〈さんかする〉イベントレポート
Event report

|2018.08.23

「好き」はすべての原動力 「好き酒師」に習う、心地いい空気感の“醸造”法

ダイアゴナルラン東京のバーカウンターにて、寺澤晶子さん(左)と仁志田裕さん(右)。「好き酒師」とは仁志田さんが考えた肩書で、大好きな日本酒を広めたい人を指す

「創造性とは、物事をつなぐことだ」。Apple創業者のスティーブ・ジョブズの言葉である。
近年、コミュニティ創出の場としてのコワーキングスペースが次々に開設され、他者との交流で得られる刺激と成長への期待は大きい。しかし蓋を開けてみれば、机と空間をただシェアするだけ。交流イベントも“その場限り”感が否めず、「当てが外れた」「何から手を付ければいいかわからない」と思っている人も少なくないかもしれない。

今回、八重洲のコワーキングスペース「DIAGONAL RUN TOKYO(以下、ダイアゴナルラン東京)」で開かれている人気のコミュニティイベント「MONTHLY SAKE CAMP」を取材して感じたのは、コミュニティをつくることに頭でっかちになる前に、“自分たちが心から楽しめるまで試し続ける”ことが、実は一番の近道なんじゃないかということ。MONTHLY SAKE CAMPを運営する、ダイアゴナルラン東京のコミュニティマネージャー・寺澤晶子さんと、2018年秋に日本橋に新東京オフィスを開設する株式会社イトーキ(東京都中央区)の社員で、「好き酒師」という2枚目の名刺を持つ仁志田裕さんのインタビューを読んで、皆さんならどう思うだろう。

イベントづくりからコミュニティづくりへ

——MONTHLY SAKE CAMP立ち上げの経緯と運営の強み

寺澤 ダイアゴナルラン東京は、ふくおかフィナンシャルグループが「東京と地方を結び、新たな可能性を開いていく」ことをコンセプトに、2017年4月に開設したコワーキングスペースです。東京駅から徒歩5分と、交通アクセスは抜群なのですが、ビルの4階という視認性の悪い立地。そのため、地方や働き方、ベンチャーといった、ここの場所にふさわしいフックでイベントを企画し、ひとりでも多くの人にダイアゴナルラン東京へ来てもらって知ってもらうことが、私たちコミュニティマネージャーの最初のミッションでした。私が注目したのは、大好きな日本酒の地域性。過去には、150~200人規模のアートイベントも手掛けてきましたが、イベント運営の難しさは、規模よりもむしろどれくらいの頻度で続けていくのかにあります。間隔が空きすぎるとコミュニティは育ちませんし、かといって短いスパンでの開催は主催者の負担が大きい。企画当初、2回目以降が具体的に決まっていたわけではありませんでしたが、自分の感覚を信じて、えいやっと「MONTHLY SAKE CAMP」と名付けちゃいました(笑)。

仁志田 毎回、特定の地域をテーマに僕らがセレクトした日本酒を愛を持って伝えるのが、SAKE CAMPならではの良さだと自負しています(笑)。2018年7月開催の今回でVOL.8となりますが、初めのうちはバーカウンターで開催していたので、12人限定のイベントでした。途中から定員以上の申し込みが続き、一面芝生のイベントスペースへ。とはいえ今後も、参加者全員と話せる規模感は大切にしたいですね。また、1回のイベントで提供できる日本酒の本数には限りがあるため、本番前には、“推しの日本酒”をスタッフが互いにプレゼンし合って、ラインナップを決めています。僕が「好き酒師」を名乗る理由もまさにそこにあって、「利き酒師」という形式的な資格者だったり、ビジネスと絡んだお薦めだったりするのではなく、素人だからこそ、自由な発想で大好きな日本酒を追求できる部分もあるし、日本酒のエバンジェリスト(製品やサービスを分かりやすく伝える専門家)にもなり得ると思うんです。

左)右側の庄林優貴さんを含め、好き酒師の肩書きを共有するメンバーは現在3人
右)好き酒師が自信を持って推す、SAKE CAMP Vol.8「ネオ新潟」の6本

柔軟かつ流動的な性格のコミュニティ

——どうすれば、コミュニティが活性化し続けるのか

寺澤 日本酒は、世間一般的にはまだまだ敷居が高いと思われがちですが、リピーターが半分、新規の人が半分のバランスでSAKE CAMPの参加者が集まり続けているのは、想定以上の出来。イベントアプリ「Peatix」のキーワードやカテゴリ検索といった機能を使って、日本酒に対する関心や、「仕事帰りにちょっとのぞいてみようかな」というその日の気分を入り口に来てくださる人が多いですね。また、ダイアゴナルラン東京の入居者さんがほぼ毎回参加されているのも、とても望ましい状況だと感じています。実は、限られたメンバーのコミュニティをつくることはさほど難しくないんです。その点、SAKE CAMPは身内感もありつつ身内過ぎず、理想的なコミュニティに育ってきているといえるのではないでしょうか。

仁志田 ふらりと立ち寄ったという人は、八重洲や京橋、日本橋などに勤める人が大半。僕自身も秋からはこの街のワーカーです。オフィス街には、どちらかといえば接待や会食向けの飲食店が多いですが、お酒の楽しみ方にはもっと多様性があってよい気がしていて、イメージにあるのは、仕事帰りに軽くお酒を飲みながら参加できるカンファレンスやコミュニティ性の高いミートアップの場。僕は本業で、オフィス空間をメインに、人の集う空間づくりを行っているものですから、SAKE CAMPについても誰もが参加自由なオープンなイベントにしたいという思いが強くありました。イベントは、開催そのものが目的ではなく、「ここにくると、人脈や情報が広がる」というように、ダイアゴナルラン東京という“場”の価値を高めるコミュニティ形成が目的なんです。ですから、SAKE CAMPに堅苦しさは一切なし。参加者目線で、日本酒にちょっとだけ詳しい友だちの飲み会に飛び込み参加するような感覚を大切にしています。

左)ダイアゴナルラン東京の壁を埋める入居企業のロゴは、寺澤さんたちスタッフによって一つひとつチョークで手描きされている
右)イベント参加者の輪に入り、率先して会話を振る寺澤さん

自分にとって重要であること、楽しむこと

——新しい発見がある、今どきの飲みニケーション

寺澤 家と会社の往復だけの、マンネリな毎日を変えたいと思っている人は多いと思います。それでいて、シャイで集団主義的なところも持ち合わせているのが日本人の厄介なところ。あまり好きな表現ではないですが、昔からよくいわれる「飲みニケーション」が意味するように、お酒を飲んでリラックスする時間は実際のところ会話が弾みますよね。そして、心の壁をとっぱらって考えたり話したりする中から新しいアイデアが生まれてきます。それでも、もしもSAKE CAMPでポツンとしてしまうことがあったら、裕(仁志田さん)と私の出番(笑)。そっと後押しします。コミュニティに“楽しさ”は不可欠な要素なんです。

仁志田 僕らがつくりたいのは、日本酒に詳しい人もそうでない人も自由に楽しめるイベントです。産地を象徴する味もあれば、若手蔵人による個性的な味もある、バラエティに富んだ日本酒のラインナップのほか、酒器で変化する日本酒の味わいを楽しんでもらったり、最近では、酒粕とシロップを混ぜてつくったソースをかけたかき氷を提供したりもしました。「どうか、皆さんの心のフックに何かしら引っ掛かってくれ」と毎回試行錯誤ですが、それもまた楽しいんです(笑)。参加者の皆さんにも楽しみをぜひ発見してもらい。たとえば、この近くにはたくさんのアンテナショップがありますので、日本酒と同じく県縛りで、ベストオブ酒のつまみを探し当ててみるというのはいかがでしょう?

SAKE CAMP Vol.8の参加者は、30代を中心に20代から50代までの各年代計21人。男女比は約半々

周囲を巻き込みながら、一緒に成長する

——心理的距離も物理的距離も軽々と飛び越える

寺澤 裕もさきほど少し触れましたが、自分たちでセレクトした日本酒を愛を持って伝えることで、「日本酒を好きになるって、素敵だな」と思ってくれる人が増えることが何よりうれしい。テレビ番組の『アメトーーク!』が好例ですが、いかにそれが好きかを語る芸人の皆さんは何とも幸せそうで、たとえ自分がそのテーマに造詣が深くなくても観ていて気持ちがいいですよね。好き酒師はもちろんのこと、SAKE CAMPではその回の出身県の皆さんの盛り上がりは必至で、「日本酒×地方」はもしかしたら最強のテーマかもしれません(笑)。

仁志田 「ネオ新潟」をテーマにお届けするSAKE CAMP Vol.8。新潟の日本酒は一般的には淡麗辛口として有名ですが、それにとどまらず多様な進化を遂げている新潟の酒の“今”を皆さんに知っていただくため、新潟とSAKE CAMPの会場をビデオ通話でつなぎ、若手の蔵人や地元の酒屋主人たちと画面越しにお酒を飲み交わします。ゲストとして蔵元さんを招いて行われるイベントはよくありますが、生産地と消費地のリモート飲み会は世界初?(笑)。お酒の進み具合によっては、オフレコな話も飛び出すでしょうし、「ゆるさ」や「自由さ」がSAKE CAMPのウリでもあるので、かしこまって日本酒のウンチクを語るのではなく、日本酒に対する情熱、夢をほろ酔いで語るうちに、思いがけないアイデアが降ってくるかもしれませんよ。

新潟酒会を盛り上げる酒屋の若きホープ、「新潟亀田 わたご酒店」2代目店主・寺田和広さんの働きかけで「ネオ新潟」を表現する蔵人一同の顔が揃った(左・投影映像)

MONTHLY SAKE CAMPのこれからと個人目標

——自由な働き方や自分らしい生き方を後押しする

仁志田 僕は、健康的で生産性の高い働き方を生み出すオフィスをつくり、理想的なワークライフバランスを実現するのが仕事です。もっと言えば、「自分の働き方そのものがお客様への提案材料になる」という特殊な仕事。好き酒師という社外活動を通じて、社内外問わず人とつながり、大好きな日本酒を広めていくことが、僕なりの体現だと考えています。具体的には、好き酒師の肩書を共有するメンバーを拡大させていって、ダイアゴナルラン東京を拠点に日本酒を広めたい人が集まるコミュニティをつくりたい。それで、再開発が進むこのエリアの盛り上がりの一端を担えればうれしいです。

寺澤 ダイアゴナルラン東京のコミュニティマネージャーとしては、今は、自分がハブになってしまっているので、今後は、入居者同士の積極的な関わり合いが見られるよう、もう少し後押しを続けていきたいと思います。SAKE CAMPの運営者としては、日本酒でも地域でも、食でも器でも、参加者の皆さんに自分の好きなものをひとつ見つけてほしい。その“好き”が、人生を楽しく豊かにしてくれるはずですから。

<SAKE CAMP Vol.8「ネオ新潟」ラインナップ>
越乃寒梅 / 越後鶴亀 山廃純米吟醸 / 笹祝 純米生モト にごり / 願人 山廃純米 / 山城屋 純米大吟醸
たかちよ セブン / 久保田 純米大吟醸 / 久保田 雪峰


<MONTHLY SAKE CAMP概要と8月の開催案内>
MONTHLY SAKE CAMPとは、毎回違う地方に焦点を当て、その土地のお酒を楽しむことはもちろんのこと、そのお酒がつくられたストーリーやつくり手の思い、お酒の楽しみ方なども含めた「日本酒という文化」をまるごと愛してもらう空間です。

▼VOL.9のテーマは「愛知県」
愛知県、と聞いて日本酒を思い浮かべる人は多くはないかもしれませんが、愛知県も実は歴史ある酒造が多く存在しており、爽やかでフルーティな飲み口のものから燗映えするものまで、それぞれ特徴のある日本酒が盛んにつくられているお酒どころです。今回は、愛知県のお酒に焦点を当て、じっくりと愛知のお酒を知っていただく会にしていきます。また、今回の開催は8月31日(金)。平成最後の夏の終わる日。夏らしい日本酒の楽しみ方も提案しながら、ちょっとセンチメンタルなひとときをご一緒できればと思います。

▼当日のラインナップ(予定)
醸し人九平次(CAMARGUEに生まれて、) / 義侠えにし28BY / 二兎(純米 生原酒) / 菊鷹humming bird / 長珍 など(仕入れ状況などにより変更になる可能性がございます)

▼お食事について
今回もお食事は皆様の持ち寄りとさせていただきます。500〜1,000円程度のおつまみをお持ちくださいませ。

▼イベント日時について
イベントは、8月31日(金)19時30分開始です

▼参加費
2,500円(お酒はこちらでたっぷり用意します。料理は持ち寄りです)

▼MONTHLY SAKE CAMP VOL.9 -愛知県- イベントページ
Facebook: https://www.facebook.com/events/247918352725354/
Peatix   : https://sakecamp9.peatix.com/

関連サイト
ダイアゴナルラン東京: https://diagonal-run.jp/

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