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〈さんかする〉イベントレポート
Event report

|2020.12.22

オフィス街で写真と出会う「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2020」

新型コロナウイルス感染症一色と言っていい2020年が終わろうとしています。3密回避で会いたい人にも会えず、行きたい場所へも行けず、そんな中で自分自身の内面と向き合う時間が増えたという人も多いのではないでしょうか。

2020年最後のイベントレポートで取り上げるのは、2020年12月4日~13日に実施された「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2020」(主催:一般社団法人TOKYO INSTITUTE of PHOTOGRAPHY)です。2017年に上野公園で東京初の屋外型国際写真フェスティバルとして開催された本イベントは今年、コロナ禍の逆境を逆手に、公共空間をより創造的に活用するとともに、鑑賞者にとっては作品を見ていま自分が何を感じ、何を考えるか? つまり、コロナ禍を経験した人生からの視点を構築するヒントを提示するものとなりました。

左)①企画展「Jumping Between The Codes -変容のはざまから-」
右上)②第7回 東京国際フォトコンペティション受賞者展「Turbulence」
右下)③T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO PRE 2019 学生プレゼンテーション受賞者展「mamono,2020」

アメリカの社会学者リチャード・フロリダが、都市の繁栄に必要な条件として挙げた3つの要素、「才能(Talent)」「技術(Technology)」「寛容性(Tolerance)」にちなんだ「T3」を冠するフォトイベント「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」(以下、T3)。多様な価値観を認められる都市の在り方を東京から提示するための、共通言語としての「写真」を公共空間に展示することで、アートや写真とは無縁だと思っている人にも、そこに見える世界を見つめ、その背後にあるものを読み取ってもらいたい、そんな想いが込められています。

2020年のT3は展示とオンラインイベントによって構成され、展示企画は、①企画展「Jumping Between The Codes -変容のはざまから-」、②第7回 東京国際フォトコンペティション受賞者展「Turbulence」、③T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO PRE 2019 学生プレゼンテーション受賞者展「mamono,2020」の3つ。本稿では、東京駅へもほど近いオフィス街・京橋の複合ビル「東京スクエアガーデン」の公開空地で行われた①企画展を中心にレポートします。

左)都心にありながら緑豊かな東京スクエアガーデン
右上)岡田将《無価値の価値》
右下)髙木美佑《きっと誰も好きじゃない。》

公開空地とは、オフィスビルの足元など民有地内における自由通行や利用といった一般に開放された空地のことを指し、コロナ禍を機にその可能性があらためて見直されています。そのひとつのアプローチとして、都会で働く人が1日の大半を過ごすオフィスビルの、しかも通勤やランチに向かう道すがらの日常の景色の中に、優れた写真作品をおいてみる。それはある意味、オフィスビルで働くことの意義や価値の再認識につながる取り組みともいえるかもしれません。

そして、間違いなく今回、多くの人にインパクトを与えただろう作品の筆頭が、現況を予測したかのような“無人の街”を写した2000年発表の中野正貴氏のベストセラー『TOKYO NOBODY』より、「GINZA」を12メートルに引き伸ばした作品。作品が貼られた壁面の向かいにはお立ち台が設けられており、上に立って銀座7丁目中央通りの先に目をやると、一点の消失点に向かって吸い込まれるような感覚に陥ります。あたかも銀座の街が京橋に出現したかのように錯覚させる展示の仕掛けはまさに圧巻でした。

中野正貴「TOKYO NOBODY」より《Ginza(7th)Chuo-ku Jan.1996》

圧巻と言えばもう1作品、濱田祐史氏の『Primal Mountain』。一晩にして地上にせり上がり、オフィスビルと一体化したような山の存在にまずハッとさせられるのですが次の瞬間、意外にもあっさりその山の正体は判明します。筆者が思う本作の醍醐味は、二度三度と鑑賞してゆく中で積み重なる発見と思考。たとえば、山は変わらずそこにあり続けるものとして語られる向きもあるけれど、本当にそうだろうか。人は自然の何に魅せられるのか。何をもって山と呼ぶのか——。そんなことを考えながら、作品に近づいたり、離れたり、横から見たり、ファインダー越しに覗たりしているうちに、ガラス張りのオフィスビルの特定の位置から作品を見たとき、鏡のように壁面に山が写し込まれ、のびやかな稜線の先を発見できるのです。

濱田祐史《Primal Mountain》

鑑賞者が受動的な受け手にとどまらず、鑑賞者の想像力を掻き立てるような会場を見事にデザインした建築家の平井政俊氏。そんな平井氏が「これ以外考えられなかった」と自信を滲ませた展示を最後にご紹介して、作品の紹介は終えたいと思います。

その作品は、東京メトロ銀座線京橋駅と繋がる「地下駅前広場」に掲げられた宮崎学氏の『けもの道』。ここから上を見上げると、不思議な開放感をたたえた “都会の切り取られた空” と、大地を感じさせる建物外周の植栽をのぞむことができます。そしてやや視線を落とすと、遊歩道を闊歩する動物たちの姿をおさめた写真が。人間社会も自然の一部であることを投げかけてくるようで、この視界に収まる世界の美しさにしばらく見とれたのは、筆者に限ったことではなかったでしょう。

宮崎 学《けもの道》

「動物の目線でこの世界を見たらどんな世界だろう」。人間社会のすぐそばで生きる動物たちの姿を、半世紀にわたり写し続けてきた宮崎氏は、T3オンラインシンポジウムの第4夜「変わりゆく生態系」に、『ソトコト』編集長の指出一正氏と共に登壇。なるほど、人間と自然を分けることもしなければ、山深いところにだけ自然があるとも思っていないから、あのような写真が撮れるのかと腑に落ちて、オンラインとオフラインを行き来する写真の新たな見方、楽しみ方を堪能することができました。

上)東京スクエアガーデンと鍛冶橋通りをはさんで反対側にある京橋第一生命ビルディングでの展示。吉田志穂《測量|山》
下左)会期中の週末、東京スクエアガーデンで行われたフォトマーケット
下右)フォトマーケットと同日開催された地域イベント「京橋マルシェ」

T3の10日間の会期中に開催されたオンラインイベントは、学生プロジェクト(国内10の美大・専門学校で写真を学ぶ学生によるプレゼンテーションイベント)を含め、実に6本。展示に勝るとも劣らない熱量で、様々な分野の専門家が、広告から都市デザインまで幅広いテーマで意見を交わしたオンラインイベントと、一連の展示を総括すると、非常にエキサイティングで楽しい学びを得られたイベントだったということに尽きると思います。

公共空間での展示には制限がつきものです。今回のT3において強く印象に残ったのは、制限の中から生まれたクリエイティビティと、同じ作品でもいつ、どこで観るかによってまるで印象が違うし、自分にとっての意味づけも大きく変わるんだという実感。そして、作品を見て感じたことを人々とシェアしていくことで、際限なく広がっていく世界。多様な価値観を認められる都市の在り方が少しだけ見えたような気がします。

<イベント概要>
会  期:2020年12月4日(金)〜13日(日)
会  場:東京スクエアガーデン、72 Gallery、(仮称)新TODAビル計画 工事仮囲い、京橋第一生命ビルディング 1階
主  催:一般社団法人Tokyo Institute of Photography
共  催:T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 実行委員会
主  管:株式会社シー・エム・エス
協  賛:東京スクエアガーデン、東京建物株式会社
会場協力:株式会社ブリヂストン、戸田建設株式会社、第一生命保険株式会社
イベント協力:Liberal Arts Lab(株式会社ゆめみ)、株式会社POD、株式会社堀内カラー、POETIC SCAPE
後  援:米国大使館、中央区

関連サイト
T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO: https://t3photo.tokyo/

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