「モテるオヤジ」「ちょい不良(ワル)」「必要なのは“お金じゃなくてセンス”です」。
そんなパワーワードとともに、アッパーミドル層から高い支持を集め続ける男性誌『LEON』。発行するのは株式会社主婦と生活社(京橋三丁目)。2020年は、創刊20年目にあたる。
実は同誌に載った商品は、不思議なほどよく売れるという。「弊誌には、ネット検索ではおいそれと出てこない情報を発信する土壌があります」と語る石井洋編集長に、LEONが“値段以上の価値”をどのように生み出しているのかを聞いた。
反発があったからこそ、人を変えられるものが生まれた
LEONが創刊したのは2001年9月のこと。ほどなくして石井さんも、同誌の制作スタッフに加わった。以降現在まで、妹雑誌『NIKITA』(現在は休刊)に携わった数年を除き、石井さんはLEONの制作に携わってきた。同誌の歴史を現場目線で俯瞰できる貴重な存在だ。
「創刊準備号では“銀座クラシコ”のような今より堅めの特集をしていましたが、数ヶ月の後、『モテるオヤジの作り方』という特集が組まれました。それが意外なほど大きな反響を呼び、以降はその路線が定着していきました。とはいえ、それまでラグジュアリー業界ではこうした砕けたテイストを打ち出す雑誌は皆無で、いわば“モテ”と“オヤジ”は禁句の筆頭でした。だから反発も大きいものがありまして……。
たとえば編集部には『オヤジとか言って、ふざけんなよ』『ナメてんのか?』といったクレーム電話が頻繁にありました。またブランド側からも、その打ち出しでは服を貸せないと言われたり、企画が通らず何度も企画書を書き直したり。でも今振り返れば、反発が大きかったのは、新しい価値観であることの証だったんだなと。反発を受けながらも貫いたからこそ、人や世の中を変えるものが生まれたんだと思います」。
そうして新たなシーンを果敢に開拓したLEONは、またたく間に多くのファンを獲得。同誌が発信した「ちょい不良オヤジ」などの刺激的でどこかコミカルなワードは、一世を風靡した。2005年にはドキュメンタリー番組『情熱大陸』で当時の編集長・岸田一郎氏が取り上げられ、同年の新語・流行語大賞でも「ちょいモテオヤジ」がトップテンに入った。
「これはすごいところまできたなと思ったのが、あの『笑っていいとも!』に“ちょい不良オヤジコンテスト”というコーナーができたときでした。また近所の雑貨店に行ったら、“ちょい不良”という文字が入った100円ライターが売られていたこともありました(笑)」。
1000万円のブレスレットを、その場でカードを切って購入
ブームに呼応し、LEONに載った商品も売れに売れた。可処分所得の多い富裕層をターゲットにした雑誌ということもあり数十万円、数百万円の高額商品が少なくないが、同誌に載ることで大きな付加価値が付き、高額でも次々売れていったという。
「トゥールビヨンという構造の3000万円近くする腕時計を速報で紹介したところ、予約が殺到したことがありました。弊誌主催の読者イベントでは、有名ブランドの1000万円以上するブレスレットを、目の前でクレジットカードを切って購入された方や、2300万円ほどの高級車を気に入り、後日買ってくださった読者さんもいましたね。そうしたことが本当に日常的に起こっていたんです」。
LEONに載ると、商品が売れる。その方程式は確固たるものとなり、一流ブランドやメーカーからの広告出稿が相次いだ。今では2000年代半ばのブームは落ち着き、LEONのそうした特異性もあたりまえのものとして世に認識されているが、本質は今も変わらないという。
「一定以上の広告収入があるため、何十万部と売らなくても雑誌が成り立ちます。利益効率では、数ある男性誌の中でもトップクラスなのではないでしょうか。もちろん19年間の全てが順風満帆では決してなく、紆余曲折もいろいろありましたが、雑誌の基本的な構造は変わっていません」。
ラグジュアリー層に初めて本音で対峙した
では、そうしたLEONの本質は、どのように形作られたのか。石井さんは淀みなくこう語った。
「ターゲットである可処分所得の高い男性読者に、本音で対峙したこと。これに尽きるのかなと思います。それまでこうしたラグジュアリーな商材を扱うメディアでは、美辞麗句を並べて紹介するのが常でした。“至高の●●”だとか“■■の優越”とかですね。悪いことだとは思いませんが、それでは本音は見えてこない。
そこをLEONでは、ストーリーを通して付加価値を付けたんです。たとえば60万円のスーツを勧めるのであれば、物の素晴らしさを紹介するのは当然として、それを着て何をするのか、どこに行くのか、着ることでどんな気持ち良い体験を得られるのか。それをぶっちゃけ話でブレずに書き続けたことが、他のメディアとは違うところなのかなと」。
だからこそ読者は、たとえ高額な商品であっても、それ以上の価値を見出せる。ネット検索ではそうそう得られない情報に、たどり着くことができる。
「たとえ1000円でも高いものは高いし、1000万円でもそれ以上の価値を感じられれば安いですよね。だから肝心なのは、商品の値段以上の価値を提示すること。どんな商品であれ、ダサいなどと切り捨てることは絶対になく、いいところを探して探して探しまくります。それは素材にあるのか、サイズ感なのか、あるいは雰囲気なのか。自分で着てみたり、人に着てもらったり、使い方をアレンジしてみたり。
そうやって見つけたいいところをみなさんにお届けすることこそが、僕らの仕事です。そして、そのために必要なアウトプットが“モテ”であり“ちょい不良”なんです。言葉遊びとしての言葉が先にあるわけでは決してなく、みんなに伝えたい価値がまずあって、それを読者のハートにしっかり“刺す”ために、あえて砕けた言葉を使ったりベールに包んだりするんです」。
雑誌の制作現場ではページ作りの一部を外部スタッフに任せることが珍しくないが、LEONではそうした“丸投げ”は一切行わず、全てのページを社内の編集部員が担当してLEONの流儀に沿いページを作り上げる。そして各ページの内容は、担当編集者を通して石井編集長が丹念にチェックし、納得がいくまで内容を練り上げていく。こうしてLEONとしての純度を高く保ったまま、雑誌ができ上がる。
ある意味、メディアが本来やるべきあたりまえのことを愚直にやり続けているだけともいえるが、やれといわれてできるものではない。やり続けるには大きな労力が伴うし、結果が欲しければ欲しいほど、打算的に“置き”にいきたくもなる。そんななか同誌は、その精神的な純度をどう保っているのか。
「逆説的にはなりますが、キモは『変わること』にあると思います。根っこの大切な部分は残しつつ、変わることを恐れず、逆に面白がっていくことではないでしょうか」。
ゾクゾクするものに出会い続ける最大の秘訣とは
そんな想いをページにそのまま表現したのが、2020年2月号に掲載した「アナタと『変わる!』」という所信表明だ。
「変わることって本来、肯定的なことだと思うんです。そして何かを始めるのに、歳を取りすぎているということは決してない。感性さえ働いていれば、いくつになっても新しいことは始められる。自分はそこに対しては、絶対にまっすぐいこうと決めています。ものを斜めから見て、俺はそれはないかなー、とか言ってやらないのが一番イヤなんです。
だから、本当に節操ないねと言われても、心が動いたら何でもやっていく。スキーが好きだし、スノボも楽しいよね、車も時計も欲しいし、今週末はあの話題の映画を観に行こう、と。やってだめなら、普通に退けばいい。そうやって何歳になっても感性を凝り固めずゆるゆるに保っておけば、ゾクゾクして人に勧めたくなるようなものに巡り会える機会が圧倒的に多くなると思うんです。自分もそうありたいし、読者の方々もぜひそうあって欲しいという想いを込め、あのページにしたためました」。
経済力のある“オヤジ”たちが元気になりお金を使えば、日本経済が大きく活性化する。「だからLEONは、経済活性化マガジンでもあると思っています」という石井さん。LEONはこの先も日本のオヤジを元気にする強力なツールとして、本音で熱く、“感性ゆるゆる”であり続けることだろう。
関連サイト
LEONオフィシャルサイト: https://www.leon.jp/
買えるLEON_公式オンラインショップ: https://kaeruleon.jp/store/top.aspx
執筆:田嶋章博、撮影:鈴木智哉