草刈りはラジコン機が、農薬散布はドローンが担う。人力で行われてきた田んぼの水位調整は、遠隔水位管理システムにより、最適な水位に自動調節される。さらには、クボタが現在進めるICTを利用した営農支援サービス・KSAS(ケーサス)もより進化し、それぞれの農機から収集された大量のデータを元に、施肥量や施薬量、生育予測、病害虫の警戒情報、最適作付計画などが自動で弾き出される……

こうして農業は、たとえ高齢で重労働が難しくても、たとえ経験や知識が乏しくとも、少ない労力で効率よく、高い収益を上げられる産業となる。これらが本当に実現した時、農業とはどんな位置づけになるのか。木下さんからは、こんなワクワクする言葉が聞かれた。

「“キツイ”というイメージがなくなり、農業は今より断然、魅力あるものになっているのではないでしょうか。それこそ長者番付ではないですが、人が羨むような収入を得ていい生活を送る生産者も出てきて、『私も農業をやりたい』という人が増えるでしょう。そして、日本が先がけて直面している農家の高齢化や離農の問題は、他国にとっても目前に迫った問題です。いま我々が切磋琢磨して磨いている技術がいずれグローバルに採用され、世界の食料需給をも支える力となる日がくるのではないかと信じています」。(木下さん)

関連サイト
クボタ オフィシャルサイト: https://www.kubota.co.jp/
クボタ プレス:https://www.kubota.co.jp/kubotapress/index.html 

下町ロケット オフィシャルサイト:https://www.tbs.co.jp/shitamachi_rocket/

執筆:田嶋章博、撮影:森カズシゲ

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