新型コロナウイルス感染症の拡大によって、初めての緊急事態宣言が発令されてから1年以上が経ちます。いつ収束するのかわからない状況の中で、閉塞感を感じながら過ごしてきた人も多いのではないでしょうか。
今回のイベントレポートで取り上げるのは、3月19日(金)~4月11日(日)に東京スクエアガーデン他で開催された「Meet with Flowers 花とアートと出会う-京橋・日本橋・八重洲-」(主催:東京建物株式会社)です。
花をテーマにした美術展や期間限定メニューなど、様々なコンテンツが提供された本イベントですが、注目はなんといっても、株式会社RIN(以下、RIN)とのタイアップで実現した、ロスフラワーを使ったインスタレーションでしょう。ロスフラワーとは、規格外であるなどの理由から、まだ美しいのに廃棄されてしまう花のことを指します。それらの花をドライフラワーにして生まれ変わらせる活動を行うRINが、高さ約3メートルものフラワーモニュメントと、街ゆく人々に花をプレゼントしてまわるフラワーカートを制作。気持ちを明るくしてくれる花の力をたくさんの人にシェアしました。
オフィスビルの足元に出現したピンクのロスフラワーモニュメント
東京メトロ銀座線「京橋駅」直結の東京スクエアガーデンは地下4階・地上24階建ての大規模複合ビルで、その低層部には高さ約30メートル、広さ約3,000平方メートルに及ぶ公開緑地「京橋の丘」があります。そんな緑あふれるビルの地下駅前広場に、ひとつ目のフラワーモニュメントは設置されており、ビルの就業者をはじめ、ショップやレストランを利用する人を出迎えていました。
筆者が訪れた日は桜も満開。そよ風に舞う桜の花びら越しに見上げるフラワーモニュメントは、今しか見られない絶景といっても大げさではなく、こぼれんばかりの緑の丘と桜、そして抜けるような青空をも取り込んだフラワーインスタレーションに思わず見入ってしまいました。
地下駅前広場を抜け地上へ上がると、ふたつ目のフラワーモニュメントが。ビルの正面、住宅でいうところの門柱に当たる2本の柱を躯体としたモニュメントは、まるでピンク色の巨大な門松のよう。辺り一帯に晴れやかな雰囲気を演出し、思わず足を止めてスマートフォンを取り出し、写真を撮る人の姿が数多くみられました。
「ロスフラワーの存在をひとりでも多くの人に知ってもらいたい」
午前11時をまわると、どこからともなくフラワーカートが現れ、東京スクエアガーデン1階の貫通通路で花の配布が始まりました。華やかに装飾されたフラワーカートに引き寄せられるように続々と人が集まってきます。この日は平日ということもあり、近隣のオフィスに勤める人が大半。皆さんが口をそろえて質問していたのは「どうして無料で配布しているの?」ということ。それら一つひとつの質問に丁寧に答えるスタッフはまるでロスフラワーの存在を広めるアンバサダーのようでした。
午後2時半近く。ロスフラワーの次の配布場所である日本橋へ向けて、東京スクエアガーデンのある京橋から、フラワーカートが中央通りを通って街中をゆっくり進んでいきます。いつもとは違った光景に、カフェの中から外を覗く人、振り返って二度見する人、フラワーカートをひくスタッフに声をかける人など、おそらく制作者の意図したとおり、街を舞台とした、人々を多く巻き込むインスタレーションとなったのではないでしょうか。
会場の東京建物日本橋ビルは中央通りと永代通りに面した日本橋交差点の角地に位置し、通りには、近隣のビルのオフィスワーカーはもちろん、室町・銀座両方面から来る買い物客や、茅場町方面からは小さな子どもを連れたファミリーなど、様々な人々がひっきりなしに行き交っています。
「廃棄される予定だった花をドライフラワーにして配布しています。よかったらお持ち帰りください」とスタッフ。ミモザ・バラ・エリンジューム・スターチスなど、用意されたドライフラワーは色も品種も豊富で、皆さん熱心に吟味していました。
特に印象的だったのは、「オフィス街にこういう取り組みが生まれているのはいいですね」と笑顔で話してくれた女性たちのグループ。近隣のオフィスに勤めており、配布の様子が気になり休憩時間にふらっと訪ねてきたそう。本イベントの趣旨に賛同したという女性グループ自ら、道行く人に声をかけて配布を手伝う場面もありました。
普段は通り過ぎてしまう場所も、花があると人が立ち止まり、ちょっとした時間を過ごせるすてきな場になる。一連のロスフラワーインスタレーションを通じて、花の持つ力を実感しました。
ふたつの地域イベントともコラボレーション。花を通じて笑顔を咲かせる
毎月第4土曜日に東京スクエアガーデンで開催されているハンドメイドマーケット「アート&クラフト市」では3月27日(土)、「Meet with Flowers」の冠で、かわいらしい花をモチーフにした雑貨やアクセサリーを取り揃えた「Flower POP UP ブース」を出展。午前中にはフラワーカートも登場し、訪れた人たちの目を楽しませていました。
日は変わり、4月10日(土)。フラワーカートの今度の出張先は「日八会さくら祭り」の会場でした。東京駅八重洲北口から茅場町方面へ伸びる「さくら通り」は、文字どおり桜並木が続き、東京駅と日本橋駅をつなぐ通りとして多くの人が利用しています。
通りに面する日本橋プラザビル1階の南広場をメイン会場に、日本橋六之部連合町会青年部商店会(日八会)が主催する「日八会さくら祭り」は毎年恒例の地域イベントですが、残念ながら、コロナ禍で昨年は中止となり、今年は規模を縮小しての開催となりました。しかし、「やるからには訪れた人を楽しませよう」「少しでも街を盛り上げていこう」と、日八会のメンバーや地元企業の社員が徹底してコロナ感染防止の対策を取り、みんなが安心・安全に楽しめるような創意工夫の詰まったイベントに。
そのひとつが、地元の老舗・名店の人気メニューを味わえるテイクアウト販売です。参加店は、「日本橋ゆかり」「割烹 嶋村」「泰興楼」「いけ増」「人形町 多良々」という地元の人やこの街で働く人なら知らない人はいないほどの有名店揃い。中でも、昭和10年(1935年)創業の日本料理店「日本橋ゆかり」は、当日限定の「日本橋パフェ」を販売。店の3代目・野永喜三夫さん考案のパフェに入っていたのは、きんつばやどら焼き、さつまいもにかすてら……、それだけでも十分唯一無二なのですが、スプーンでゆり根をすくい上げたときにはとても驚きました(笑)。
また、祭りの会場で目をひいた赤い布をかぶせた縁台や、さくら通りの街灯のぼんぼり部分に施された装飾は、慶應義塾大学SFC (湘南藤沢キャンパス) の小林博人教授と同教授の研究会に所属する学生たちの手によるもの。若い人が積極的に地域づくりに関わることで、例年の行事に新しい顔ぶれが加わり、より開かれた街となっているようでした。
さくら通りは普段から人の往来が多い通りですが、フラワーカートのマグネット効果はここでも健在。入れ替わり立ち替わり訪れる来場者に花をプレゼントするスタッフの、忙しくも楽しそうな様子につられるように来場者の笑顔も広がり、最終的には約1,000本のロスフラワーが配布されました。
そして、疫病退散の願いも込められた今年のさくら祭りのクライマックスであり一番のメインイベントとなったのが、江戸の町火消しの伝統を今に受け継ぐ江戸消防記念会のパフォーマンスです。2年ぶりに開催されたさくら祭りのお祝いにと、纏振り、梯子乗り、木遣りなどが披露されました。
日本橋周辺エリアには、江戸時代より城下町として栄えてきた長い歴史があります。そこで働く人や暮らす人が花を見、手にして、交流する光景は、たとえ時代や街並みが変わっても、変わらない大切な何かがあることを教えてくれているようでした。
撮影:森カズシゲ ※上から3点目の写真のみライター撮影
<イベント概要>
「Meet with Flowers 花とアートと出会う-京橋・日本橋・八重洲-」
会 期:2021年3月19日(金)~4月11日(日)
場 所:東京スクエアガーデン他、八重洲・日本橋・京橋エリア各所
入 場 料 :無料
主 催:東京建物株式会社
ロスフラワーインスタレーション制作:株式会社RIN
協 力:日本橋桜フェスティバル実行委員会、日八会
会場協力:株式会社永坂産業、公益財団法人石橋財団
イベント協力:ギャラリーこちゅうきょ、京橋 魯卿あん、孔雀画廊、不忍画廊、侘助、アート&クラフト市実行委員会