〈むかしみらい〉 地元企業物語
Campany's story in our town

|2020.09.17

withコロナ時代でも愉しめる新たな「旅」の可能性をVRで拓く──ANAセールスの取り組み

飛行機や鉄道を利用し、遠方へと旅をする。そんな愉しみも、新型コロナウイルスの感染拡大により、気軽には実施できない状況が続いている。そこで旅行業界を中心に模索されているのが「新しい生活様式」に対応する、新たな「旅」の形だ。

そのヒントを示してくれるのが、ANAグループの旅行会社、ANAセールス株式会社(本社:中央区日本橋)が提供する「ANA VIRTUAL TRIP」である。コロナ禍以前から提供されていたが、新たな「旅」の実現を可能にするサービスのひとつとして現在、さらなる注目を集めているという。

ANA VIRTUAL TRIPの概要や可能性、そして担当者が抱く「旅」への想いについて話を伺った。


VR技術を用い臨場感あふれる“旅行体験”を提供。ユーザビリティの良さも魅力的

まずはANA VIRTUAL TRIPについて、簡単に説明しておこう。このサービスは、さまざまな事情で旅行に行くことが叶わない人を対象に、VR(仮想現実)技術を用い「疑似的な旅行」を愉しんでもらうことを目的として、ANAセールス株式会社とリコージャパン株式会社、ナーブ株式会社の3社が2018年3月にスタートさせたものだ。

主な使用ツールは、リコーの360度カメラ(RICHO THETA)と、撮影した写真を再生するナーブのVRゴーグル(CREWL)。旅行前に貸与されるこれらのツールと専用のスマートフォンを介し、360度カメラで撮影された旅行中の景色を、自宅など離れた場所にいる人が装着したVRゴーグルへリアルタイム投影することで、あたかもその場にいるような感覚が得られるという。

旅行者に事前貸与される360度カメラ(写真右)と専用のスマートフォン(写真左)。写真の送受信やビデオ通話などの通信費は、利用料(4日間で税込み7,980円/現在は3,980円で提供中)に含まれている

さらに、単に写真を見るだけではなく、同時にビデオ通話が可能になっている点もANA VIRTUAL TRIPの大きな魅力といえる。旅先の景色に加え、旅行者の顔を見ながら会話をすることで、離れた場所でも一緒に旅を共有できるわけだ。

「ご高齢のお客様ですと、ご家族でツアーのご予約をいただいたにもかかわらず、健康面の不安などから、自分だけキャンセルせざるを得ないというケースが少なくありません。そうしたお客様に、同行は叶わないまでも、一緒に旅を愉しんでいただきたいという想いから生まれたのがANA VIRTUAL TRIPでした」(旅行事業本部 コミュニケーション事業部 マーケットコミュニケーション部 販売企画課/岡安ちさとさん)。

左)セットしたスマートフォンで受信した写真が、VR同行者のVRゴーグルに投影されるしくみになっている
右)VRゴーグル越しに見えている風景のイメージ。被写体と一緒に撮影者(旅行者)の顔もカメラで記録され、ワイプ画面に映し出される(画像提供:ANAセールス株式会社)

このようなサービスの開発経緯もあり、ANA VIRTUAL TRIPはユーザビリティにも十分な配慮がなされているという。

「シニア世代でも戸惑うことがないよう、操作をなるべくシンプルにしています。VRゴーグルを使うと聞いて、難しい操作が必要と思われるかもしれませんが、実際には電話をかけたり受けたりするのと、ほぼ同様の手順でやりとりをしていただくことが可能です。360度カメラの撮影手順も、普通のデジタルカメラと変わりません」。

筆者も実際に体験させていただいたが、VRゴーグルに投影される景色は予想以上に臨場感満点。ゴーグルをのぞく顔の動きに応じて景色も上下左右に動くため、静止画とは思えないリアルさを感じることができた。

「VRの世界は日進月歩ですから、2018年3月時点の技術という点では、必ずしも最新とはいえません。その一方でANA VIRTUAL TRIPに用いられている技術やツールは、ある程度の時間を経ることで、操作性を含め“こなれた”ものになっているともいえます。レスポンスの向上や動画対応など、5Gの普及を視野に入れた課題もありますが、シニア世代を含め誰もが簡単にVRを体験できるという点ではニーズに応えられていると、現状では考えています」。

ANAセールス株式会社 旅行事業本部 コミュニケーション事業部 マーケットコミュニケーション部 販売企画課/岡安ちさとさん。「お客様との会話をもとに、今後もサービスを磨き上げていきたい」という

コロナ禍で“再発見”されたANA VIRTUAL TRIPがもたらす「旅」の可能性

そんなANA VIRTUAL TRIPを取り巻く状況も、2020年初頭以降に大きな変化を迎えることとなった。原因はもちろん、新型コロナウイルス感染症の世界的流行である。

「特に非常事態宣言の発令中は、弊社の核となるツアー自体が、ほぼ実施できない状況になってしまいました。当然オプションサービスであるANA VIRTUAL TRIPも、開店休業状態だったといえます」。

飛行機や鉄道を使って遠くに旅することができないなら、ANA VIRTUAL TRIPの価値も失われてしまうのではないだろうか……。そんな戸惑いを打ち消してくれたのは、とある高齢者向け施設からの問い合わせだった。

「旅行はもちろん、外出さえままならない状況にある入居者の皆さんが気分転換できるソリューションとして、ANA VIRTUAL TRIPを使うことができないだろうか? というお問い合わせをいただいたんです。具体的には、施設の職員が皆さんの代表として外出し、近隣の風景をレポーターのように中継して届けたいというものでした。実施したところ、大変喜んでいただけたと伺っています。『旅』とは遠方に行くことであり、ANA VIRTUAL TRIPは日常では観ることができない観光地の景色を共有するものである、と考えていた私たちにとって、施設の方から頂いたご提案は、文字通り想定外のものでした。コロナウイルスの影響によって旅行の形が問い直されているなか、たとえ身近な場所であっても、工夫次第で『旅』を感じていただくことを可能にする、ANA VIRTUAL TRIPが持つポテンシャルを再発見できたのです」。

現時点で具体的な企画は実現していないが、施設とのコラボレーション以降、さまざまな企業や団体からANA VIRTUAL TRIPの活用に関する問い合わせを受けているそうだ。

北海道からこちらへ転勤して間もないという岡安さん。日本橋・京橋エリアが持つ「人と人との距離感」に魅力を感じているとのことだ

「ANA VIRTUAL TRIPは基本的にB to Cのサービスとしてスタートしましたが、今後はB to Bも視野に入れた『旅』を軸とするサービス展開ができないかと考えているところです。遠方へ行くことだけでなく、人々をつなぎ想い出を紡ぐこともまた『旅』なのだとすれば、移動の制限が続く現在でも、ANA VIRTUAL TRIPによって、多様で新しい『旅』をご提供できるのではないでしょうか」。

たとえば、北海道から沖縄まで日本全国の人々をつなぐといった、航空会社系列の旅行会社ならではの活用はもちろん、ANAセールスが本社を置く日本橋・京橋エリアのヴァーチャルな街歩きイベントなど、ANA VIRTUAL TRIPがもたらす「旅」の可能性は、コロナ禍にあっても幅広いことだろう。今後の取り組みに、一層注目していきたいところだ。

関連サイト
ANA VIRTUAL TRIP: https://www.ana.co.jp/ja/jp/travel/vr/anavirtualtrip/ 

執筆:石井敏郎、撮影:鈴木智哉

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